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3.時の流れと、周囲の変化。

あとがきの新作も、応援よろしくです(*'▽')








 店の準備を終えると間もなく、いつもの面子が揃い始める。



「おはよう、リーナ。ルゼインさんは元気?」

「おはようございます、ライル様。お父さんは変わらず元気ですよ」

「そっか、よかった」



 ――機巧少女のリーナ。

 ルゼインさんの手によって命を授かった彼女は、目の見えなくなった彼の介護をしながら店を手伝ってくれている。基本的には請求書などの書類整理を任せているが、テキパキとした働きぶりには感心せざるを得なかった。

 だけど五年の歳月を経て、少し環境に変化があったらしく……。



「でも、最近は少し困っていまして……」

「困っている?」



 顎に手を当てたリーナは、少しだけ眉を寄せて言った。



「お父さんったら、最期までに少しでもライル様に恩返しがしたい、と話すようになったんです。私としては、これからも元気に過ごしてほしいのですけど……」――と。



 たしかに、ルゼインさんはもう良い年齢だ。

 自身の死期について考えるのは、あり得ない話ではない。ボクとしても彼にはこれからも色々と教わりたい気持ちだし、健やかに過ごしてほしいと思っていた。

 だから少しだけ、心苦しく感じつつこうリーナに訊ねてみる。



「リーナは、なんて答えるの?」

「私、ですか?」



 すると機巧少女は小さく笑って、身振り手振りを交えながら答えるのだ。



「こう……頭を軽く小突いてから、不穏なこと言ってないでご飯食べてください、って! そうしたらお父さん、子供みたいに拗ねるんですよ?」



 聞いていると、娘に叱られるルゼインさんの姿が目に浮かんできた。

 不謹慎ながらもボクは思わず笑ってしまう。リーナもずいぶんと彼に遠慮がなくなったらしく、今では本当に血の繋がった親子のようだった。

 そのことがよく分かる口振りに、ほっこりとしてしまう。

 あの懐かしい日々で知り合った彼らの現在が、幸せであるのはとかく嬉しい。




「悪い、寝坊した!!」




 そう考えていると、最後の一人が肩で息をしながら現れた。

 すっかりと背の伸びた彼を認めて、ボクは声をかける。



「コルネ、おはよう。……もしかして、また徹夜?」

「あー、そうだな。ちょっと思った通りにいかない依頼品があって……」



 ――コルネは、いまや立派な修繕師の一人だった。

 この五年ですっかり背の伸びた彼は、もう青年と呼ぶに相応しい。幼い顔立ちこそ変わらないが、背丈はボクよりも大きくなっていた。ちょっとばかり小生意気な口調はそのままだが、依頼品に向き合う姿勢はとても良い。

 今日の遅刻だって、仕事に夢中になったため起きたことだ。



「その依頼品って……もしかして、あのイヤリングかな?」

「あぁ、ちょっと思った以上に細かくてな。師匠だったらどうするか、意見を聞かせてほしい」

「そういうことなら、喜んで」



 それを証明するように、コルネは修繕の意見を求めてきた。

 もちろん笑顔でそれを受け入れ、ボクは彼から件のイヤリングを受け取る。そしてアトリエへと移動しながら、ふとこんな話を振ってみた。



「そういえば、銀時計はまだ修繕しないの?」――と。



 それというのも、彼が修繕師を志すキッカケとなったものについて。

 彼には、どうしても自分の手で直したい品がある。家族の絆を象徴するそれについて、この五年で話題に上げることは幾度かあった。それでも青年は、決まって首を横に振る。

 そして、いつも決まってこう答えるのだ。



「俺はまだ、アレを直せるほど上手くないから」

「……そっか」



 ボクはその言葉を耳にするたび、少しだけ不安な気持ちになる。

 しかし、コルネは気にした様子もなく続けるのだ。




「でも、いつか絶対に元通りにしてみせるさ。……自分の手で、な」




 にこやかに、笑いながら。

 ボクはそんな彼の表情を見て、安堵した。

 そして気持ちを切り替えるように、話題を仕事へと戻す。



「そっか……それじゃ、目の前のことを頑張ろうか」




 ――【リペア・ザ・メモリーズ】の面々は、変わらない。

 だけど、その心や環境は少しずつ移ろい始めていた。



 


https://book1.adouzi.eu.org/n3983ik/

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