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第三十七話 忘れた頃にやって来る

 一回目のお茶会は成功と言って良いだろう。

 ネリエルの引きこもりは続いているが、少なくとも人と話す練習にはなったはずだ。

 お姉ちゃんと呼ばせることには失敗したけど……それはいつか絶対叶える。


 ジュリアーノ伯爵が帰ってきたことで二回目の開催は遅れてしまったけど、レイヴさんが言い訳を考えてくれたおかげで開催自体が見送られる事はなかった。

 二回三回、回数を重ねている内に習慣化し、今では定期的にネリエルを家に招くまでになっていた。


 そして今日は、前回から二週間ぶり、十四回目になるお茶会である。


「今日はマカロンを用意したの」


「昨日マリアがいきなり食べたいって言い出してね」


「マリアちゃん、マカロン好きですもんね」


 ふふ、と軽く微笑むネリエルはすっかりなれた様子で、喋り方も前よりスムーズになった。たまにつっかえる事もあるけど、変な間が出来る事は無い。

 月に二回ペースで開催しているお茶会を十四回、私が初めてネリエルに会ってからすでに半年以上経っている。

 半年でここまで改善されたと喜ぶべきなのか、半年経ってもこの程度しか改善されていない事を悲しむべきなのか。

 部屋に引きこもるのは相変わらずだけど、少なくともパーティーには出席するようにはなったらしい。レイヴさんからお礼を言われた。凄い迫力で、ちょっと怖かった。


「そういえばマリアちゃん、ミリアンダ侯爵主催のパーティーに参加されないって本当ですか?」


「っ、ごほ……」


 吹き出すかと思った……耐えたけど。突然のミリアンダ発言は衝撃がデカい。

 ツバルとやり合ったのはもう大分前になるけど、実はそれ以来彼とは一切会っていない。会いたくも無いけど。パーティーで顔を合わせそうになるとお父様にくっついてやり過ごしていた。

 それなのにこの間、ミリアンダ侯爵がパーティーを主催するからと招待状が届いた。

 悲鳴上げたよね。本気で呪いの手紙だと思った。

 絶対行きたくなくて、もう貴族の義務とか言ってられなかった。丁重にお断りさせて頂きました。

 でも、何でそれをネリエルが知ってるの!?

 

「この間のパーティーでミリアンダ侯爵のご子息にお会いして……マリアちゃんが来ないって残念がっていらしたから」


 嘘だ!それ嘘だよネリエル!あの策士いたいけなネリエルを騙したな。

 

「僕は参加する事になっているので……マリアちゃんと一緒に行けたらって思ったんですけど」


「……ごめんね」


 残念そうに眉を下げたネリエルに居たたまれなくて謝罪をすると、ネリエルは慌てて「気にしないでください」と笑った。

 うん、本当にごめんよ。でもいくら可愛いネリエルのお願いでもこれだけは絶対に譲れないんです。

 あの闇策士に会うなんて、冗談じゃない。

 思いっきり喧嘩売っちゃたから何されるか分からないじゃないか。恐怖対象に自分から会いに行く自虐的趣味は無い。

 ケイトも私から散々聞かされたせいか何も言わなかった。


「でも僕、侯爵家のパーティーなんて行った事なくて……」


 ネリエルは王族の誕生パーティーも欠席するくらいだから、当然他の貴族からの招待にも応じなかった。やっとパーティーに参加する様になったのはここ最近で、それも小規模のパーティーからリハビリしている状態。

 ……よく、侯爵家のなんて規模の大きいパーティーに参加しようと思ったな。成長を喜ぶべきかもしれないけど、よりにもよってミリアンダ侯爵主催とは。 複雑な心境だ。


「規模は大きいかもしれないけど、作法はいつもと変わらないわ。気を張らず、いつも通りで行きなさい」


「はい、ありがとうございます」


「でも、一つだけ」


「……?」


「……策士には、くれぐれも気を付けて」


 気を許してはダメ、絶対。ホラーより恐ろしい人だから。


「さくし……様?」


 キョトンとしているネリエルに、私はただ曖昧な笑みを浮かべた。

 誰とは明言しないけど、本当に気を付けてね。


 そうして送り出したネリエルが次のお茶会で、ツバルと親しくなったと笑顔で教えてくれた。ネリエルがツバルを誉める度に、私の中のツバルと言う株はだだ下がっていった。 

 ネリエルを闇に引きずり込んだら許さねぇぞあいつ。



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