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ハズレ判定から始まったチート魔術士生活  作者: 篠浦 知螺


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親離れの刻

 スマホと携帯の返却を鷹山に丸投げして、受け取り方法が決まるのを眺めていたら、夕食の時間になったらしく守備隊の隊員さんが集まって来ました。

 ついでと言うのも変ですが、僕も夕食をご馳走になって行く事にしました。

 話し合いを続けていた同級生達も、一旦話を中断して夕食にする事にしたようです。

 夕食の席で、委員長に尋ねられました。


「健人は、ご両親に会いに行かないの?」

「うーん……僕だけ会いに行くのはズルくない?」

「でも、みんなも無事だって話して、学校に知らせてもらうとか……」

「うーん……それも、みんなの手紙とか準備が整ってからの方が良くないかな」

「どうだろう……健人が、そうしたいって言うなら無理強いはしないけどね」


 正直に言って、父さんや母さんと顔を会わせるのが怖いという気持ちがあります。

 普通に考えて、何ヶ月も行方知れずになっていた子供が戻って来たならば、それこそ感動の再会になるはずです。

 でも、どうしても父さんや母さんと、抱き合って再会を喜ぶような光景が思い浮かべられません。


 昼間は少し不安そうな顔をしていたマノンですが、僕がキッパリとヴォルザードで暮らすと断言したせいか、どことなく楽しげに見えます。

 そう言えば、マノンの家族への挨拶する事をすっかり忘れていました。


「えっと、マノンって、お母さんと二人で暮らしてるの?」

「ううん、弟が一人いるよ」

「そうなんだ、いくつ年下なの?」

「ハミルは四つ下だから、ギルドで職探しするようになるのは、まだまだ先だね」


 四つ下というとメイサちゃんと同じ年でしょうかね。


「ハミル君は、やっぱり冒険者志望なの?」

「うーん……ハミルは父さんと同じ土属性なんだけど、建築士になりたいみたい」

「へぇ、そうなんだ……凄いね、ちゃんと自分の将来を考えてるんだ」

「どうなのかなぁ……戦闘講習が嫌なだけで、本気で建築士になりたい訳じゃない気がするんだよねぇ……僕が男の子で、土属性の適性を持っていたら、絶対に父さんみたいな冒険者を目指したのに……」


 でも、いくら防具を付けていても、木剣で殴られるのは痛いもんね。

 ドノバンさんに目を付けられていなかったら、僕もギルドの戦闘講習は続けていなかったと思います。


「ハミル君は大人しい感じなのかな?」

「大人しいって言うよりも、捻くれ者で怠け者? もう口ばっかり達者で生意気なんだ」


 マノンは、ちょっと天然気味だから口喧嘩したら負けそうだよね。


「今度さ……マノンの家族を僕に紹介してくれないかな?」

「えっ、う、うん、いいけど……」

「特に、マノンのお母さんには、お付き合いする許可を貰わないといけないしね」

「えっ……お、お付き合いって……えっ、えっ?」


 マノンは真っ赤になってワタワタし始めたけど、こっちの世界でも交際するだけでは挨拶とかしないのかな?


