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第二十四話 スルースキルは完璧だってば

 その言葉に、マリアベルがヒロインにしてきた仕打ちを思い出す。

 因果応報、自業自得、身から出た錆。目の前で罵倒され嘲られ、最低最悪の悪役令嬢だとは分かっていたが、自らに降りかかると余計に認識するマリアベルの最低さ。

 本当に、よくこんな事やってたなあいつ。


「そんな瞳をよく人前に晒せますわね。テンペスト家の血が少しでも正しく受け継がれているなら、ルーナ様の記念すべき生誕の日にそんな物を見せられる訳がありませんわ」


 よく回る口だ。サラサラと何の抵抗もなく人を陥れられる人種、マリアベルとそっくり。

 子は親をみて育つ。私はすでにある程度育っているからそうでもないけど、彼女達は親を見てこうなったんだろう。

 さっきから蔑むのはお母様やウィンプト家の事ばかり。つまり彼女達の……いや、フランシア様の親は伯爵家の娘であるお母様と公爵であるお父様の結婚をよく思わない人間と言う事か。目の色の事を言ってくる辺り、よく見てるし学んでる。

 まぁね、貴族だし、身分の差とかうるさいとは思ってたよ。特にお父様とお母様は身分だけでなく容姿にも差が大きいから。私はお母様好きだけど、客観的にみたら確かに派手さがなくて地味な方だと思う。お父様がド派手だから並ぶと余計に分かるけど。

 しかしまさか、私に本気で突っ掛かってくるとは。

 王族の分家だからかな……公爵家くらい何でもないってか?


 まぁ、別に良いけどね。


「私は自分の目を気に入っていますけど」


「……趣味がお悪いのね、可哀想に」


 どんなリアクションを期待していたのか。

 泣きも喚きもせず、それどころか顔色一つ変えない私にフランシア様は不快だと言わんばかりに眉根を寄せた。

 泣いてほしかったのか喚いてほしかったのか、それとも怒ってほしかったのか。とにかく自分の言葉に感情を左右される様を見たかったんだと思う。

 でも悪いけど、こちとら伊達に五回も悪役やってない。

 やる側がやられる側に何を求めるのか、分からなかったら人間(マリアベル)はあそこまで堕ちない。

 

「フランシア様にとって私の瞳が悍ましい物であったとしてもそれは仕方がありません。私の見目をどう感じるかは人それぞれですから」


 事実、嫌われてしまったならしょうがないと思っている。私が何かしでかしたなら謝るが、 私の容姿が気に食わないならもうどうしようもない。整形しか方法がないし、そこまでするほど彼女からの嫌悪感に対して思う事はないから。

 死亡フラグに怯える事を思えばこのくらいどうって事はない。驚いたし、意味不明だなーとは思うけど、それだけ。


「ですから、私の目が不快であるならそれで構いません。私を視界に入れないよう、頑張って下さい」


 最後に、ニッコリと笑ってやった。これで終わりだ、と言う意味を込めて。

 さっさと終わらせないと騒ぎになる。子どもが集まっているど真ん中、しかも一対七だからさっきから視線が痛いんですよ。

 こっちは目立たずに今日を終えるだけが目標なのに、何でこんな事で脅かされにゃならんのだ。


「ご用がなければ、失礼」


 足取り軽く、フランシア様ご一行に背を向ける。

 慌てず騒がず優雅に、何でもないんですよーって風を装って。

 視線が背中にグサグサ刺さっている気がするのは断じて気のせいだ。


 あ、ブラウニー見つけるの忘れた……。



× × × × 



 光線みたいな視線を抜けて、壁際に並べられている椅子の一つに座る。取ってきたスイーツ達を楽しむために、出来るだけ目立たない、子ども達の集まりに近からず遠からずの場所を選んだ。

 お皿にはまだ空きがあるしブラウニーに未練はあったけど、あそこに戻る度胸はない。

 断ち切るようにサイドテーブルにお皿を置き、クッキーから手を付けて、マカロンもフィナンシェも美味しい。

 流石王族のパーティー、どれも絶品ですね!

 量も大きさも大した事無かったので順調に食べ進めて、最後に食べたシュークリームはダブルクリームでカスタードと生クリームが詰まった物だった。

 美味しかった、ブラウニーは無かったが大満足。

 

 しかし、甘いものを食べると、喉が乾くものでして。


「紅茶でも持ってこようかな……」


 出来ればお茶が良いけど、庶民の飲み物と言われるそれがここにあるわけ無いし。ジュースは糖度が高すぎて逆に喉乾きそうだったからなー。

 ここは無難にストレートティーでも飲もうかな。


「こちら、どうぞ」


「え……?」


 お皿も片したいし、そう思って立ち上がろうとした。結果その前に声をかけられた訳だけど。

 スカートを叩いている最中だった為俯いていた顔を上げる。

 まずは、真っ白なティーカップが目に入った。白に飲み口のところだけ青く縁取られた、シンプルだけど品のあるデザイン。

 次には、水色。

 空よりは水を連想させる色合いで、私が知るよりもずっと短いけれど面影を残すそれは、私を絶句させるに十分な効果を発揮した。


「な、何で……」


「紅茶をご所望の様でしたので、よろしければ」


「いえ、あの、そうでなくて……!」


 何で、あなたが私に普通に話しかけてくるんですか!

 初対面!そして出来れば会いたくなかった相手!勿論私にとってはだけど。


「……あぁ、すみません。名乗りもせずに失礼でしたね」


 ニッコリと笑ったその人はティーカップをサイドテーブルに置くと胸に手を当てて頭を下げた。


「私はミリアンダ侯爵の息子、ツバル・ミリアンダと申します」



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