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第四十九話 善なれ悪なれ

 彼女の言わんとしている事は想像がついた。

 サーシアと同じ平民。サーシアは平民の中でも特殊な立ち位置だったけど、それ以外の平民は語らずとも想像がつくだろう。

 貴族は平民を見下す。それは大抵の人が持つ認識だろうし、実際そう言う人間は多い。

 それでなくとも私、悪女顔ですし。確実に誤解されてる感がありますね。


 だだ私が本当にそう思っているかは別なんで。顔面での判断は当てになりませんよー。


「……うん、で?」


「……は?」


「平民だから、何?」


「何、って……」


「問題ないなら行きますよー、食堂の席だって無限じゃないんですから!」


 反論は聞かず、私は先導して食堂への道を歩き出した。

 後ろで渋るエルメールをプリメラが説得しているのが聞こえたけど知らんぷりで。下手に私が口を出しても拗れるだけだもん。


 昨日も来た食堂は、昨日と違って人が沢山いた。

 と言っても生徒全員を詰め込んでも有り余る広さを有しているから窮屈には感じない。ここにいるには生徒の半数くらいだから尚更。

 王子とか生徒会の人は利用者が制限されるサロンとかを使うし、先輩方は混むのが予想出来てるから自然とバラけるし、良い感じに人が少ない。


 食堂には、一応メニュー表はある。お金持ちと言えどその辺は普通……とも言い切れない。

 何故なら、メニューに載っていないからと言って頼めないと言う訳ではないからだ。

 この食堂においてメニューとは『この中から注文して下さい』ではなく『決められないならこの中から選んで下さい、もしくは参考にして下さい』だから。メニューにない物もご注文承ります。

 本当に、金持ちってヤバい。いろんな意味でブッ飛び過ぎだと思う。

 高等部も同じ仕様なのでこのシステムをすでに五年分経験している私ですら思うんだから、平民出身……特にケイトみたいな『特別』な生徒は戸惑うと思う。ケイト自身が戸惑うかは別だけど。

 そして貴族出身の私は普通に慣れないです。メニューの中から選びます。


「あ、あそこが空いてるわ」


 給仕さんに頼んでしまえば、後は席に座って待つだけ。 適当に空いた席を見つけて陣取った。

 ファーストフード店の様な番号札などはなく、お金の代わりに示す身分証明書(エンブレム)がその代わりになるらしい。

 うん、知ってたけど凄いファンタジー……いや、まだギリギリ科学とかでも再現できるか?出来たとしてもこの世界でのカラクリは『魔法』だけど。


「席がとれて良かった……思ったよりに人が少ないね」


「今日は寮もオズタウンも使えるから、その影響ね。一日授業が始まったらもっと混む様になるんじゃないかしら」


「そっか……お弁当とかも考えた方がいいかな」


 エルメールと言う幼馴染みが近くにいるせいか、プリメラの口調も軽い物になっている。良い傾向だ、指摘したらやめちゃいそうだから言わないけど。

 ただエルメール本人は黙ったまま喋る気配が無いんだよね。立ち去る様子が無いって事はただ緊張しているだけか、または諦めたのか……多分後者だな。

 顔はまだ少し不服と言うか、不安と言うか……嫌がってると言うよりは緊張してるって感じがする。

 伊達に長年悪役令嬢やってませんからね、ギスギスした雰囲気くらい察する事が出来ますよ。

 私は出来ているのにマリアベルは気付かず突っ込んでくから毎日が耐久試練だった。思い出すだけで背筋が寒い。

 おかげでスルースキルは上がったけどね。嬉しくは無い。

 とは言えこのまま放っておく訳にもいかない。

 出来る事なら仲良くしたいし、正直私は貴族同士よりも平民の人達の方が上手くいく気がするんだよ。ケイトはまた特別だけどそれを抜いても。


「……あたし、やっぱり他で食べるよ」


「え……?」


 どう話を切り出そうかと考えていた時、チラチラと様子を伺っていたエルメールが突然……でも無いけど、そう言い出した。


「エルちゃん、どうしたの?」


「もしかして他の所で食べたかったかしら?」


 彼女の希望聞いてなかったからなぁ……でも一度は諦めてくれたみたいだったのに、もしかして私のチラ見 が気持ち悪かったとか?ならごめん、別に変態的な考えじゃないから許して。


「そうじゃなくて……周りの視線」


 ……え、周り?私のチラ見じゃなくて?

 私には何の事だかさっぱりだけど、どうやらプリメラには心当たりがあるらしい。表情が苦い物食べた時みたいだもん。


「プリメラも気付いてるよね」


 プリメラの反応に自分の感覚が間違って無いと確信したのか、エルメールは話を進める。

 いや私は全く分かりませんけど?そこだけツーカーでも分かりませんからね?


「マリアベル様は公爵家の令嬢で属性持ちを二人も見つけて、その上王子の婚約者候補」


「元、ね」


 現じゃないから、そこだけは譲れない。


「そんな貴族の中でもトップクラスの有名人が平民と一緒にいるなんて……あんまり良く思わない人もいるんじゃない」


 平民と貴族の壁。私自身は全く考えた事がなかったし、私の周りの人はわりとそう言う事を気にしないタイプが多かった。

 オルセーヌさん、ケイト、ケイトのお父さん、他にも沢山の使用人。私の周りの多くは平民だがそんな事気にならないくらい仲は良い。前回まではあんなに険悪と言うか嫌悪れまくっていたのにお母様がいるだけでこうも違うとは……頑張って本当に良かった。

 とは言え私の周りが少数派である事も理解している。実際過去五周のお父様含む私の周りの貴族、そして攻略対象の関係者は軒並みそんな奴らばかりだった。

 だからこそそんな過酷な環境でも挫けず頑張るヒロインに王子様方は心打たれる訳ですし。

 そしてそんな健気なヒロインがハッピーなエンディングを迎え、悪役(マリアベル)の末路を反面教師にして身分の壁も段々と改善されていく。

 

 今は原作前、ヒロインはおらず反面教師(わたし)はフラグを折る事に必死だ。

 つまり、まだ身分の壁は改善されていない。

 だからエルメールは自分といる事で私の、評判が落ちる事を気にしている。言葉上では。

 でも本当に心配なのはプリメラの事だと思う。幼馴染みだし、プリメラの様子を見る限り凄く仲が良いんだろう。

 私が注目を集める事で一緒にいるプリメラまで被害が及ぶのでは無いか、もしかしたら平民を幼馴染みに持つプリメラを私が倦厭すると思っているのかもしれない。

 しないけどね、そんな事。でも顔面だけならしそうなんだよ、心の底から罵倒しそうなんだよ。悪女顔辛い。

 ただ、理由ややり方はどうであれ、友人を心配するのは良い事だと思う。同じ幼馴染みを持つ立場として、そこだけは共感できた。

 

 あくまでそこだけ、ね。


「エルメールは自意識過剰なのかしら?」



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