第五十二話 青春の代名詞
入学し、二週間が経った。
プリメラ、エルメールとは特に変わった事も無く、一緒にお昼を食べて、休み時間を一緒に過ごしたり……一応、友達と言える交流をしていると思う。
とは言えまだお互いに知らない事なんて山積みで、知り合って二週間ならそんなものだろう。今の時点で『私達って友達だよね』なんてどんな夢物語。
それに、これから私を知って、私も二人を知って、そうやって友達になって行こうと話したのだ。
気楽に気長に、なるようになる精神で。
なので概ね平和。ほんの少し気になる程度の事はちょこちょこあるが、それも大した事では無い。
そして本日は新入生にとってのイベントの日なので、そっちに集中したい。
「マリアちゃんはもう決まってるの?」
「いいえ、私はまだ迷っていて……二人はもう決めてるのよね?」
「私は手芸部のつもりだよ」
「あたしは陸上」
「そっか……うーん、どうしよう」
話の内容で推察出来ると思うが、今日から部活見学が始まる。学園のパンフレットに一覧が載っているから入学前から入る部を決めてる人も少なく無い。
プリメラやエルはそのタイプらしい……あ、エルはエルメールの事。友達の第一歩として呼び方を変えて、プリメラは様を無くしエルメールは愛称で。勿論二人にも私をマリアと呼んで貰ってる。
と、話が逸れた。兎に角今日から部活を決める為の期間と言う事だ。
正直……部活とか眼中に無かったです。模擬杖とかに必死で忘れてた。
この学園、と言うかこの世界の部活動は少々特殊だ。
まず、学校対抗の大会が無い。同年代が通う学校はここしかないので当然だけど。
ただそれは『学校対抗』がないだけで国別所属別ならば大小様々な大会が存在するんだけど……その辺はあんまり詳しくない。
だってマリアベル万年帰宅部なんだもん。攻略対象によっては部活に入っていたりするし、そこに邪魔者をしに出向いていたので多少なら分かるけど……元々スポーツに関心が薄いから流してたよ。
「見学に行って、興味があったら体験入部してみたら?あたし達は入部届け出しちゃうから付き合えないけど……」
「えぇ、そうする。ありがとう、一人で大丈夫よ」
放課後、色々見てみよう。入りたい部も興味のある部も無いけど、帰宅部よりマシ。
出来るだけ、ゲームのマリアベルとの共通点は消しておきたいからね!
× × × ×
授業が終わり、放課後。
入学時に貰ったパンフレットを片手に、とりあえず字だけで興味の惹かれた物を回る予定。
ケイトも一緒に行くかと思って誘いに行ったんだけど、断られた。
「俺は園芸部に入るけど」
「え、もう決めてるの?」
「他に興味あるのもないし、勉強にもなりそうだから」
ケイトは本当なら庭師になるための修行に励んでいるはずの現在を、運命の悪戯で魔法学校の世にも稀な編入生として過ごしている。
道筋は大きく逸れたけど、恐らく将来は変わらず庭師になると思うから妥当と言えばそうか。
家系もあるけど、本人の園芸好きだしな。
「それじゃあ、私だけで行ってくる……」
「ん。園芸部は裏庭の方にあるから」
「了解。遊びに行けたら行くわ」
と言う訳で、私は一人で部活見学をスタートさせた。




