表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/143

10.過ち、別った袂のその先に……。

ちょっと意外な角度から、というお話。

追放もののお約束とは違うけど、自分はこういう感じが好きです。


あと、コミックス3巻!

早いところだと、もう書店さんに並んでるみたいです! よろしく!!












「今までの恩返しだ! 気合入れていきましょう!」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」




 テーニャが号令をかけると、冒険者のみんなが声を上げる。

 ボクは思わず呆気に取られてしまうが、ふとそんな人々の中に知った顔を見つけた。そして無意識のうちに、彼の名前を口にするのだ。



「ダイン……?」

「……おう、まだ名前……憶えててくれたのか」



 それは始まりの日。

 リンドさんとの出会いの日に、ボクを追放したパーティーのリーダーだった。以前よりも少しやつれた顔で、ダインはボクを認めて苦笑する。

 そんな自嘲としか受け取れない表情は、初めて見た。

 当時の彼はとかく自信満々。だけど、だからこそみんなを引っ張るリーダーシップがあった。横柄な態度を取ることもあったけど、有望だったのは間違いない。



「忘れるわけないよ。……でも、どうしてここに?」

「………………」



 そのダインが、どうして……。

 ボクはそんな意味合いも込めて訊ねた。

 すると青年から大人へと顔つきを変えた彼は、空を見上げて言う。



「あの後、さ……当時のメンバーの数人が、逝っちまったんだ」

「……え?」



 日差しに、スッと目を細めて。

 彼の横顔に浮かぶのは、悲哀――あるいは、後悔だろうか。いまにも泣き出しそうな表情で、ゆっくりと言葉を続けた。



「当時の俺は、本当に馬鹿だった。勇敢だと周囲に言われて気持ちよくなって、自分は有能なんだと思い込んだ。……実際には『無謀なだけ』だったのに、な」

「ダイン……」

「その結果が、パーティーの崩壊さ。俺を慕ってくれた奴も、ずっと一緒だと思っていた奴も……こんな向こう見ずを庇って、死んじまった。雑用係――いいや、優秀な修繕師を追い出したせいで、みんな装備がボロボロだったんだ」

「………………」



 拳を握り締めるダイン。

 ボクは言葉に迷い、うつむくしかできない。



「それに気付かずに、俺はクエストを強行してしまった。……そこからは、しばらく記憶がない。みんないなくなって、何もかも嫌になった。酒に溺れる毎日を過ごして。ただそれでも毎年、墓参りには行っててさ――」



 すると、突然に彼の声色が優しくなった。そして、



「――ありがとうな、ライル」

「え……?」



 あまりに唐突な、感謝の言葉。

 ボクが驚いて面を上げると、そこには穏やかなダインの顔があった。



「お前が毎年、冒険者たちの墓を修繕してくれているんだろ? 墓守の夫婦から、聞いたんだ」



 彼はまた続ける。



「その話を聞いてから、俺は自然とライルの活躍を追いかけるようになっていた。どんな壁にぶつかっても、決して諦めないお前の活躍と、努力を……」

「……ダイン…………」

「そうしていたら、どんどん自分が情けなくなった! いつまで腑抜けているんだ、って。こんな情けない顔してたら、アイツらに顔向けできないな、って思うようになってさ……!」



 ほんの少し、声を震わせて。

 ダインはボクを見て、泣きそうな顔でこう口にした。



「だから、こんな馬鹿な俺でも……頑張ろう、って思えた。罪滅ぼしには程遠いけど、それでも同じような奴らを生まない努力はできるはずだ、って。だから――」



 ……と、その時だ。



「先生ー! あとで、こっち手伝ってください!」

「ダイン先生ったら、サボってるんですかー?」



 彼の名を呼ぶ若い冒険者たち。

 ダインはその声に応えるようにして、手を振った。



「あの子たちは……?」

「俺の……その、教え子みたいなもんだ。本当に俺以上の馬鹿ばかりでさ、何度言い聞かせても『先生』だなんて呼びやがって……」

「……そっか」



 不本意極まりない、と言わんばかりに肩を竦めるダイン。

 だが今の彼らの表情を見ていると、とても良い関係であるように思えた。これならきっと、ダインの語ったような間違いは起こらないかもしれない。



「ごめんな、ライル。本当は謝罪しにきたのに、昔語りしちまった」

「ううん、いいよ。むしろ、その……少し楽になった」

「……おう、そうか」



 ボクが答えると、ダインも安堵したように頬を掻いた。



「……それじゃ、ちょっくら作業してくる。指示を頼むぜ、ライル!」

「あぁ、分かった……!」



 そして、教え子たちのもとへ駆け寄っていく元リーダー。

 ボクはその背を見て――。





「…………あぁ、羨ましいな」





 胸が温かくなると同時に、小さな憧れを抱くのだった。




 


面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります!


応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