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騙されたという事について話そう

「マスター、聞いてい欲しい事があるんだ」

「あら、改まってどうしたの?」

「ある人の相談に乗ったんだけどね、よくよく聞くと僕は以前にもその人から同じ相談を受けた覚えがあるんだよ」

「それは以前の問題が解決していなかったとかじゃなくて?」

「そうじゃない。僕は間違いなく同じシチュエーションの同じ事象についての相談を持ち掛けられたんだ」

「お相手の方が随分とお年を召されていたとかは・・・」

「いや、僕より随分若い子だよ。マスターも随分と辛辣な事を言うね」

「勘違いしないで、私は考えられる可能性を挙げただけよ」

「それは失礼。でもおかしな話だとは思わないかい?彼女はその事に気付いてもいないんだ」

「あら、お相手は女性なのね。その辺りを詳しく聞きたいわね」

「行きつけの店の店員さんだよ。その辺は勘ぐらないで欲しい」

「まあ、いいわ。それでその女が同じ相談を二度してきたと」

「ああ、そうなんだ。付け加えるなら彼女に記憶障害の気がある訳でも無い」

「それはあなた、気にも掛けて貰えていないのよ」

「どういう事だい?」

「会話に意識が向いていない。会話する相手に興味がない。だから誰に何を話したのかを覚えていない。典型的な釣り方ね」

「なるほど、彼女にとって僕は数あるお客様の一人でしかない。そこに特別扱いは無いって事か」

「ええそうよ。人が興味を示す話なんて限りがあるわ。悩み相談なんてその常套句よ」

「弱っている人間ほど助けたくなってしまう。それを見事に裏返したわけか」

「ご名答。付け加えるなら、その話をされる程、私はあなたの事を信用していますという概念も同時に」

「参ったな。僕としてはそんなつもりは無かったのに、見事に釣り堀に入れられていたって事か」

「接客業なんてそんなものよ。お客様は等しくお客様でしか無いんだから」

「そんな事は重々承知してるけどさ。言葉にされると何だか辛くなるね」

「騙されていると知って、知らない振りをするのがそんなに辛い?」

「いや違うよ。彼女の事はどうでも良いんだ。僕が気になるのはマスターもそうなのかなって」

「本当に騙されやすい人ね。心配で目が離せなくなってしまいそう」

「茶化さないでくれよ。これでも少しは傷ついてるんだ」

「心配しなくていいわ。私があなたを騙すとしたら、珈琲の豆を黙ってワンランク落としたものにするくらいよ」

「それは喜んで良いのかどうか。僕がそれに気付かないとでも?」


「ええ、きっと気付かないわ。どんな珈琲豆を使っても、世界で一番美味しく煎れてあげるんだから」



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