勇者を呼び出せ!!
「パ・メ・ラちゃ~~ま~~!!」
「うわぁ!! 何だお前はぁ!!」
冒険者ギルドに飛び込んできた幼い少女に、筋肉モリモリのごついBランク冒険者男がもそ凄い勢いでとびかかり、だきつこうとする!!
「わ! た! く! し! ざます!! 麗しきパメラちゃまのおかあちゃま、クララざます!!」
「ク、クララ……だと!? そんなわけあるか!! 本当のことを言え!!」
「そいつはBランク冒険者のシックってやつだ」
エイトは親切にその冒険者の事を教えてやる――
「ま、幼い女の子に手を出すような奴だから、近日中に犯罪者用のEランクに落ちるだろうけどな」
「誰がEランク落ちになるか!! 俺様はAランク冒険者になる男だ!!」
そんなところへ高価そうな衣装を着た貴婦人が、その美しい装いとは違う荒々しい口調で叫びこんでくる――
「うっわぁ~~これが外にあったドラゴンの首!? すっご~~い!! すっご~~い!!」
「御領主様――いえ、パメラお嬢様!! 触れてはいけません!! どんな呪いがあるかわからないのですよ!!」
続いてギルド内に入ってきたのは同じく高価そうな衣装の男性が二人――中年と老年――老年の男の方はその紳士然とした態度はそのままだが、中年の男の方はなぜかテンションが異様に高い――
「ああっ!! あ、あそこで叫んでいる超絶美人の貴婦人のはわたくし、ざます!! わたくしのかわいいパメラちゃま、それに夫のジェイソル様、ついでに家令のラッセル!!」
「――てことは、アレがこの町の貴族領主一家、か――」
エイトはあきれた目で飛び込んできた奇怪な行動をとる男女数人を見る――
「うわ~ん! 手に血が付いた~~!」
「お嬢様! だから言ったのに!!」
「ゴライオス!! 出てこい!! 速く出てこい!!」
「うおお!! Aランク冒険者になる俺様の身体!!」
「――本当にあれがこの町を治めているなら、もはやこの町に未来はないな――早々に別の町に行くか……………」
冒険者ギルドには他にも何人か、
「自分が自分じゃない!」
「身体がおかしい!」
「僕、おかしくなっちゃった~~!」
「えへへ、えへへ、えへへ」
「私はこんなおっさんじゃないわ~!」
とか言ってくる者たちが押し寄せてきて大混乱していた――
また、ギルド職員や冒険者数名も、同じような状況でまったく使い物にならず、ただでさえ昨日のドラゴン騒動で人数が減っている今、解決の糸口すら見つけられずにいる――
そんな中、ギルドメンバーのゴライオスは――何とか正常に動かせる冒険者たちを引き連れ首を落とされたドラゴンの死骸と――生き残っていた重傷者たちを町まで運び込んだ受付嬢のドナテラと共に、ギルド上階にあるマスタールームに籠ってしまっていた……
「出てこい!! ゴライオス!! 領主命令だ!!」
少女の身体を使う貴族領主が階上に向かって叫ぶ!!