「えっと……そういう挨拶とかはしないものなの?」

「ど、どうなんだろう……僕、そういうのは良く分からなくて……」


 あぁ、なんだかマノンの目がグルグルしだしちゃいましたね。

 ちょっと羨ましそうに見ていた委員長も苦笑いしてます。


「ベアトリーチェは両親二人とも健人と顔を会わせてるんだし、一度ちゃんと紹介しておきなよ」

「そ、そうだよね。ユイカがそう言うなら……うん、じゃあ今度の安息の曜日でもいいかな?」

「うん、よっぽどの大事件でも起こらなければ、その日で……」

「分かった、お母さんに話しておくね」


 マノンは恥ずかしそうだけど、やっぱり嬉しそうに見えますし、委員長は笑顔なんだけど、ちょっと寂しそうです。


「唯香も日本に戻れるようになったら、ご両親に紹介してね」

「うん、勿論ちゃんと挨拶してね。僕に娘さんをください……って」

「うっ……分かった……」


 うん、やっぱり、家族への挨拶って考えるだけでも照れくさいよね。

 たぶん唯香のご両親には反対されるだろうし、怒られると思うけど、僕が下した選択の結果なのだから、キッチリ責任は果たさないと駄目だよね。


「なぁ、日本に帰るのには国分の力が必要だというのは分かっているけど、サクっと処刑しても良いかな?」

「構わんぞ八木、俺も同じ事を考えていたところだ……」


 人がせっかく甘い空気に浸っているのに、何だか不穏な声が聞こえてきますね。


「ちょっと止めてよね、そんな事したら一生モテなくなる呪いを掛けるわよ」

「あっちゃん、それは元からだから呪う意味がないよ」

「何だと、俺にだって何時か猫耳の可愛い彼女が……」

「あーっ……りっくんに言ってやろうっと……」

「馬鹿! 止めろよな、あの犬耳野郎、マジで加減知らねぇんだから、冗談でも言うなよな」

「分かってる分かってるよ、言うなよなぁ……ってネタ振りなんでしょ?」

「馬鹿! マジだから、マジで止めて下さい、ホントお願いします」


 凸凹シスターズが報告出来ない可能性もあるから、ギリクに会ったら僕からも報告しておきましょう、そうしましょう。

 八木達の方を見ていたら、血相を変えて歩いてくる加藤先生の姿が目に入りました。

 そう言えば、先生に日本に戻れたって報告してませんでした。


「国分! お前、日本に戻れたって本当か!」

「はい、影移動で試してみたら……意外とあっさり……」

「どうなっていた、学校の様子は見て来たのか?」

「はい、みんなを待たせていたので、ちょっとだけでしたが……」


 加藤先生に学校の様子を話そうとしたら、他の先生達も姿を見せたので、全員が揃うのを待ってから話しました。

 壊れたままの校舎や献花台に手向けられた花束の話をすると、先生だけでなく周りで聞いている同級生達も沈痛な面持ちになりました。


「突然異世界に召喚された我々は、なんと不運だと思っていたが、突然の校舎崩落に巻き込まれた人達に比べれば、まだ幸運だったのかもしれないな……」


 小田先生が洩らした感想は、食堂に居る召喚に巻き込まれた者達全員の思いでもありました。

 手紙と撮影した映像を送るという僕らのアイデアには、先生達も賛成してくれましたが、逆に要求されたのは、我々の現状を報告してくる事でした。


「国分、自宅に戻って、御両親に現状を報告してくれ。出来れば、警察や教育委員会などにも知らせてもらいたい」

「でも、信じてもらえるでしょうか?」

「信じてもらえない時には、すまんが実際に魔術を使って見せてでも信じてもらってくれ」

「はい……えっと、今から行って来た方が良い……ですよね?」

「頼む!」


 小田先生にキッパリと言い切られ、他の先生達にも頷かれてしまっては、行くしかないですよね。


「じゃ、じゃあ……ちょっと家に戻って来ます」


 みんなから期待の込った視線を向けられ、少し気圧されながら影へと潜りました。

 正直に言ってしまうと、家に戻るのは気が重いです。

 戻って来た事を喜んでもらえない……とは思いませんが、果たして僕の話を聞いて、信じてくれるのか、とても不安です。

 自宅はオートロック付きマンションの三階で、家の鍵はゴブリンに襲われた召喚初日に無くしてしまったので、玄関に直接出る事にしました。


「た、ただいま……えっ? あれっ……?」


