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第八十四話 新学期

 長いと言いつつ結局休みなんてあっという間に過ぎていく。

 遊びに来てもらったり、遊びに出向いたり、何だかんだ充実はしていたけれど、だからといって満足かと言えばそうではない。むしろ一生休みでも全然構いません。


「はぁ……」


「七回目」


「……はぁ」


「八回目。ちょっと鬱陶しいんだけど」


「後二回で切りが良くなるわよ」


「いりません」


 ため息が尽きないのは、明日に控える休みの終わりが憂鬱だからです。厳密に言うと明日寮に帰り学園が始まるのは明後日なのですが。

 私からすれば、学園に出向いた時点で色々と終了なお知らせです。平穏は長く続きませんね。


「実家のありがたみを感じたわ……」


「そう?俺は寮の方が便利だけど、家事しなくていいし」


 普段から家の事をおじさんと分担していたケイトにとっては、食堂があり部屋の掃除も頼める寮生活は分かりやすく仕事が減って一見楽になるだろう。代わりにたまの休みで帰還すると部屋の荒れ様に苦労するから一概にどっちが良いとは言えないが。

 私にとって学園はもうフラグの建築場ではなく、普通に敵地なんです。

 ルーナがいい人だった事は素晴らしい発見だし、彼が真っ当な立場にいてくれるならツバルの暴走も押さえてくれるかもしれない。ツバルにとってルーナはそれくらい大切な人間だ。

 それを踏まえた上で、私とツバルがお互いに敵である事も事実。


 ……胃がキリキリしてきた。


「でも思ったより短かった気はする。いつもはマリアと遊ぶくらいだったから」


「実際、今回もそうだけど……ネリエルの所に行ったくらいで」


 初等部に通っていたケイトは今回の様な長期休みも経験しているが、基本的に私と遊ぶくらいでおじさんと出掛ける事もない。たまに私の知らない友達と遊んだりしてたみたいだけど、圧倒的に私といる時間の方が長かった。


「遠出したのは初めてだったし、、新鮮ではあったわね」


「大抵この敷地内で済むからな」


 何年も一緒にいてずっと私の家だけっていうほうが本来可笑しな話なんだけどね。同じ敷地内に住んでるから待ち合わせも必要ないし、私達にとって一番居心地の良い遊び場は薔薇園だから。


「ま、どうせ学園に戻っても同じだけどな。テンペスト家が学園に変わるだけで」


「それは……まぁ」


 テンペスト家敷地内が、学園敷地内になるだけ。

 部活に入っていない私が放課後ケイトを訪ねる事は多々あるし、寮が違う事も別に今さら。

 分かっている、重々、分かっているんだけども。


「……行きたくない」


 ちょっと駄々を捏ねるくらいは、許されると思います。



× × × ×



 駄々を捏ねても抗っても、時間は誰しもに平等だ。贔屓と差別は反対するけど区別は大事だと思うんですけど、そんなもの知った事かと日は跨ぐ。

 

「お久しぶりです、皆様」


 講堂に集められて生徒が思う事は、恐らく一つ。

 さっさと終われ、これに尽きる。年長者の長い話というのはあまり聞いていて楽しいものではない。

 始業式とは、どんな世界でも暇なものである。

 入学式はサーシアに意識が行きすぎてほとんど覚えていなかった。オートモード時代はそれどころではなかったし。


 あくびが出てしまいそうな時間が終わると、私達生徒は教室へと返された。

 久々に見るクラスメイトの顔は懐かしいけど嬉しいかと問われれば少々微妙。エル達に会えるのは嬉しいけど、学園に戻ったという実感がして、辛い。


「ごきげんよう、マリアちゃん」


「おはよう」


「二人とも、ごきげんよう」


「休み中に会ってるから久しぶりな感じしないよなー」


 一度我が家に来てから、何度か三人で遊びに行った。家に招いてから買い物に出掛けたりプリメラの家に行った事も、エルの家は商売をしているから気軽に遊びに行けなかったけど。

 何とも充実した夏休みでしたね、終わった事への名残惜しさが倍増する。


「マリアさん、久しぶり!!」


「サーシア様、ごきげんよう。お久しぶりです」


 記憶た違わぬ爽やかな笑顔ありがとうございます。攻略対象を見ると戻ってきた実感がする、嬉しくない。

 休み前はなれてしまっていたが、そういえば彼は私の隣の席だった。今さらだが、攻略対象が隣人って……サーシアだからまだ良いけど。


 とりあえず新学期ですし、是非席替えを提案したい所です。

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