2.いつもと変わらぬ、深夜のこと。
新作も応援よろしくっス(*'▽')ノ
――日もすっかり落ちて、みんなが帰宅した深夜のこと。
ボクは山のように積まれた依頼品を前に、黙々と作業を続けていた。このような時間帯まで仕事をするのは、開業間もなくには多くあったように思う。さすがに当時よりも体力や集中力が低下してきたとはいえ、まだまだ無理は利くはずだった。
いいや、もっと正確にいえば。
ボクはもっと無理をして然るべきだった。
自分には決して、天賦の才があったわけでもない。それでも『最高の修繕師』と周囲の期待を浴びるようになったのは、ただ直向きに進み続けてきたからだった。
だから、ここで立ち止まってはすべてが終わってしまう。
みんなの期待も、信頼も、信用も。
「……ライル?」
「アーシャ……まだ、残ってたの?」
そうして、どれだけの時間が経過しただろうか。
不意に暗がりの奥から、親しい彼女の声が聞こえてきた。ボクが訊ね返すと、彼女は明かりをつけながらアトリエの中に入ってくる。
いったい、どうしたのだろうか。
そう思っていると、アーシャは静かに息をついてから言った。
「少し、休憩しませんか?」
どこか遠慮がちに。
しかしボクは、彼女の言葉に対して首を横に振った。
「駄目だよ。ただでさえ予定が詰まっているんだ。ここで休んでいたら、全部が間に合わなくなるからさ」
「………………」
そう告げると、アーシャは静かになる。
そして、どこか別の場所へと行ってしまうのだった。公爵令嬢のそんな行動の意図が分からずに、こちらは首を傾げるしかできない。だが、いつまでも手を止めているわけにはいかなかった。
ボクは改めて依頼品に向き合うと、作業を再開。
そのまま、しばしの時が流れた。
するとまた、彼女の声が聞こえてくる。
「やっぱり、少し休むべきです。……珈琲を淹れましたから、どうぞ」
それと共に、視界の端にカップが置かれるのだった。
どうやら彼女はこれを用意するため、この場を離れたらしい。でも、
「要らないよ」
「え……?」
正直なところ、不要なものだと思った。だからボクは、ハッキリと――。
「依頼品が汚れたら大変だから、下げてくれないかな?」
「…………っ!」
――アーシャに、そう告げた。
彼女が息を呑むのが聞こえたものの、その理由は分からない。
ボクはゆっくりとカップが下げられたのを確認して、また作業を始めた。しばらくの間、その作業の音だけがアトリエの中に響く。
そんな空気を破ったのは、すでに退室したと思っていたアーシャの言葉だった。
「ライル、無理はしていませんか……?」
「……え?」
彼女がまだこの場にいたことと同じくらい、その問いに驚く。
いったい、どういう意図を込めたものなのだろうか。もちろん無理をしていないと言えば嘘にはなるが、ここ最近はずっとこの調子だ。深夜まで起きていることにも慣れてしまったし、ボクと彼女の付き合いの長さを鑑みれば、こんなことは今までたくさんあった。
だからこそ、アーシャの質問の意味が分からない。
ボクは思わず首を傾げ、彼女を見た。
「いいえ、ライル――」
すると、そんなこちらに。
アーシャは静かながらも厳しい声色で、こう言うのだった。
「もしかして、逃げてはいませんか……?」――と。