「さっさと出てこなければ貴族権限で強制執行する!! 今すぐ王都のグランドマスターに連絡をとれ!! 勇者ハロルドを呼ぶんだ!!」
「うるさいぞ――騒ぎが上の階まで響いている!!」
「ふご~! ふご~!」
そこへやっと反応があり、上の階からギルドマスターのゴライオスと、受付嬢のドナテラ――の身体を使う者たちが降りてくる――だが、二人の身体は普段のギルドマスターや受付嬢の恰好ではなかった――
「な……なんて格好をしているんだ!?」
「し、正気か!? ドナテラ嬢!?」
「ギルドマスター!? 何で縛られているんです!?」
ギルドマスターのゴライオスは両手足を拘束されたうえ口も封じられている。唯一自由になっている目からは大量の涙が流れ落ちている――
対して、受付嬢のドナテラは受付嬢とは思えない奇抜な格好をしている――というか、露出度の高い女戦士、といった感じだろうか? ご丁寧に普段は壁に飾られているはずの巨大戦斧すら片手で軽々担いでいる――
「ああ、これか? なぜかは知らんがこのドロテアの身体はパワーに満ち溢れておっての! これならドラゴン討伐で戦死してしまった冒険者の代わりになると思って、色々準備しておったのだ!」
「ふご~ふご~!!」
カラカラ笑いながら戦斧を構え、ポーズをとるドロテアの身体――ゴライオスの身体は首を振り涙を流して抗議する――が、聞き入れられず、自分の身体がギルドマスターによって戦士として染められていくのを見ていることしかできない――
「フムフム、かつては大陸有数の槍使いと戦い敗れ、冒険者を引退しこの町の冒険者ギルドのマスターとして余生を送っていたこのゴライオス!! 新たなる身体を得、冒険者として返り咲きじゃ!!」
「ふんご~~!! ふんご~~!!」
「うるさいのう! ドナテラにはワシに代わってギルドマスターをやってもらわなならんのじゃから!! さあ、あきらめて業務の引継ぎ教育を受けるのじゃ!! ま、ワシの身体じゃから魔力キーで動く魔道具などに新たな魔力パターンを入力する必要がない、というのがこの状態の利点じゃな――さあ、そろそろ二階へ戻るぞ!!」
「まてぃ!! ゴライオス!! 王都、ギルド本部のグランドマスターに緊急連絡を入れるんだ!!」
自分の欲望のままに行動しようとする受付嬢の身体のゴライオスを、幼女が叫び止める!!
「おお、御領主様のお嬢様、パメラ様ではないか! どうじゃ? 今のワシの姿、かっちょええじゃろ!」
そう言って戦斧を構えてポーズを取る戦士姿の受付嬢――
「うわぁ! かっこいい!」
背が高いジェイソル子爵の身体からはよく見えたのだろう――そんな声が聞こえたが、当の幼女は少しムッとした表情で再び叫ぶ!!
「お前がその身体を乗っ取り冒険者家業を再開しようが男と結婚しようがどうだっていい!! 今、この町では人々の心と体が入れ替わり、大混乱が起きている!! 私もいつの間にか娘と入れ替わっていた!!」
可愛らし声で大きく叫ぶパメラの身体のジェイソル子爵――
「だがこのジェイソル・ド・リンク、娘の身体でいるわけにはいかない!! 娘の将来を奪うわけにはいかないんだ!!」
「……………おお!! パメラ様の中身はジェイソル子爵なのか? 良かったではないか! 若い娘になれて!」
「いいわけあるか!!」
そう言ってゼイゼイと息を切らせる幼女――こちらは見た目通り少女の身体スペックしかなく、秘めたる力なんてのはないらしい――
「この異常事態を解決するためにも、王都の冒険者ギルドのグランドマスターに連絡し、Sランク冒険者勇者ハロルドを呼ぶ!! ドラゴンの首が飛んできたわけではないが、おそらくこれがノムラダマスの予言詩に書かれている勇者の試練だ!!」
「ノムラダマス……」
「そうだ! お前もギルドマスターなら知っているだろう!? ノムラダマスの予言詩関連は、王都のグランドマスターに連絡する義務があることを!!」
かつて、異世界よりやってきて、この世界を救ったとされる者たち――
ノムラダマスとはそのうちの一人で、予知能力を持っていたとされるある意味伝説上の人物だ――
「………わかった………ギルドの魔導通信機を使い、グランドマスターに連絡を入れよう……」
幼女の真剣な訴えを聞いた受付嬢は―――――町を治める貴族領主の命令を聞いたギルドマスターは―――――今までの笑顔から表情を一変させると、いまだに涙を流しながらふごふご言っているギルドマスターの身体をともなって二階へ戻る――
