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7.苦難さえも、糧にして。

あとがきから、新作の応援もよろしくです(*'▽')!








「えっと、お隣の方は……もしかして?」



 ボクがティローの隣に立つ女性を見て言うと、彼は一つ頷く。

 そして、彼女は優しい笑顔を浮かべて名乗るのだった。



「はい、私がエリザです。貴方のお爺様――ローンド様のお手伝いをしていました」



 それを耳にして、ボクは不思議な感覚を抱く。

 初めて会ったというのに、そのような気がしないというか。それでいて絵画の中からそのまま出てきたような美しさに、心を奪われてしまったかのような。親しみと同時に憧れを抱いてしまうような美貌に、ボクは声を失ってしまったのだ。

 もっとも、本人はその自覚がないのだろう。

 それがまた多くの男性を悩ませそうだ、と思わされた。



「む……ライル?」

「え、いて!? なんで怒ってるのさ、アーシャ!?」

「怒ってなんかいません。ただ鼻の下を伸ばすライルを見ていると、妙にイライラしてしまっただけです」

「怒ってるじゃないか!?」

「怒っていません!!」



 などと考えていると、隣の公爵家令嬢に脇腹を強めに小突かれる。

 理由の分からない暴力に抗議すると、これまた意味不明なことを言われてしまった。そんなこんなで、ボクとアーシャが言い合いをしていると――。



「ぷ……あはは!」

「まったく、相変わらず気の抜ける方ですね」



 そんな様子を見たエリザさんは吹き出し、ティローには呆れられてしまう。

 彼らの反応にボクたちは、ハッとして互いの顔を見合わせた。そして、どうしようもなく恥ずかしくなってしまう。一気に顔が熱くなるのを感じたけど、それはアーシャも同じだろう。真っ赤な果実のように頬を赤らめた彼女は、視線を逸らしうつむくのだった。



「アーシャさん、でしたか?」

「……はい?」



 すると、そんなアーシャに声をかけたのはエリザさん。

 彼女は少しだけ悪戯っぽく、こう言うのだった。




「大丈夫ですよ。……取ったりしませんから」――と。




 ボクには、その意味が分からなかった。

 だけどアーシャにとっては、弱点だったらしく……。



「ひぅ……!?」



 公爵家令嬢は、短くそう悲鳴を上げて縮こまるのだった。







「……え、それじゃあ!」

「はい。自分とエリザさんが、今回の神殿修復に手を貸すように遣わされました」

「よろしくお願いしますね!」



 そんな一幕があってから。

 ボクたちは互いの近況を話し合う中で、目的の一致を見出した。

 どうやらボクが陛下から受けた依頼――神殿修復の手伝いとして、二人がエルフの村から派遣されてきたらしい。と、いうのも経典の修繕、その実績からだったらしいが……。



「私はきっと、長に言われなくても立候補してたと思います」



 エリザさんはそう言うと、また優しく笑みを浮かべた。

 そして、おもむろに祖父の墓前へ向かと――。



「……お久しぶりですね、ローンドさん」



 彼女は静かに雪上に膝をついて、語り掛けるのだ。

 その後姿を見て、ティローがボクに言う。




「彼女は貴方に、心の底から感謝している」

「え……?」




 彼の言葉に、ボクは思わず首を傾げてしまった。

 するとまたティローは呆れたように、肩を竦めつつこう続けるのだ。



「本当に優しい女性だからな。……貴方の祖父が犯した過ちさえ、今では必要な試練だったのだろう、と考えているそうだ」

「そう、なんだ……」



 それを聞いて思わず声が詰まる。

 どれ程の悲しみを背負って、日々を過ごしてきたか分からない。

 だというのに、エリザさんはそれすら受け止めて前を向くことを選んだのだ。そんな彼女の後ろ姿を見て、ボクは黙って唇を噛む。そして……。




「ティロー、絶対に……成功させよう」




 そう、決意を口にするのだった。



 


https://book1.adouzi.eu.org/n7212ik/


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