2.五年目の公爵令嬢。
……ふひぃ(息切れ
「よいしょ、っと……」
――【リペア・ザ・メモリーズ】の経営は順風満帆だ。
積もった雪を片付けて、ボクは店の看板を表に出す。この開店作業も今年で五年目に入ったわけだが、やはり夏季などとは違った苦労があるように思われた。
額の汗が乾いた風にさらされて、ほんの少しだけ身震いを覚える。
「……これでよし、と」
あの慌ただしかった日々から五年が経過し、ずいぶんと周囲の状況も変化してきた。店の評判も上々で、一部のお客さんは『王都で知らない者はいない』と話している。ボク自身としてはまだまだ、そのような域には至ってないとは思うけど、誇らしく感じるのは正直なところだった。
それでも、どこか引っかかる。
素直になれない、といえば良いのだろうか……。
「…………っくし!」
「汗はしっかり拭かないと、風邪を引きますよ? ライル」
「あぁ、アーシャ。おはよう」
「おはようございます」
などと考えていると、いつものように彼女が姿を現した。
声のした方を見る。するとそこにあるのは、五年の歳月を経て大人の雰囲気を帯び始めたアーシャの姿。顔立ちにまだまだ幼さは残るものの、成人の儀はもうすぐだった。
少し伸びた背丈に、冬の装いが良く似合う。
ボクの返答に恭しく礼をしたアーシャは、白い息をつきながら言った。
「……どうかしました?」
「ううん。いや、ただ――」
不思議そうに小首を傾げる彼女に、ボクは素直な感想を口にする。
「アーシャもずいぶん、綺麗になったな……って」
「ひうっ!?」
すると何やら、公爵令嬢が小さな悲鳴を上げた。
そして、
「もう、もう……!」
「え、何……!? いてて!」
理由不明なまま、足元の雪を投げつけられる。
ボクはただただ困惑し、目を丸くしてしまった。
こうして、今日も一日が始まる。
五年の歳月を経ても、ボクと彼女の関係に変わりはないように思えるのだった。
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