そこへトコトコとついていく幼女――ギルドマスターの態度で、かなり心配なのだろう――懸命に急な階段を上り、二人についていく――
「……………ノムラダマスって異世界から来たっていう伝説の予言者? 俺、あいつの予言ってのが当たったっての見たことないんだけど?」
「黙ってろ、Cランク冒険者――これは将来のAランク冒険者シック様の将来がかかったとても重大なクエストだ! こんなおばさんの身体じゃ冒険者を続けていけないだろうが!!」
エイトのあきれたような言葉を聞いた貴婦人がそう言い返す――
「誰がおばさんざますか!!」
貴婦人の言葉を聞きつけたごつい冒険者が貴婦人に食ってかかる――そして、元の自分の身体を相手に言い争いを始める――
「やれやれ……それにしても将来Sランク冒険者なる予定の俺からしてみれば、噂に高いSランク冒険者勇者ハロルドってのがどんな奴か、調べておく必要があるな――」
そう言ってエイトは二階に上がる階段に目を向ける――
「……………ちょっと行ってみるか―――――」
そう言ってエイトは階段を上がる―――――
「Sランク冒険者――勇者ハロルドを早急にこの町によこしてくれ!! これは町の貴族領主ジェイソル子爵からの指名依頼だ!!」
「そうだ!! 指名依頼だ!!」
「お願いでございますですぅ、勇者ハロルド様に私を救ってくださるよう言ってくださいでございますぅ………」
冒険者ギルド二階、ギルドマスター・ゴライオスのマスタールーム。
そこには王都の冒険者ギルド総本部に連絡を送ることができる大型の魔導通信機が存在する。本来は定期連絡や緊急時以外は使用することは禁じられているのだか……
『緊急通信で勇者をよこせとは……一体何の話しだ? ゴライオス?』
魔導通信機が光を発し、はるか遠くの王都にいるはずの者の姿と声を映し出す――冒険者ギルド総本部のグランドマスターだ――
『しかも関係なさそうな女子供をともなっての通信とは……』
魔導通信機から映し出されているグランドマスターと相対しているのは、戦士の格好をした受付嬢と身なりのいい幼い少女、そして拘束から解放されたギルドマスターだ。
三人は口をそろえて言う――
「「「これはノムラダマスの予言詩にある事件!」だ!」です!」
『ノムラダマスの予言詩――』
珍妙な光景にあきれながら話を聞いていたグランドマスターは、
『“――来い”』
魔法で本を取り寄せる――
『―――――その町に残されているノムラダマスの予言詩は……ドラゴンの首が飛んできて呪いがまき散らされて、魔女と勇者が戦うというものだな?』
「そうだ! 今まさに、我々に起こっている出来事が呪いだ!!」
「ワシはまあ、この状態でもいいかと思っているが……」
「うわあああああ、隣の自分が信じられない~~!! まさに予言詩の通りでございますです~~!!」
『落ち着け!! まずしっかりと状況を説明しろ――本当にドラゴンの首が飛んできたのか? 呪いとはどういうものだ? 魔女はいるのか?』
光の中のグランドマスターは、少々あきれながら話を聞こうとする――
「あれの男がかつてこの国を救った異世界人の子孫と言われる、冒険者ギルド総本山のグランドマスターか……」
鍵をかけ忘れたのかそもそもかけていないのか、開け放たれた扉の向こうで、エイトは中の様子を観察する――
「なんか光の中にいる以外、ごくごく普通のおっさんだな――」
「何言ってるんだ!? グランドマスターのあのオーラがわからないのか!?」
「噂では国王陛下の命令すら聞かない勇者を、唯一扱える人物だと言われるざます」
「へ~~! そんなにすごい人なんだ!! でもさ、そもそも勇者って何なの?」
「勇者とはSランク冒険者に与えられる称号の一つです――他には聖女等の称号もあります――」
その後ろに貴婦人、Bランク冒険者、貴族領主、家令等が押し寄せ一緒に中の様子をうかがっている――
「勇者ハロルドはSランク冒険者に認定される前から仲間たちと共に数々の功績を打ち立て、つい最近はれて勇者の称号が与えられた、と聞いています」
「け……この俺もAランクに上がったらハロルド以上の功績を打ち立てて勇者の称号を奪ってやる!!」
「ん、まあ!! わたくしの身体で危険な冒険者をやるつもりざますか!?」
「うるさい! 中の話が聞こえないだろ!!」
『そもそも、呪いとは何だ? 後ろに見える連中も呪われているのか? それにしては元気そうだが――』
「呪いというのは、人間の入れ替わり、なのでございますです!!」
意を決したようにギルドマスターの身体を使うドナテラが話す!!
