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第九十六話 頑張りたくない症候群

 届いたドレスはどれも白くて丈の長い、特別装飾品もないしスカートにボリュームがある訳でもない、ドレスというよりはワンピースに近い物だった。使われている素材と値段を考えればドレスで間違いないんだけど、一見地味で飾り気のない、私の理想と言って良い。

 まぁそれを見たサラはちょっと混乱してたみたいだけどね。何度も私とドレスを見比べて、笑顔ではあったけど困ってるのが一目瞭然だった。

 うん、言わなくてもわかります……私には正直似合わないよね。

 服自体はとても良い物です。プリメラ辺りが着ればそれはそれは素晴らしく可愛いんだろうね、だがしかし着るのは私だ。この悪女顔にはちょっとキツいですよね、気持ちは痛いほど分かる。


「えっと……じゃあこのドレスに合う髪とメイク考えるね!」


「よろしくお願いします」


 いやほんと、無茶なお願いしてごめんなさい。

 サラは多分、自分では似合うと思っているんだろうからって気を遣ってくれているんだろうけど、安心してください似合わないのは自覚しています。


「ここっていつでも入れるの?」


「放課後は大体開いているらしいわよ。元々学園の警備は万全だし、ここだけ厳重に取り締まってる訳でもないみたい」


「そっか……じゃあ私が一人で来ても大丈夫かな?出来れば実物を見てイメージしたいし」


「構わないと思うわ。関係者以外は立ち入りだけど、サラ様は私の関係者として申請しておくから」


「そっか、ありがとう!」


 基本的に、この学園は平和だがら。私にとっては地雷源みたいな所があるけれど、それはオートモード時代に培った忘れたいけど忘れられない記憶のせい。普通の学生にとって、ここほど安全て平和な場所はないだろう。

 警備はいつでも万全だし、不審者どころかネズミ、ゴから始まる黒い害虫さえ見た事がない程、あらゆる目が隅々まで行き届いている。

 文化祭という大きな行事を前にそれはさらに強化して、生徒を護る為ならばこの学園はどんな投資も惜しまない。


 だから多分、私は油断していた。私だけでなく学園全体が、外からの攻撃にばかり目を向けて。財力が余裕と自信に繋がっているから、面と向かって攻撃はしてもこそこそと暗躍する人間はいないと。警戒心だけは一人前だと思っていたが、所詮は思ったいただけ。

 実際に害そうを行動されれば、私のちんけな警戒心なんてどこにも引っ掛かりはしないのだと。



× × × ×



 文化祭準備は着々と進み、気が付けば本番は後一週間まで迫っていた。

 クラスでの出し物がないうちのクラスは本来忙しさなどないはずなのに、部活だ委員会だとみな忙しそうに出たり入ったり。教室にはあまり人が留まる事がない。


「最後の追い上げってやつかなー」


「うちのクラスは特別忙しい人が多いみたいだね。普通は一年生のする事なんて少ないもん」


「そういう二人は行かなくていいの?」


 本番が迫っているせいか、最早授業なんてあってないようなものだ。自習と銘打ってはいるが、皆それぞれの仕事に駆け回っている。

 コンテストに出るだけの私なんて随分暇なものだ。出来る事なら交代したい、全然駆け回るから代わりに出場してくれないかなぁ……。


「あたしらの部活はあんまり忙しくない……うちは先輩がやってくれるし」


「私も、各自で作品を作るだけだから」


「プリメラは展示だとして……エルの所は何になったんだっけ」


「……さぁ?」


「せめて把握はしておきなさいよ」


 気持ちは分かるけど。仕事がないと参加している感じがないもんね。特にこの学園は企画だ監督だって、働くよりも指示を出す側だから余計に。

 子供の指示を大人の技術力で再現されると、夢と希望が現実になって魔法感が凄い。魔法の世界とはいえ、今回はほとんどその要素ないんだけど。


「毎年ほとんどの一年生はする事がないらしいんだよね。むしろ今年が特別なくらい」


 教室を見渡せば、空席の方が目立つ。サーシャ含め多くの一年生が追い込みをかけて大忙しだ。恐らく他のクラスは私達同様暇を持て余した人の方が多いのだろうけど、少なくともうちのクラスに関しては少数派らしい。

 ケイトも毎日忙しそうだったもんなぁ……目に見えた変化はなかったけど、何となく世話しない感じがした。幼馴染みの第六感です。


「あたし達より、マリアの方がそんなのんびりしてていいの?」


「え?」


「コンテスト出場者は集合するって、朝サラと話してたじゃん」


「あ……」


 今日やっと全員分の衣装が揃うそうで、控え室に集まる事になっている。ドレスの構造によっては一人で着れなかったりするし、化粧やヘアメイクだって時間がかかる。その辺を考慮した上で順番を決めるのだとか。

 その話を朝サラから伝え聞いて、初めてそういえば順番とか何も決めていなかった事に初めて気付いた。

 コンテストに興味が無さすぎだな、私が唯一参加するやつなのに。これではエルの事を言えない。


「もうすぐ授業終わるよ」


「あら、もうそんな時間?」


「自習だと早いよねー」


 楽しい時間はあっという間というけれど、授業よりも友達とお喋りが出来る自習の方が短く感じて当然だろう。予習復習をしている人にとっても、自分のペースで出来る時間の方があっという間に感じると思う。

 まぁそんな時間も後数分だが、この授業が終われば後は名実共に文化祭準備の時間だ。


「二人も部の方に顔を出すのよね」


「授業と違って、準備の時間だからね。手伝う事があってもなくても、行くだけは行かないと」


「私も、作業するのに一番都合が良いからね」


「頑張ってね」


「マリアちゃんもね」


 私は……あんまり頑張りたくないなぁ。

 その想いから乾いた笑顔になってしまったけれど、タイミングよくチャイムが鳴って、二人の意識は私から逸れた様だった。



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