 影の中から玄関に出てはみたものの、何だか様子が変です。

 母さんが買うだけ買ったまま、ろくに履きもしなかったブランド物の靴が下駄箱から溢れ、ブーツが何足も置かれているのが普通なのに、玄関には一足の靴もありません。

 作りつけの下駄箱を開けても、一足の靴も入っていません。


「あれっ? へ、部屋を間違えた……?」


 勝手に鍵を開けるのも拙いと思い、影に潜って廊下に出ました。


「303号室が長谷川さんで、隣が……あれっ? 305号室が水元さんで、隣が……何で? 何でうちの表札が無いの?」


 もう一度、影に潜って家の中へと入りました。

 母さんのブランド品が、置き場が無いほどに積まれていた、玄関脇のクローゼットも空っぽになっています。

 短い廊下の反対側が僕の部屋……のはずなのに、ドアを開けた先はガラーンとした空き部屋です。

 リビング、ダイニング、母さん達の寝室、父さんの書斎……テレビも冷蔵庫も、テーブルやソファー、ベッド……何もかも無くなっています。

 何も無くなって、やけに広く感じるリビングで、座り込んだまま動けなくなってしまいました。


『ケント様……』

「ははっ……何でかな……何にも無くなっちゃって……何でかな……誰も居ないよ……」


 いや……召喚される前から、家に居たのは殆ど僕だけで、父さんとも、母さんとも顔を合わせない日も珍しくありませんでした。

 お婆ちゃんが亡くなってから、母さんは起きて来ないから一人で朝ご飯を食べて学校に行き、帰ってくれば母さんは出掛けてしまって誰も居ませんでした。


 生活費は、何日かに一度、父さんが帰って来た時にまとめて渡され、それで自分の食事はまかなっていました。

 でも、顔は合わせなくても母さんは夜中に帰って来ていて、生活している気配があったのです。

 それが今は、人の気配がまるでしない、正真正銘の空き家です。


「まだ二ヶ月ちょっとだよ。僕が召喚されてから三ヶ月にもなっていないのに、どうして……そんなに僕は要らない子なの……うぅぅ……」

「ご主人様、元気出して」

「うちは、ご主人様が居なくちゃ嫌だよ」

「うちも、うちもご主人様と一緒がいい」


 マルト、ミルト、ムルトが、影から出て来て頬ずりしたり、ペロペロと顔を舐めてきます。


「ありがとう。僕にはみんなが居るものね……もう日本に帰る場所が無くなっても、ヴォルザードには帰る場所があるよね……」

『ケント様、これは良い機会かもしれませぬ。自立なさいませ』

「えっ……自立?」

『いかにも。ケント様が、こちらの世界でどんな暮らしをしていたのか、ワシは存知あげませぬ。ですが、ケント様の様子を拝見するに、ご両親の庇護下にあられたのでございませんか?』

「うん、そうだね。経済的には父さんに、家のことはお婆ちゃんに依存していたね」

『これから、ケント様はヴォルザードで生きていく決断をなさいました。近々、Sランクの冒険者となられます。もう、ご両親の腕の中から飛び出して、自立なさるべきではありませぬか?』


 ラインハルトは、いつになく重々しい口調で僕の自立を進言してきました。

 日本に居る頃は、ただのポンコツな子供でしたが、ヴォルザードではラインハルトが言うように高ランクの冒険者として認められ、同級生達を養えるほどの経済力もあります。


「でも……僕に出来るかな?」

『自立は出来る、出来ないでは有りませぬぞ。自立するという意志の問題です。ケント様は、周囲の者に対して細やかな配慮が出来る方ですが、その一方で自分の意志を強く表明する事が苦手ですな。リーゼンブルグとの交渉の進め方も、教師達の意見を聞く事も大切ではありますが、まずケント様がどうしたい、どう進めたいという意志を示すべきです。教師達の言いなり、ご学友達の言いなりでは、自立した男としては認められませぬ』


 ラインハルトの言う通り、ここ最近は、誰かに判断を任せて、自分に出来る事だけをやっていれば良いと思いがちでした。

 他人の意見を尊重し過ぎず、自分がどうしたいか、どうすべきか、もっと考えるべきでした。


『ケント様、Sランク冒険者として、周囲から羨望の眼差しで見られるようになるのです。三人の女性を養う一家の柱となるのです。叩かれようが、蹴られようが、揺るがぬ強さを見せてくだされ』

