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第四十六話 肝が冷えるってこう言う事か。

「っ、ご、ごきげんよう」


 くそぅ、ちょっと声が上擦った。

 脊髄反射で答えちゃったから猫を被ってる暇がなかった。第一印象が大事って言ったばかりなのに。


「……?」


「ごめんなさい、何でもないのよ」


 案の定、不思議そうな顔をされた。 笑って誤魔化したけど。

 ゆっくり息を吐いて心を落ち着けて、お隣さん見た。

 長い金髪をサイドで三編み、可愛らしい蝶々のモチーフがついている。濃いブラウンの瞳は丸くて目尻が下がっていて、新入生らしい幼さがあった。制服も基準のブラウスとスカートに若草色のカーディガンを羽織っただけの極々普通の着こなし方。

 決して派手さは無いが清純、清楚と言った言葉がぴったりな可愛い子。


 ……正直な感想。ものっすっごく安心しました。

 派手で豪華で、見た目だけならマリアベルと気の合いそうなタイプだったらどうしようかと。

 下手したらゲームの二の舞でしたよ。今のところその心配は無さそうだけど……彼女が見た目を覆す性格でなければ。

 第一印象って大事だけど、それが正しいとは限らないから。私も含めて。


 ……あれ、今名前呼ばれた?


「あの……」


「はい」


「何で、私の名前……」


 まだ自己紹介とかしてないよね?


「あぁ……昨日の入学式で全員の名前を呼んでいたので、それで」


 え、嘘、覚えてない。入学式はサーシアに神経集中させてたからなぁ……。

 どうしよう私この子の名前覚えてないよ。


「そうでしたの……ごめんなさい、私あなたのお名前を覚えていなくて」


 何とか知ったかぶりしたかったけど、制服に名札はないし鞄にも名前を示してそうなものがついてなかったので断念した。

 失礼な気もしたけど……下手に嘘をついてボロが出るよりマシだろう。


「いいえ、私も皆さん覚えている訳では……マリアベル様は有名ですもの」


「え……?」


 有名?え、私は聞いていないぞ。地味に地味に、平和な学園生活を送りたいと思ってるんですけど。


「二人も潜在の属性持ちを見つけられたとか」


 それか……っ!!!

 うん、そりゃ目立つよね。ただでさえ属性持ちは少ないのに、二人も関わってますもんね!でも私別に見つけてないんだよ、百パーセント偶然なんだよ!


「いえ、私は……」


「その上ルーナ王子の婚約者候補ですもの、皆注目してますわ」


「そんな、私は……って」


 ……ん?んん? んんん!?

 ごめん聞き捨てならない一言がございましたね。

 コンヤクシャコウホ?え、ごめん私その日本語知らないなー。と言うか、知りたくないなー。

 私の無駄なスルースキルを発動させたい。でもそれしたら面倒な印象がついて回りそう。


「えっと……確かに一度は候補に上がったらしいですけれど、もう外れているはずですよ?」


 だから変な誤解をしてくれるな。


「ルーナ王子の婚約者候補は沢山いらっしゃいますし、私なんかはギリギリ引っ掛かっていただけですから」


「そうなんですか?」


「えぇ」


 よし、とりあえず一人。出来ればここから噂が広がってくれると嬉しいんだけど。

 これ以上長引かせると逆効果になりそうなので、この辺でこの話題は終わろう。

 何よりそろそろこの子の名前を知りたい。


「えっと……それで、あなたのお名前は?」


 自分で思う、ぎこちないな。 

 別に人見知りとかではないと思ってたんだけど、如何せん人と話すのになれてない。

 あれ、やっぱり人見知りなのか?攻略対象に比べたら皆そこまで怖くないし、平気だと思ってたんだけど……あぁまず比べる対象が可笑しいのか。


「あっ、ごめんなさい。私、プリメラ・エルガと申します」


「プリメラ、様……これから、よろしくお願いいたします」


 とりあえず、隣人の名前ゲット。

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