8.想う心と裏腹な言葉。
素直になるのって、難しいものですよね。
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――使用人さんの後に続いて、連れてこられたのはリカルドさんの部屋。
ボクは先ほどの非礼を咎められるのかと思い、少しばかり身構えた。しかし二人きりになった瞬間に、彼がこちらに見せたのは、先ほどとは打って変わって穏やかな表情。
驚いていると、リカルドさんはボクのことを手招いた。
窓際に立っている彼の横へ行くと、そこからはちょうど門の様子が見える。
「分からないのだ」
「え……?」
そこから、ジャックさんたちを眺めつつ。
リカルドさんは、ひどく苦しそうにそう口にした。
思わずボクが訊き返すと、彼は一つ息をついてから問いかけてくる。
「キミは――ライルくんは、私とジャックの関係について、聞いているかね?」
「……え、えぇ。少しだけ」
「そう、か……」
緊張しながらも答えると、リカルドさんはまた大きく息をついた。
そして、ゆっくりと窓に背を向けて歩き出す。来客用のソファーに腰かけ、ボクにも向かいに座るよう促した。誘われるまま腰かけると、それを合図とするように彼は話し始める。
「私はジャックに、立派な騎士になってもらいたかった。それがあの子のため、とも信じてきた。そのため常に厳しく接してきたのだ」――と。
ボクはそれを黙って聞いていた。
いまのリカルドさんは、先ほどとは別人といっていい。
そしていまの彼の言葉こそが、他でもない本音であるに違いなかった。
「だから、といっては言い訳がましいが。私には、ジャックにどのように声をかければいいのか分からないのだ。あいつが自身の考えで選んだ婚姻相手を連れてきて、覚悟を見せてくれたというのに。私はどう声をかければ良いのか、分からないままだった」
「リカルドさん……」
「本当に、情けないばかりだよ。この歳にもなって、本当に幸せになってもらいたい息子に、かける言葉も思いつかないのだからな」
「………………」
リカルドさんはそう言うと、ボクの顔を見て。
どこか、自分を嘲るようにして笑った。
「そんな時に、ライルくんの言葉を聞いてハッとしたよ」
「ボクの……言葉、ですか?」
「あぁ、そうだ」
彼は深く息を吸うと、こう口にする。
「『子の自由を奪う権利など、親が持つわけがない』――キミは私に向かって、そう言ってくれた。まったくその通りだよ」
それは、怒りに身を任せてボクが放った言葉。
しかしその想いは、彼に届いていたのだ。
リカルドさんは、しばしの沈黙の後にこう語る。
「きっと、私は知らず知らずのうちに『甘えて』いたのだろうな。自分の息子なら、きっと期待は裏切らないだろう。自分の言う通りに従ってくれるだろう、と。だがそれは、きっとジャックの気持ちを無視したものに他ならない。あいつを一人前の人間として扱っていない、その心を尊重していない証拠だったのだ」
リカルドさんの言葉には、計り知れないほどの苦心があった。
そうでなければ、こんなに悲しい表情なんてできない。
だからこそ、ボクは彼の言葉が心の声なのだと理解できた。
彼はきっと誰よりも、息子であるジャックさんの幸せを願っている。だから、
「だったら、今のままではいけないと思います」
ボクは意を決して、そう彼に伝えた。
愛しているなら、それを伝えなければ意味がない。彼はそれが難しいと語ったけれど、どうにかして繋ぎ止めなければならない。
そんな想いを込めたボクの言葉に、リカルドさんは頷いた。
そして、こう口にするのだ。
「あぁ、だからキミに依頼したいことがあるんだ」
リカルドさんは、真っすぐにボクの目を見つめ返して。
「聞くところによると、キミはこの王都で一番の修繕師だそうだね。そんなキミにだからこそ、あるものの修繕をお願いしたい」――と。
そうして、テーブルに出された品を見て。
ボクは一つ頷いて、こう答えた。
「任せてください。ボクが必ず、貴方の想いを届けます」
自分の力でできる最大限を。
この修繕にかけよう、そう心に決めて……。
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