『はぁ? どういう意味だ?』
「私、ギルドマスターの身体でございますが、中は受付嬢のドナテラでございます!! 心、精神、魂、人格――人間の中身と呼べる物と人間の身体が入れ替わってしまっているのでございます!! 私たち、別人に、他人に、自分じゃなくなってしまっているのでございます!!」
「冒険者ギルドに何人か同じような訴えをしてきている者たちがいる! 町中のあちこちでこの現象が多発しているらしい! ああ、私は娘、パメラの身体だが、貴族領主のジェイソルだ!!」
「まあ、ワシがゴライオスなのじゃが、ワシはこのパワーあふれる身体でいたいのう……」
『本当なのか? 何かふざけた芝居をしているようにしか見えないが……?』
「……………ノムラダマスの予言詩にもある、隣人を信じられなくなる、というのはこの事なのだろう――自分の中身は別人だと言っても、信じてくれる人間はそうそういないだろうからな」
『……後ろに見える連中も、中身が入れ替わっているのか?』
「あ、俺は俺のままだ!」
「だから黙ってろ! Cランク!! 俺様はこんなおばさんじゃない!! 将来有望なBランク冒険者、シック様だ!!」
「わたくしは本来は清楚な貴婦人、クララ、ジェイソル子爵婦人ざます!!」
「私は子爵家の家令、ラッセルです――って、私もなぜか入れ替わってはいません」
「私はパメラだよ! 身体はお父さん!」
『カオス、だな――』
『でも、面白そうな状況だね』
突然、通信の向こう側にグランドマスター以外の人間が割り込んでくる――
『なんか面白そうな状況になってるじゃん! 本当に、人間の中身が入れ替わっているのかな?』
『おい、ハロルド! お前……何を興味津々になっているんだ?』
『いやぁ、僕もマーシャやサリアなんかと入れ替われたらいいな~~って!』
突然割り込んできたこの若い軽薄そうな男が――
「まさか、貴方様が勇者ハロルド様でございますですか!?」
『そ~~だよ! ま、名前を呼ばれるなら、おっさんより若い子の方がいいけど』
「うううう~~私もこんなおっさんの身体は嫌でございますです!! 勇者ハロルド様!! 私たちの呪いを解いて元の身体に戻してくださいでございます!!」
『へ~~おっさんの元の身体って?』
「ここにある、ギルドマスター・ゴライオスに乗っ取られているのが私本来の身体でございます!!」
『な~るほど! じゃあ元の身体に戻れたら一晩付き合ってよ!』
ゴン!!
軽い口調の勇者ハロルドが、映ってる光の外から攻撃を喰らう!!
『何欲望満載になっているのよハロルド! 困っている人たちの助けになる!! それが冒険者の理念であり勇者の使命でしょ!!』
「――あの女の子は?」
「勇者ハロルドのパーティメンバーのエレメンタラー、マーシャだろ! 有名人じゃないか!」
『ごめんなさい、呪いでひどい目に合われているのに、ハロルドが心無いことを……私の精霊術を使えばすぐにそちらに伺えます! 待っていてください! ハロルドもそれでいいわね!?』
『うん、それでできればマーシャと入れ替わってみたいな、僕!』
ゴン!
それは勇者パーティーのいつもの日常なのだろうか? 後ろでグランドマスターが何も言わずあきれた目で眺めている――
『サリアとルキウスもつれてきてよ! ノムラダマスの予言詩関連なら、きっとろくな目に合わないんだから!!』
『サリアはともかく~ルキウスの野郎はいらないんじゃない? 僕は別にあいつにはなりたくないよ~~』
ゴン!
まだ少しもめている声が聞こえるが、ハロルドとマーシャは光の映像から消えていく――
『とりあえず、勇者ハロルドが向かう間にどのような状況なのかある程度まとめ上げておけ――ま、心配するな――勇者ハロルドはあんな奴だが実力だけは本物だ――あいつの仲間たち、マーシャ、サリア、ルキウスも中々の粒ぞろい、きっとこの件の解決に役立ってくれることだろう――』
グランドマスターがそう締めくくり、光が消える――通信は終了した―――――
「ああ、やっと希望が見えてきたでございます――」
ギルドマスターはもうずっと涙を流しているが、その質は変化している――
「ワシはこのままでも――」
「あのチャランポランがSランクでなんで俺がCランク何だ? おかしくないか冒険者のランク付け!」
「あの勇者のオーラがわからないようじゃ、お前は一生Cランクだな――」
「道下じみた言動の中にも、隠しきれない何かを感じたざます――やはりこの町には勇者ハロルドが必要ざます」
「同感だ――娘に体を返せたら、正式に依頼してみよう――」
「かっこよかったね、勇者様!」
通信が終わり、口々に今見た感想を言い合う――その時!!
