(45)休暇中の騎士たち
あのとんでもない出発の日から、二週間が過ぎました。
ラグーレン子爵家には、再び静かで忙しい日々が戻っていました。
そしてゴルマン様の結婚式の前から滞在していた騎士たちも、休みを終えて王都へと戻って行きました。
始めはびっくりしましたが、よく働いてくれるし、身元ははっきりしているし、本当に助かりました。
また来てくれないかな……と贅沢なことをつい思ってしまった、翌日。
新たに、別の騎士たちがやってきました。
「これから一ヶ月ほど、我々の休暇なんだ! よろしく頼むよ、アルベス! それに妹ちゃん!」
……えっと、我が家は王国軍の騎士たちの保養施設にでもなったのでしょうか?
戸惑いながら振り返ると、アルベス兄様は彼らが持ってきた手紙を読みながらため息をついていました。
私と目が合うと、慌てて笑顔を浮かべましたが……悪いことではないようですが、嬉しいことでもない、のかな?
どうやらアルベス兄様の同期ほどの、騎士隊長クラスの人が一人いるようですね。それから、たぶん騎士隊長さんの部下に当たる人たちが三人。
全部で四人。
前回より増えました。
でも確かに助かりますし、心強さは最高レベルだし、と笑顔でお迎えしました。
その一ヶ月後。
滞在していた四人の騎士たちが王都へ戻り、入れ替わりに別の騎士たちが休暇と称してやってきました。
今度は五人。
一人は、やはりアルベス兄様の友人の騎士隊長のようです。
戸惑いましたが、アルベス兄様が平然としているので、騎士たちの中で口コミで広がっているのかな、と首を傾げながら納得していました。
でも。
その一ヶ月後、また入れ替わりで休暇と称した騎士たちがやってきました。次の一ヶ月後にも同じことが起きました。
さすがに偶然とは思えません。
王都に近い好立地とはいえ、弱小領主でしかないラグーレン家に、常に複数の王国軍の精鋭騎士たちが滞在して、農作業とか土木作業とか大工作業とか、そういう日常の仕事をしつつ調理も手伝ってくれているのです。
……これ、いろいろとおかしいですよね?
六組目の新たな騎士たちをお迎えした夜、私はついにアルベス兄様を問い詰めてみました。
「これはどういうことか、教えてください」
真剣に聞いたつもりだったのに、アルベス兄様にじっと見つめられた後、深いため息をつかれてしまいました。
「お兄様?」
「……ルシア。お前、誰に惚れられたと思っているんだ?」
「え?」
「王弟殿下の想い人になったことを自覚しろ」
……あ。
「フィルの母君が暗殺された話は覚えているか? 自分の娘をあいつの妃にしようとしていた貴族もいる。つまり……そういうことだ」
それは。
もしかして、我が家に来る騎士たちは……私の護衛なのですか?
私が戸惑っていると、お兄様は気が抜けたように天井を見上げました。
「お前に護衛がつくだろうとは思っていた。でも……普通、騎士隊を動かすか? フィルが本気で動くとこういうことになるんだよ」
諦め切った顔で、お兄様はつぶやきます。
つまり……騎士たちが我が家に来るのは、休暇ではなく、お仕事の一環で……。
「……あの方たち、全然お休みになっていないわよね?」
「いや、まあ、休みは休みだな。意外に人気があるようだぞ。信用できる人間しか選べないのに、人選に苦労はしないらしい」
そういうもの、なのですか?
農夫風の田舎生活は、王都の貴族には人気があるとは聞いていますが。
毎日が田舎生活な私には、理解できません。
でも、助かっているのは確かです。
手荒れは減りましたし、領地の収入も安定しています。設備も充実してきました。護衛も兼ねてくれているなら、これ以上のことはありません。
……でも、王国軍の騎士の仕事なのでしょうか。
疑問は残りましたが、北部へ戻って行った時のフィルさんの泣きそうだった顔を思い出して、あまり気にしないようにしました。
「ルシア」
話は終わったし、今日はもう休もうかと考えていると、アルベス兄様に名前を呼ばれました。
私がお兄様の前に行くと、椅子に座るように勧められました。
「今日の連中に聞いた。……明後日あたり、フィルが戻ってくるらしい」
「明後日に?」
「もちろん王都に戻ってもしばらくは仕事があるだろうが、まあ、一応伝えておく」
お兄様はそう言って、少しだけ微笑んでくれました。
きっと、私が笑っていたからでしょう。
慌てて手で顔を押さえましたが、もうアルベス兄様は立ち上がっていました。
「いろいろやりたいことがあるのはわかる。だが、今夜はもう休みなさい」
私の性格をよく知っていますね。
そうですね。今夜はもう寝ましょう。……明日からの日々に備えて!