「そうか……そうだね。もう親離れする時なんだね」


 正直に言って、自立出来るのか不安はあります。

 ですが、それを上回る自立したいという思いが、胸の底から湧きあがってきました。

 そして、自立を意識したせいか、両親から捨てられたという思いは薄らいでいます。

 普通の家とは少し違ったけど、衣食住に不自由する事なく、僕は生きてこられました。

 それだけでも、両親には感謝をするべきでしょう。


「よし、動こう。ここに座っていたって時間の無駄だもんね。これから警察に行ってみるけど、こっちの世界には魔物は存在しないから、みんなは影からは出ないでね」

『了解ですぞ』

「うちも分かった」

「ちゃんと影に入ってるよ」

「ちゃんとするから、後でお腹撫でてね」

「はいはい、分かったよ」


 みんなを影に戻して、玄関に靴を履きに戻りました。

 何も無くなってしまったけど、ここは僕が物心付いた時から暮らしてきた家です。

 もう戻る事も無いと思うと、少し寂しくなります。


「お世話になりました」


 何も無くなって、ガランとした家に一礼してから影に潜りました。

 警察署は、うちのマンションからは中学校を挟んで反対側にあります。

 影の世界を通ってマンションの玄関に出て、そこからは歩いて行く事にしました。


 正確な時間は分かりませんが、すっかり日が暮れて街灯が光っています。

 ヴォルザードでは降るほどに見えていた星が、数えるほどしか見えなくて、やはり東京に戻ってきたのだと実感させられます。


 住宅街から表通りに出ると、けっこう歩いている人がいるので、まだ深夜という訳ではなさそうです。

 古本屋さんには、僕より少し上ぐらいの子供の姿もあります。

 猛烈に立ち読みしたい欲求に駆られましたが、今はそんな事している場合じゃないよね。


 バス通りを中学校の方を眺めながら歩いて行くと、パトカーが停まっているのが見えました。

 昼間は校庭の中しか見ていなかったので気付きませんでしたが、学校を警戒するために、ずっと停まっているのかもしれません。

 警察署に行くよりも、ここに居るお巡りさんに声を掛けた方が良いのかもしれませんね。

 パトカーの運転席には若いお巡りさん、助手席のお巡りさんは中年のおじさんという感じです。


「あ、あのぉ……こ、こんばんは……」

「どうかしたのかな?」


 声を掛けると、中年のお回りさんが窓ガラスを開けてくれました。


「えっと……実は僕、この中学校で失踪した生徒の一人で……」


 突然突拍子も無い事を言い出したと思ったのか、運転席の若いお巡りさんがグッと身を乗り出して来たのを中年のお巡りさんが手で制しました。


「まぁ、ちゃんと話を聞いてからだ……それで、君は今までどこに行ってたんだい?」

「は、はい……その、実は……異世界に召喚されていました」

「ほう、何と言う国なのかな?」


 いい加減な事を言うなと怒られるかもしれないと、少しビビっていたのですが、お巡りさんは疑う素振りも見せずに話を進めようとします。


「えっ、はい、召喚されたのは、リーゼンブルグ王国という国で、そこの第三王女のカミラ・リーゼンブルグによって召喚されていました」

「ほう、それは勇者として召喚されたって事かい?」

「いいえ、勇者ではなく、ただの兵士として召喚したと言っていました」

「ほう、ただの兵士か……それは珍しいな……で、君はどうやって帰ってきたんだい?」

「僕は闇属性の……」

「あーっ、なるほど、闇属性ね、闇属性……他の人は使えないんだね?」

「はい、闇属性を使えるのは僕だけなんで……」


 中年のお巡りさんが、勇者とか闇属性といった言葉を普通に使っているのが、何だか変な感じです。


「他のみんなはどうしたのかな?」

「えっと……リーゼンブルグでは酷い扱いを受けていたので、僕が救出して、今はヴォルザードという街の守備隊の臨時宿舎に居ます」

「ほほう、ヴォルザードねぇ……どんな街なんだい?」

「はい、魔の森の近くなので……城壁に囲まれた城砦都市で、最果ての街とも呼ばれているそうです」

「ほう、魔の森……最果ての街か、いやぁ、なかなか凄いね」

「えっ……は、はい、領主のクラウスさんが凄い方で……」

「ほほう、領主様とも会ったのかね?」

「はい……何て言うか、凄く気さくな方で……」


 中年のお回りさんは、僕の話す内容を一度も否定せずに聞いてくれているのですが、実際には全然信用していない気がします。

 若いお回りさんは、僕の話を聞こうともせず、ミラー越しに後ろを確認したり、周囲に目を光らせています。


「さて、そろそろ次の人が来たようだから、一応名前を聞いておこうかね」

「えっ……次の人? あっ、名前は国分健人です」

「はいはい、国分君ね……うん、なかなか良い線いってたよ。設定も良く考えられているね。あぁ、でも帰還方法の闇属性は少しありきたりだったかな。それからね、役者を目指すにしても、脚本家を目指すにしても、人の痛みが分からないようでは駄目だよ、分かるよね?」