リンポラ♪
「「「「「―――――――!!!!!?????」」」」」
聞き覚えのあるような音が聞こえて――――――
「え……あ、身体が元に戻った!?」
「いや、戻ってない!!」
リエット・ベリー、13歳――貴族のお屋敷で最近働き始めたばかりのメイド見習い。
年よりも少し幼く見えるが可愛らしい容姿で、貴族婦人のクララからも目をかけられているという――
他のメイドたちからは、誰かに恋をしているんじゃないかという噂もある――
「そんなかわいいお嬢ちゃんの心が、わしという爺さんの体に閉じ込められてるなんて知ったら……きっと……きっと、泣き叫んでおるじゃろ!!」
そんなリエットの身体を自由に動かすという行為に罪悪感を覚えながら、ラーズじいさんの心は元の自分の身体があるはずの、町の門へと急いでいた――
「わしはすぐにでもこの身体をお嬢ちゃんに返す!! もしお嬢ちゃんが何かを望むのであれば、その望みを全て叶える!! 元に戻った後に何かしろと言われれば何でもやる!! それが一時でもお嬢ちゃんの貴重な時間を奪ったわしにできるせめてもの償いじゃ!!」
リエットの可愛らしい声でそうつぶやきながらトコトコと走る姿を客観的にどう見えるか――などと考えてしまい、慌ててその考えを頭の隅に押しやる――
「……………―――――」
何を言っても、どんな行動をしても罪悪感はたまる一方――ラーズは急いで町の門に到着する――そこで門番をやっているはずの自分の体を探すが……………
「あ、あれ?」
門の所には見慣れた若い門番が、エプロンをつけた見慣れない女と何か話している―――――自分の、年老いた門番、ラーズの姿は見当たらない―――――
「なんでお前は入れ替わってないんだ!?」
「町中の人間全員が全員入れ替わってるってわけじゃないんだろ? たまたまだって――で、本当にお前はお前なのか?」
「ああ! そうだよ! 非番で家で寝てたらドラゴン騒動に巻き込まれなかったラッキーと思っていたのに、いきなり身体が母ちゃんになってたんだ!! こんな身体で門番の仕事なんてできるかよ!! ……………母ちゃんは俺の身体で家事をこなしてたけど…………」
話の内容から考えると、エプロン姿の女性は若い門番の同僚らしい――
「うん、どうした嬢ちゃん? 今町の外に出たいってんなら名前と簡易的な目的を教えてくれるか?」
町の中から走ってきたメイドの少女を見つけた若い門番が、今まで自分には向けた事の無いような形式ばった口調で話しかけてくる――
「あ、あの……」
なんて言えばいいのかわからない――だが、自分の身体がどこに行ったのかを知らなければいけない――
「ワ、ワシは……いや、いやいやいや……も、門番の……ラーズ、は………い、今どこに………?」
「ラーズの爺さん? なにかの知り合いか?」
「悪いな、爺さんは、死んじゃったよ」
若い門番とエプロン姿の女性は、こともなげにそう返してきた。
「え?」
「ドラゴン騒動でゴタゴタしている最中、だれも爺さんに気をかけていなかった――オレたちがここに来た時にはもう倒れて動かなくなっていたんだ―――――」
「ちょっと大変だったよ――普通なら、教護院に運び込んで蘇生魔法を試すんだけど、今はドラゴン騒動の生き残り冒険者たちの治療で手一杯――てことで結局教会行き――騒動が落ち着いたら、ドラゴンとの戦いで犠牲になった連中と一緒に合同葬儀ってことになってる――」
「―――――……………」
若いメイド、リエットの身体でラーズは何も答えることができなかった―――――




