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8.師弟の共通項と、信頼。







 ――数日が経過して。

 ボクは『リペア・ザ・メモリーズ』に戻ってきた。



「………………」

「どうしました? ライル」

「いや、なんというか……うちの店って、こんなだったかな、って」



 ボクは店の前に立って、見慣れたはずのそれを見上げる。

 あれから五年、必死に守ってきた大切な場所。ただ、いまになって少し見え方が変わってきた気がしたのだった。ずっと修繕に没頭していたとか、そういう理由ではない。

 きっとこれは、ボクの心が変わったから。

 だから、見える景色が違うのだ。



「ここはボクが思うよりもずっと、大きな場所だったんだね」

「…………えぇ、そうかもしれません」



 ボクは少し気恥ずかしくなりつつも、そう口にする。ずっと『自分が守らなくてはいけない場所』と考えていた。だけど、もしかしたらそれは『逆』だったのかもしれない。

 何故なら――。



「だって、ここは――」



 こちらの考えを察したのだろう。

 アーシャは柔らかく微笑みながら、こう言って肯くのだった。



「私たちという『家族にとって、とても大切な家』ですから」――と。





「…………ただいま、コルネ」

「おう。……おかえり」



 ボクたちが店に入るとすぐに、どこか疲れた様子のコルネが顔を出した。

 どうやら、いまも修繕の仕事をしていたらしい。アーシャ曰く、ボクが不在の間ずっと彼がこの店を守ってくれていた、とのことだ。数日前、あんな剣幕で言葉を詰まらせていたのに。それでもコルネは、この場所を選んでくれた。


 そのことがとても嬉しくて。

 ただ同時に、どこか自分を情けなく思えた。

 そんな沈黙がしばらく続いた中で、ボクは覚悟を決める。そして、



「情けない姿を見せて、ごめん。……コルネ」

「………………」



 ゆっくりと。

 しかし、深々と弟子に向かって頭を下げて謝罪した。

 コルネは何も言わない。でも、どこか緊張した息遣いが聞こえる。



「あー……分かったから、頭上げてくれよ」



 すると、痺れを切らしたようにコルネはため息交じりにそう言った。

 顔を上げると、そこには居心地悪そうに頭を掻く彼の姿。こちらから視線を逸らし、しばらく何かを考えるようにしてから、コルネはこう訊ねてきた。



「……覚悟、決まったのか?」

「………………」



 その声はこちらを試すようだが、同時に隠し切れない不安感が満ちている。

 彼はきっと、まだボクを信じてくれているのだ。それでも五年の歳月を経たことで、それは今までにないほどの揺らぎを見せている。

 これは、ボクの背負うべき責任の一つだった。

 コルネという少年に『希望』を示したからこそ、背負うべき責任。それはつまり、彼が口にしたようにボクの『覚悟』そのものだった。だから、



「……ボクはね、コルネ。きっとキミの境遇に、自分を投影していたんだ」



 すべてを賭けてくれた弟子に、ボクも自分のすべてをさらけ出そうと決める。

 一つ呼吸を整えてから、真っすぐに彼を見た。



「『自分が家族の絆を壊した』――ボク自身にも、そんな気持ちがあった。だからキミに手を貸したし、救いたいという傲慢に繋がったのだと思う。コルネと、その家族が元通りになれば、あるいは自分も救われるのではないか、って考えたんだ」

「………………」



 コルネはあえて口を挟まず、ボクの告白を聴いている。

 その視線に思わず腰を引きかけるが、ギリギリのところで堪えた。そして、



「でも、それはボクの自己満足でしかない。あまりにも『無責任』で、自分のことしか考えていない未熟者の逃避に他ならなかった」



 一つまた、大きく深呼吸をして。

 ボクはコルネに向き合って、こう宣言した。




「それでも、ボクにだって師匠としての意地がある。自分勝手なままだと、弟子に示しがつかない。だからボクは、これから『責任』を果たしに行く。そして――」




 これが自分の『覚悟』だと、届けるように。





「ボクは師匠として、コルネに絆の修繕が可能だというのを示すよ」――と。





 自然と、拳に力がこもる。

 そんなボクの言葉に、コルネは少し考えてから言うのだ。




「あぁ、そうだな。そう、だったな……」




 心の底から、安堵したように笑いながら。




「だったら、見せてくれよ師匠。……期待してるからさ」




 


五年間の信頼、信用を『覚悟』に変える。



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応援よろしく!!




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