7.終わった関係。
これにて第11章、終了です。
書いてる自分が辛くなったです(´・ω:;.:...
『――ライル。お前は修繕師というクズにはなるな』
ボクの父、シャッツ・ディスガイズは昔から繰り返しそう言っていた。
だけど幼い自分には、その意味することが分からない。何より一生懸命に人々の思い出を取り戻す祖父を見ていたから、父の方が悪者に見えたりもした。いったいどうして、父さんはお爺ちゃんに意地悪なことを言うのだろう。そう考えて、ずっと首を傾げていた。
「これならまだ、直せる……!」
造花の花冠を手にして、ボクは当時に思いを馳せる。
祖父と父はとにかく仲が悪く、顔を合わせては必ず口論をしていた。そんな彼らを見るたびにボクは泣きだしたい気持ちになって、しかし足を竦ませて逃げ出せなくなる。
その中で決定的だったのは、やはり祖父が病に伏せた頃の出来事だった。
父は祖父の見舞いに一度も訪れなかった。
医者からどんなに説得されても、その答えは変えなかった。
結局ボクが祖父の死に立ち会うこととなり、葬儀こそ父の名で執り行われたが、修繕師として上げた生前の功績に対してあまりにも寂しい内容だったと思う。
ボクは父のそんな態度が、とにかく気に入らなかった。
もとより修繕師の仕事に憧れていたこともある。でももしかしたら、今の生業を選んだのは父に対する反抗心のようなものもあるのかもしれない。父が馬鹿にした修繕師という職業が、いかに人々を幸せにするのか、それを見せたかったのだ。
そうすれば、いつかきっと父も理解してくれる。
いつか、本当の意味で『家族』になれる、そう思った。
「…………あとは、ここに着色して……」
そう思ったからこそ、ボクはいまこうやって花冠の修繕を行っている。
簡単な道具しか携帯してこなかったが、そこまで難しいものでもなかった。表面の汚れを削り取って、元通りの形に加工し、その部分を元通りに着色する。
壊れやすい素材であることに注意を払えば、今までの経験がすべてを解決してくれた。そしてこれは、きっと祖父の願いを叶える第一歩にも思えて、だから――。
「…………ライル……?」
――完成とほぼ同時。
姿を現した父に、ボクは思わず笑みを浮かべていた。
数年振りに再会した彼は、以前より少しだけやつれたように見える。しかし面影はハッキリと残っていて、一目見て自分の父親であるというのは分かった。
難しい表情を浮かべる彼と向かい合って、ボクはゆっくりと呼吸を整える。
そして、こう切り出すのだった。
「これ、お爺ちゃんからの贈り物だよね……?」――と。
修繕したばかりの花冠を手渡しながら。
ボクは勇気を振り絞って、父にこう訴えかけたのだ。
「お爺ちゃんはきっと、父さんとずっと仲直りしたかったんだ。だからその『青色の花冠』を作って、贈ってくれたんだと思う」
「………………」
「ねぇ、父さん……?」
とても長い時間が経ってしまったけれど。
それでも、ここからもう一度始められるのではないか、と思って――。
「あとは父さんが、それを受け取るだけなんじゃないかな……?」――と。
素直になってほしい、という願いを込めて。
このまま『家族』がバラバラになることなんて、だれも望んでいないはずだから。そう信じてボクは、父の顔を見た。
そして――。
「………………ふざ、けるな」
彼の地を這うような声と、激しく怒る表情に絶望した。
「……ふざけるな! どうして俺が、いまさらアイツなんかに歩み寄らなければならない!? 毎日毎日、修繕だ修繕だと、家族のことを蔑ろにしてきたアイツに!!」
父――シャッツ・ディスガイズは、唾を飛ばしながらまくし立てる。
激昂し、こう言うのだ。
「母さんの見舞いに一度もこなかった! 葬儀にだって、少しだけ顔を見せて仕事に向かったアイツを許すことなんて、絶対にできない……!!」――と。
そして、手に持った花冠に視線を落とした。
シャッツはしばらくの沈黙の後、微かに声を震わせて言う。
「これを修繕したのは、お前か……?」
こちらを責め立てるようにして。
ボクはあまりのことに応えられなかったが、無言を肯定と受け取ったのだろう。彼は忌々しげに『青色の花冠』を睨みつけ、それを――。
「ふざけるな、こんなもの必要ない……!!」
「あ、待っ――」
――こちらが制止するより先。
力いっぱいに、床へと叩きつけたのだった。
甲高い音と共に、青色の花冠は粉々になる。
大切な思い、そして思い出が、壊れていってしまう。
ボクはそれを、ただ唖然として見ることしかできなかった。
希望が打ち砕かれて、すべてが終わる。
今までのことが、無意味だったのだと嘲笑うようにして……。
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