6.見慣れたはずの知らない部屋で。
気圧変動にやられる作家の物真似してます()
「ごめんね、ライル。お父さんはいま、仕事先に出てるから……」
「そう、なんだ。分かったよ、ありがとう母さん」
見慣れていたはずのリビングへ通され、ボクは最近になって新調されたであろう椅子に腰かけた。アーシャは隣の席に、母さんはテーブルを挟んで向かいの席に座る。どこかぎこちない会話をしてから、ふと母はボクの傍にいる少女を見た。
そして、少しだけ困ったような表情を浮かべて言う。
「……えっと、ライル? こちらの可愛らしいお嬢さんは、どなた?」
そういえば、当たり前のように思っていたけど二人は初対面だ。
ボクはちらりとアーシャを見てから、母に紹介する。
「彼女はアーシャ。ボクのことを支えてくれる優しい女の子だよ」
それは嘘偽りない、自分なりのアーシャ評だった。
彼女とは店を開いた時からの付き合いだが、ずいぶんと助けられた記憶がある。ボクのような取り柄の少ない人間を支えて、ずっと隣にいてくれた。そのことには当然感謝しているし、叶うならこれからも末永く懇意にと、そう考えるのが自然な相手。
いつの間にか、一緒にいるのが当たり前になっていた少女だった。
そんな気持ちを込めた言葉だったのだが、母さんは何を思ったのか口元を隠す。そしてボクとアーシャを何度も見比べてから、言うのだ。
「つまりそれって、将来を約束した相手……ってこと!?」――と。
…………え?
「……あの、母さん? 少し勘違いして――」
「なるほど! だから黙って帰ってきたのね! 婚約者ができたら、さすがに報告しないといけない、って思って!?」
「母さん……!?」
ボクの母ことミラ・ディスガイズは、完全に暴走していた。
あろうことか、母は自分とアーシャが婚約関係だと、そう勘違いしているらしい。もちろんアーシャは心優しく、とても魅力的な女の子だ。だけどボクなんかが一緒になるような身分の相手ではないし、それ以前に彼女と自分は『そんな間柄』ですらない。
このままでは、せっかく同行してくれたアーシャに申し訳なかった。
そう考え、まずは彼女に謝ろうとしたのだが……。
「アーシャごめんね!? 迷惑だよね!?」
「……え、と。ライル、その……私は、べつに……」
「アーシャさん……?」
何やらアーシャも、微かに頬を赤らめて恥ずかしそうにしていた。
少なくとも嫌がっていたり、迷惑がっているわけではない。最も的確な表現を選ぶとするならば、彼女は照れている、というのが正しいような気さえした。しかし何故、このような状況で照れるのだろうか。
それが分からず沈黙していると、居ても立っても居られない、といった様子で立ちあがったのは母さんだった。彼女はアーシャのもとへと駆け寄ると、その手を取って言う。
「ライル、ちょっとアーシャさん借りるわよ? 女同士で腹を割って、少しだけお話したいから!!」
「え、ちょっと待――――――って、行っちゃった」
そして、こちらが止める暇すらなく。
母はアーシャを連れて、別室へ引きこもってしまうのだった。
あのドタバタとした性格はやはり、ボクが家を出てからも変わりがないらしい。誤解はアーシャの方から解いてくれると信じ、ひとまず家の中を見回した。
「それにしても、ちっとも変わらないな……」
すると気付くのは、変わりないのは母の性格以外も同じだということ。
生活用品の配置なんかは、ボクが出ていった頃と一緒だった。それなのに知らない人の家にいる気がしてならないのは、ボク自身の目線が変わったからなのかもしれない。
考え方も、問題への向き合い方も、その他にも色々なことが。
少なくとも以前のように、逃げようという気持ちではなくなったはずだ。
「………………」
そう考え、ボクは小さく息をついてから。
部屋の片隅にあった『あるもの』を探すため、立ち上がった。物の配置が同じだとすれば、きっと置いてあるはず。
「……あぁ、やっぱり」
そうして、見つけたのは――。
「ずいぶんと古ぼけたけど、間違いない」
――祖父の作った『青色の花冠』だった。
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