10.親子のかたち。
紙コミックス1巻、重版しました!
感謝感激! 本当にありがとうございます!!
「まったく、そうやって無理ばかりするから!」
「あ、ははは……面目ない」
――式場から戻って、ボクはすぐに倒れてしまった。
いまは問答無用にベッドに寝かされ、アーシャから看病を受けている。どうにも熱を出してしまったらしく、思ったように頭が回らなかった。
それでも、間に合って良かったと思う。
あのブレスレットは、ジャックさんの手にないと意味がなかったから。
「本当にライルのお人好しさには、いつも呆れてしまいます」
「えぇ、それをアーシャが言うの……?」
「言いますよ、もちろん」
ボクが返すと、少女はぷんすかと怒りながらそう言った。
こちらをお人好しと呼ぶなら、こうやって看病をしてくれる彼女もまた同じ。自分たちはもしかしたら似た者同士なのかもしれないな、と。そう思った。
そして、そう考えていると自然と口元が緩んでしまって――。
「なにを笑っているんですか……?」
「え、あぁ……いや、アーシャ――」
ボクは無意識のうちに、彼女にこう言っていた。
「いつも、ありがとうね」――と。
今までずっと、ボクのことを支えてくれた公爵家のお嬢様。
一介の修繕師でしかない自分の力になって、一緒に悩んでくれた女の子。そんなアーシャに対して、ボクは心の底から感謝していた。
ようやく、それを言葉にできた。できてよかった。
だがそう思っていると、なにやらアーシャが黙り込んでしまう。
「……どうしたの?」
「な、なななななななな、なんでもありません!!」
そんな彼女が心配になって問いかけると、なにやら大慌てで顔を背けられた。
もしかして、どこか気に障る部分があったのだろうか。
そう考えていると、アーシャが言った。
「わ、私もライルには感謝していますから……」――と。
それを耳にした瞬間、ボクの中でも何かがおかしくなった。
発熱以外の大きな熱さが、胸の奥から湧き上がって。そして――。
「きゅう……」
「……って、ライル!? 大丈夫ですか!?」
いよいよ、意識が遠くなってしまった。
アーシャは何故か顔を真っ赤にしながら慌てて、ボクの顔を覗き込む。それに笑い返しながら、ふとボクは思うのだった。
きっと彼らのように、気付けばやり直せるんだ――と。
自分も一歩を踏み出そう。
そして、いつの日か、必ず――。
◆
――新郎は式が終わると、衣装もそのまま駆け出していた。
貴族街を駆けて、真っすぐに自分の生まれ育った場所へと向かう。
いったい、いつ以来だろうか。これほどまでに、実家が恋しいと思うのは。
「はっ……はっ……っ!」
見慣れた門を通り過ぎて、息も整えずに彼は帰宅した。
そして一直線に、父のいるであろう部屋へと向かってまた走る。それほどの距離でもなかった。いつでも帰ろうと思えば帰ることができた。それなのに、意地を張って帰らなかった。
自分の育った家は、近い場所にある。
しかし、心のせいでひどく遠く感じられていた。
「――父さんっ!!」
だけどいま、やっと。
やっと、自分たちは前へと進めるのだ。
「なんだ、やけに騒がしい帰宅だな。……守るべき妻を置いてきてどうする」
「は、ははは……」
軽く叱咤されて、新郎――ジャックは涙を拭いながら笑った。
その腕にはライルから受け取ったブレスレットが、きらりと輝いている。それを見た彼の父は、とても穏やかな表情を浮かべて息子のもとへと歩み寄った。
そして同じブレスレットをつけた方の手で、ジャックの涙を拭うのだ。
「本当に、お前はいつまでも手のかかる『子供』だな」
「うるせぇよ。そっちだって、いつまでも小言の多い『親』だろうが」
彼らは互いに憎まれ口を叩き合いながら、しかし笑う。
真っすぐに顔を見合って、どちらともなく相手に手を差し出した。きっとこの『親子』には、これ以上の言葉は要らないのだろう。
それでも、今ばかりは言葉にして伝えたいと思うのだ。
そう、ただ一言――。
『ありがとう』――と。
ここで10章終了です!
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