表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/143

10.親子のかたち。

紙コミックス1巻、重版しました!

感謝感激! 本当にありがとうございます!!









「まったく、そうやって無理ばかりするから!」

「あ、ははは……面目ない」




 ――式場から戻って、ボクはすぐに倒れてしまった。

 いまは問答無用にベッドに寝かされ、アーシャから看病を受けている。どうにも熱を出してしまったらしく、思ったように頭が回らなかった。

 それでも、間に合って良かったと思う。

 あのブレスレットは、ジャックさんの手にないと意味がなかったから。



「本当にライルのお人好しさには、いつも呆れてしまいます」

「えぇ、それをアーシャが言うの……?」

「言いますよ、もちろん」



 ボクが返すと、少女はぷんすかと怒りながらそう言った。

 こちらをお人好しと呼ぶなら、こうやって看病をしてくれる彼女もまた同じ。自分たちはもしかしたら似た者同士なのかもしれないな、と。そう思った。

 そして、そう考えていると自然と口元が緩んでしまって――。



「なにを笑っているんですか……?」

「え、あぁ……いや、アーシャ――」



 ボクは無意識のうちに、彼女にこう言っていた。




「いつも、ありがとうね」――と。




 今までずっと、ボクのことを支えてくれた公爵家のお嬢様。

 一介の修繕師でしかない自分の力になって、一緒に悩んでくれた女の子。そんなアーシャに対して、ボクは心の底から感謝していた。

 ようやく、それを言葉にできた。できてよかった。

 だがそう思っていると、なにやらアーシャが黙り込んでしまう。



「……どうしたの?」

「な、なななななななな、なんでもありません!!」



 そんな彼女が心配になって問いかけると、なにやら大慌てで顔を背けられた。

 もしかして、どこか気に障る部分があったのだろうか。

 そう考えていると、アーシャが言った。





「わ、私もライルには感謝していますから……」――と。





 それを耳にした瞬間、ボクの中でも何かがおかしくなった。

 発熱以外の大きな熱さが、胸の奥から湧き上がって。そして――。




「きゅう……」

「……って、ライル!? 大丈夫ですか!?」




 いよいよ、意識が遠くなってしまった。

 アーシャは何故か顔を真っ赤にしながら慌てて、ボクの顔を覗き込む。それに笑い返しながら、ふとボクは思うのだった。



 きっと彼らのように、気付けばやり直せるんだ――と。



 自分も一歩を踏み出そう。

 そして、いつの日か、必ず――。












 ――新郎は式が終わると、衣装もそのまま駆け出していた。

 貴族街を駆けて、真っすぐに自分の生まれ育った場所へと向かう。

 いったい、いつ以来だろうか。これほどまでに、実家が恋しいと思うのは。



「はっ……はっ……っ!」



 見慣れた門を通り過ぎて、息も整えずに彼は帰宅した。

 そして一直線に、父のいるであろう部屋へと向かってまた走る。それほどの距離でもなかった。いつでも帰ろうと思えば帰ることができた。それなのに、意地を張って帰らなかった。

 自分の育った家は、近い場所にある。

 しかし、心のせいでひどく遠く感じられていた。





「――父さんっ!!」





 だけどいま、やっと。

 やっと、自分たちは前へと進めるのだ。




「なんだ、やけに騒がしい帰宅だな。……守るべき妻を置いてきてどうする」

「は、ははは……」




 軽く叱咤されて、新郎――ジャックは涙を拭いながら笑った。

 その腕にはライルから受け取ったブレスレットが、きらりと輝いている。それを見た彼の父は、とても穏やかな表情を浮かべて息子のもとへと歩み寄った。

 そして同じブレスレットをつけた方の手で、ジャックの涙を拭うのだ。




「本当に、お前はいつまでも手のかかる『子供』だな」

「うるせぇよ。そっちだって、いつまでも小言の多い『親』だろうが」




 彼らは互いに憎まれ口を叩き合いながら、しかし笑う。

 真っすぐに顔を見合って、どちらともなく相手に手を差し出した。きっとこの『親子』には、これ以上の言葉は要らないのだろう。

 それでも、今ばかりは言葉にして伝えたいと思うのだ。

 そう、ただ一言――。











『ありがとう』――と。








 


 

ここで10章終了です!

以下の新作共々、応援よろしく&感謝です!!



https://book1.adouzi.eu.org/n8053ie/

下記リンクから新作です。



面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります!


応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