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第二十三話 キャラ被ってません?

 吐きそうな心境でたどり着いた会場は……端的に言うと、えげつなかった。

 王族ですし、お城なのは全然想定内。我が家も豪邸だけど所詮は一貴族、王族相手じゃそりゃ劣りますよ。

 でもね、それでもさ、端から端までが認識困難な程の広さの会場なんて思わないじゃん!


「…………」


 唖然、茫然、驚愕。私の現在の心境は三つの言葉で言い表せる。現実逃避しようにもギラギラ光輝くシャンデリアが眩しすぎて現実直視しか出来ない。いじめか。

 お父様とお母様は挨拶回りに忙しいし、それは他の貴族の親達もそうらしい。気が付けば子どもは子どもだけで、デザートやジュースのあるコーナーに固まっていた。

 立食形式だが、やはり招待客の層に合わせているためどうしても大人寄りの料理が並ぶため子どもは手が伸びづらい。それに子どもはご飯よりお菓子が好きだ、多分。少なくとも私はケーキの方が惹かれる。


 今のところ、ルーナ王子もソレイユ王子も、新しく浮上したツバルもネリエルも会っていない。王子は忙しいだろうし、大人より少ないとはいえ子どもも中々の数だ。

 ……ケーキ、食べても大丈夫かな?

 甘くて華やかで、かつ美味しそうなケーキの山が目の前にあって我慢できるわけがない。だって、マリアベルは九歳だし!


「……ん、んまっ」


 試しに取ったカップケーキはとても美味しかった。スッゴい鮮やかなピンクだったけど……見た目によらないもんだね。それを選んだ私も私だけど。

 流石王族の誕生パーティー、外れが無さそうだ。

 クッキー、マカロン、フィナンシェ、シュークリーム。あまりたくさん食べられないから全部一つずつ取って見て、お皿の空き具合を確かめる。


「ブラウニー、無いかな」


 チョコレート系が食べたいなぁ。これだけの種類があるならどっかに有りそうなんだけど……出来ればあまり動き回りたくない。

 横着してるんじゃなくてばったり出会っちゃう危険は避けたいから。


「本当に変わった瞳の色なのね」


「………ん?」


 キョロキョロと近場にお目当ての品が無いか探していた時近くからした声は……多分、私にかけられたものだと思う。

 声につられて振り返ったら、腕を組んで私を見つめている女の子が七人。 七人が私に用があると言うよりは、センターの子が残り六人を付き合わせている、と言う感じ。

 何と言うか……物凄く親近感を覚える光景だな。

 高校生のマリアベルもこんな風に取り巻きを引き連れてカレンへの嫌味と嫌がされをばら蒔き続けていた。悪意のバーゲンセールみたいでしたよ。貴族なのに大安売りだなんて経済的だよね。勿論皮肉です。


「テンペスト家のご令嬢、マリアベル様ですわね?」


「そうですけれど……失礼ですがどなたかしら?」


 私の言葉に取り巻きたちの目がつり上がる。

 え、何、初対面でしょこの人。そっちだって私の顔と名前に不安があったんだよね、疑問符見逃さねぇぞ!


「王族の分家筋に当たる、フランシア・セトネ・タイガーソンと申します」


 分家……ルーナ王子の親戚みたいなもんか。顔立ちはあんまり似てないし、髪の色とかも違うけど。

 ルーナ王子やソレイユ王子は銀髪だけどこの……フランシア様はブロンドだし。きつめの縦巻きのはよく似合っているけど。

 あ、目の色は同じ碧だ。でも碧眼はありふれてるから似てるとかの判断基準にはならないな。

 歳は多分私より、いやルーナ王子よりも上かもしれない。顔立ちでは判断し辛いけど、身長的にみて、多分。

 思わずまじまじと観察しちゃったけど、王族の分家さんが私に何の用ですか?


「あなたの事は聞いてますわ。何でも属性持ちの発見に貢献なさったとか」

 

 属性持ちって、グレイ先生の事だよね。

 属性持ちが中等部への入学前に見つかる事は少ないから、ある程度噂になったりするのは仕方がないと思ってたけど……私は貢献したのでは無く原因を作っただけなんですが。

 間違った伝わり方してる気がするなぁ。


(わたくし)は何も……むしろ私が彼に助けていただいた方ですから」


「あら、そうでしたの」


 そうなんです。

 噂が正しく伝わる事は無いだろうけ、せめて直接聞かれた分だけでも訂正しておかないと。どこから尾ひれやら背鰭やら胸鰭やらがつくか分かりゃしない。

 私の言葉を聞いたフランシア様は納得したと言わんばかりに何度も頷き、そして笑った。

 何か……この笑い方知ってる。


「皆がとても評価なさるから期待していたのだけれど……やっぱり、噂は噂ですわね」


 あ……思い出した。

 この表情、この口調、私もよく知っている。


「所詮は──ウィンプト家の血を引く人間ですもの」


 これは、マリアベルがヒロインを見る時も表情、ヒロインと話す時の口調。

 人を、侮辱し嘲笑う時のそれ。


「身分も弁えず公爵家に嫁ぐなんて、身の程知らずの血統に期待をした私が間違いでした」


 センターの、フランシア様が一歩私に近付く。

 腰を少し折って私と目線を合わせると、嘲りの笑みが消え、ただただ無表情で侮蔑の視線を向けられる。


「本当に、気持ちの悪い瞳だこと」

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