10.過ち、別った袂のその先に……。
ちょっと意外な角度から、というお話。
追放もののお約束とは違うけど、自分はこういう感じが好きです。
あと、コミックス3巻!
早いところだと、もう書店さんに並んでるみたいです! よろしく!!
「今までの恩返しだ! 気合入れていきましょう!」
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
テーニャが号令をかけると、冒険者のみんなが声を上げる。
ボクは思わず呆気に取られてしまうが、ふとそんな人々の中に知った顔を見つけた。そして無意識のうちに、彼の名前を口にするのだ。
「ダイン……?」
「……おう、まだ名前……憶えててくれたのか」
それは始まりの日。
リンドさんとの出会いの日に、ボクを追放したパーティーのリーダーだった。以前よりも少しやつれた顔で、ダインはボクを認めて苦笑する。
そんな自嘲としか受け取れない表情は、初めて見た。
当時の彼はとかく自信満々。だけど、だからこそみんなを引っ張るリーダーシップがあった。横柄な態度を取ることもあったけど、有望だったのは間違いない。
「忘れるわけないよ。……でも、どうしてここに?」
「………………」
そのダインが、どうして……。
ボクはそんな意味合いも込めて訊ねた。
すると青年から大人へと顔つきを変えた彼は、空を見上げて言う。
「あの後、さ……当時のメンバーの数人が、逝っちまったんだ」
「……え?」
日差しに、スッと目を細めて。
彼の横顔に浮かぶのは、悲哀――あるいは、後悔だろうか。いまにも泣き出しそうな表情で、ゆっくりと言葉を続けた。
「当時の俺は、本当に馬鹿だった。勇敢だと周囲に言われて気持ちよくなって、自分は有能なんだと思い込んだ。……実際には『無謀なだけ』だったのに、な」
「ダイン……」
「その結果が、パーティーの崩壊さ。俺を慕ってくれた奴も、ずっと一緒だと思っていた奴も……こんな向こう見ずを庇って、死んじまった。雑用係――いいや、優秀な修繕師を追い出したせいで、みんな装備がボロボロだったんだ」
「………………」
拳を握り締めるダイン。
ボクは言葉に迷い、うつむくしかできない。
「それに気付かずに、俺はクエストを強行してしまった。……そこからは、しばらく記憶がない。みんないなくなって、何もかも嫌になった。酒に溺れる毎日を過ごして。ただそれでも毎年、墓参りには行っててさ――」
すると、突然に彼の声色が優しくなった。そして、
「――ありがとうな、ライル」
「え……?」
あまりに唐突な、感謝の言葉。
ボクが驚いて面を上げると、そこには穏やかなダインの顔があった。
「お前が毎年、冒険者たちの墓を修繕してくれているんだろ? 墓守の夫婦から、聞いたんだ」
彼はまた続ける。
「その話を聞いてから、俺は自然とライルの活躍を追いかけるようになっていた。どんな壁にぶつかっても、決して諦めないお前の活躍と、努力を……」
「……ダイン…………」
「そうしていたら、どんどん自分が情けなくなった! いつまで腑抜けているんだ、って。こんな情けない顔してたら、アイツらに顔向けできないな、って思うようになってさ……!」
ほんの少し、声を震わせて。
ダインはボクを見て、泣きそうな顔でこう口にした。
「だから、こんな馬鹿な俺でも……頑張ろう、って思えた。罪滅ぼしには程遠いけど、それでも同じような奴らを生まない努力はできるはずだ、って。だから――」
……と、その時だ。
「先生ー! あとで、こっち手伝ってください!」
「ダイン先生ったら、サボってるんですかー?」
彼の名を呼ぶ若い冒険者たち。
ダインはその声に応えるようにして、手を振った。
「あの子たちは……?」
「俺の……その、教え子みたいなもんだ。本当に俺以上の馬鹿ばかりでさ、何度言い聞かせても『先生』だなんて呼びやがって……」
「……そっか」
不本意極まりない、と言わんばかりに肩を竦めるダイン。
だが今の彼らの表情を見ていると、とても良い関係であるように思えた。これならきっと、ダインの語ったような間違いは起こらないかもしれない。
「ごめんな、ライル。本当は謝罪しにきたのに、昔語りしちまった」
「ううん、いいよ。むしろ、その……少し楽になった」
「……おう、そうか」
ボクが答えると、ダインも安堵したように頬を掻いた。
「……それじゃ、ちょっくら作業してくる。指示を頼むぜ、ライル!」
「あぁ、分かった……!」
そして、教え子たちのもとへ駆け寄っていく元リーダー。
ボクはその背を見て――。
「…………あぁ、羨ましいな」
胸が温かくなると同時に、小さな憧れを抱くのだった。
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