「えっ……?」

「分かるよね!」

「は、はい……」


 お巡りさんの剣幕に押されて、はいと思わず答えてしまいましたが、何の事だか全く分かりません。


「じゃあ、お巡りさん達は、あっちの相手をするから、早く家に帰るんだよ……おい、行くぞ」

「了解です、今夜も忙しくなりそうですね……君、早く帰りたまえよ」


 突然、パトカーを降りたお巡りさん達は、僕が来た方向とは逆の方向から近付いてくる一団に目を向けています。

 それは異様な一団でした。

 ダンボールで作った西洋風の鎧もどぎを身に着け、ダンボールの剣を握った高校生か大学生ぐらいの男性と、ハロウィンのような仮装をしている人が三人、そして、それをスマホで撮影している人が居ます。

 中学校の近くまで来ると、ダンボール鎧の男性がダンボールの剣を掲げて叫びました。


「我こそは、異世界に召喚されし勇者、国分健人なり! 見事魔王を討ち果たし、空間魔法を使って帰還した!」


 回りに居る仮装の三人が、ゲラゲラと耳障りな笑い声を立てています。


『えぇぇ……国分健人って、何で僕の名前を……』


 一団は、そのままフェンス越しに崩落した校舎をバックにして、良く分からない寸劇を始め、それを撮影してます。

 どうやら仮装の一団は、魔王とその配下という設定のようです。

 そこへ先程のお巡りさんが歩みより、解散を促し始めました。


『ケント様、あやつらは一体……』

『分からない、何で僕の名前を名乗ってるんだろう?』


 お巡りさんと話している途中から、嫌な感じはしていましたが、意味不明な状況に全く付いていけません。


「やあやあ、私の名は国分健人! 光の王国シャインブライトに召喚されし勇者なりぃ!」


 突然後から聞こえた声に驚いて振り返ると、コスプレをした別の一団が歩み寄って来ていました。

 白を基調に金の模様をあしらった衣装に身を包み、金のサークレットを着けた勇者役に、魔道士を思わせるローブ姿の人、弓のようなものを持ったエルフ風の人、アニメキャラを真似た人も居ます。

 そして、こちらの一団にも撮影を担当する人が一人、前になり、後になり、行列に向かってスマホを構えています。


「そこの君! 何かお困りかな? この勇者。国分健人が力になるよ! はーはっはっはっはっ……」


 理解が追い付かず、返事をする事すら出来なかった僕を置き去りにして、似非勇者は高笑いしながら中学校へと向かって行きました。

 呆然と立ち尽くす僕を、撮影担当が勝手に撮影していきます。


「いいねぇ、ナイス・リアクション!」


 撮影担当にサムズアップされたって、どう返して良いのかも分かりません。

 てか、何のリアクションもしてませんけど、動画を撮ってるって事は、ネットにアップするつもりなんでしょうか。

 新たな一団に気付いて、若いお巡りさんが急ぎ足で戻って来ます。

 さっき言っていた、今夜も忙しくなりそうと言っていたのは、この事を指していたのでしょうけど……まさか、こんな一団が他にも来るというのでしょうか。


『駄目だ……完全に浦島太郎状態だ……』

『ウラシマタロウとは……? ケント様は、こちらの世界でも有名なのですかな?』

『違うよ、僕の名前なんて知られていないはずなんだけど……僕が居ない間に何かがあったんだと思う。とにかく今は情報が足りなすぎる。情報、情報……よし、図書館に行こう』


 全然見ず知らずの人が、僕の名前を名乗っている以上、ネットで僕の名前が取り上げられたとしか考えられません。

 もしかすると、家がもぬけの空になっていた事にも、何か関係があるのかもしれません。

 手持ちの現金が全く無い状態なので、図書館に忍び込んで、新聞や雑誌のバックナンバーを漁ってみる事にしました。

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― 新着の感想 ―
この時点の両親の視点から見れば遺体が発見されなくても死亡したって考えるのも無理はないと思うけどね
[一言] 普通に考えたら、ここまで大事になっているのなら、ケントの顔写真は出回っている筈だろう。 そして、いくら偽物が居たとしても、ハリウッドが偽物に協力して特殊メイクをしている訳でもないだろうし、顔…
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