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1.響き渡る名声。

修繕師、最終章が始まります。

あとがきの新作もよろしく(なお趣味全開








「おいおい! また物凄い数の依頼が入ったぞ!?」

「えぇ、またですか!?」




 神殿修復を成し遂げてから、しばらく。

 その日も、コルネは血相を変えながら店の中に飛び込んできた。山のような依頼書と依頼品を運び込みつつ、何度も額の汗を拭っている。それを見て、慌てた様子でリーナも手伝いに向かった。コルネが重いもの、リーナが軽いものを担当しながら仕分けていく。あまりの忙しさに、機巧少女であるはずのリーナでさえ音を上げかけていた。



「今日も大変なことになってますね……」

「……ホントだよ。師匠の名前はもう、完全に世界レベルだな」

「国王陛下にもお願いして、国賓級からの依頼品は国庫に保管してもらうのはどうでしょう。さすがに他の品と同じにして、盗難というわけにはいきませんし」



 中にはアーシャの言うように、諸外国の重鎮、あるいは貴族からの依頼もある。

 あの神殿修復以降、本当に住む世界が変わったようだった。



「………………」

「ライル。あの、聞こえていますか?」

「え、あぁ……聞こえてるよ。たしかに、陛下にもお声がけした方が良いかもね」



 ボクはアーシャの声かけに作業の手を止め、少しだけ考える。

 そうしていると、コルネがこう提案してきた。



「なぁ、師匠。少し良いか?」

「どうしたの?」

「師匠の名前はもう、世界中に響き渡ってる。この依頼品の数がその証拠だろ。だから――」



 どこか気まずそうに。

 彼は一つ息をついてから、言うのだ。



「ある程度の依頼は、断っても良いんじゃないか……?」――と。



 このままでは、とてもじゃないがキャパシティが足りない。そうなるのならば、ある程度の選別をした方が合理的ではないか、と。

 コルネの主張は至極真っ当で、一つ一つの依頼に注力するならきっと正解だった。

 だけど、ボクはしばし考えてから首を左右に振って応える。



「……ううん、それはできないよ」



 それに三人は、驚いて顔を見合わせた。

 ボクは作業を再開しつつ、自分の意見を口にする。



「どの依頼品にも、同じくらいの『想い』が込められているはずだからね。それを断るなんてボクにはできない。それに、まだまだ体力には余裕があるからね」

「マジかよ。……師匠、とんでもねぇな」

「……本当ですね」

「…………」



 たしかに忙しくはある。

 でも睡眠時間を調整すれば、こなせない数ではない。

 その感覚で語ると、コルネとリーナは分かりやすく驚いた表情を浮かべた。冷や汗にも似たものを流しつつ、しかし弟子は一つ大きく息をついて覚悟を決めたらしい。



「分かったよ。師匠が本気なのに、弟子が弱音を吐くわけにはいかないからな!」

「え、それは逆じゃないですか……?」

「良いんだよ、リーナ! 俺は師匠を信じる、って決めてるんだからさ!」

「……そう、ですね」



 彼は気合いを入れるように自身の頬を叩く。

 そして、何やら元気いっぱいに掛け声を口にしながら作業に移っていった。

 リーナはそんなコルネの後を追いかけ、場は一気に静かになる。そんな中で、



「あれ、アーシャ……?」



 公爵令嬢だけは、どこか複雑そうな表情を浮かべて立っていた。

 ボクが首を傾げて声をかけると、彼女は少しだけうつむいてから答える。



「……いいえ。いまは、やめておきます」

「ん……?」




 そして、依頼書の整理などの軽作業を始めるのだった。



「……どうしたんだろ、いったい」



 そう思うが、しかしすぐに気持ちを切り替える。

 今日中に片付けなければいけない品は、まだまだ山のようにあるのだ。




「よし、やるぞ……!」




 だからボクは、そう自身を鼓舞して作業を再開するのだった。



 


https://book1.adouzi.eu.org/n1576ip/

こちら新作です(*'▽')

修繕師とは違ったテイストのほっこり?を目指します。

下記リンクから飛べますので、応援よろしくです。




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