(40)選択
私が知っているフィルさんは、昔からだらだら過ごすのが好きで、まだ幼い私に叱られて渋々動く人でした。
何も知らないまま、私はフィルさんをお兄様と同じように扱って……今思えば、とても失礼なことをしてしまった気がします。
「お前が年頃になる前に、釘は刺したんだ。妹におかしな真似はするな、と。ルシアが恋心を持つような事態になっても出入り禁止にする、とも言っておいた。幸い、お前はずっと変わらなかった。婚約もしていたから、そのまま平和に終わるはずだったんだ。でもルシアが婚約破棄されてしまって、しかもあいつの力を借りるハメになった。そのせいであいつの箍が外れた。……見通しが甘かった俺が、一番悪いんだろうな」
深いため息をつき、アルベス兄様は座り直して私をまっすぐに見ました。
「だが、こうなったからにはもう今まで通りにはいかない。……あいつは王弟だ。陛下の御子たちが幼い今、王位継承順位は暫定一位になっている。そのことを頭に置いて、聞いてくれ」
私はコップをテーブルに置きました。
お兄様はそれを見てから、ゆっくりと言葉を続けました。
「ルシア。お前は……フィルのことが好きなのか?」
すぐに答えようとしましたが、言葉になりません。
そもそも、私はなんと答えようとしたのかもわかりません。
私はずっとフィルさんが好きです。
でもお兄様が聞いているのは、昔の私が抱いていた、親愛の好きではありません。
「わかっているだろうが、あいつは高位貴族出身の妻を娶るだろう。……俺は、お前を愛人になんてさせたくない。子供は産めるだろうし、それなりの財産ももらえるだろうが、不安定な立場になる。だが、敢えてそう言う道を選ぶなら、お前に子爵位を譲ることも考えている。何かあった時には無関係だと言い張れるし、子が生まれたら……少なくとも子爵家の人間として扱われるだろうから」
硬い顔のアルベス兄様は、でも言葉に迷いはありません。
もしかしたら、いろいろな事態を想定していたのでしょうか。
さらに何か言おうとしましたが、アルベス兄様は口を閉じて首を振って立ち上がりました。
私が見上げると、優しい笑みを浮かべてくれました。
「俺としては、あいつのことを忘れてくれるのが一番なんだがな。あいつも自分の生まれは理解しているから、手を引いてくれるだろう」
「……お兄様とも縁を切ってしまうの?」
「仕方がない。もともと家格の差があるんだ」
それだけ言うと、お兄さまは扉へと向かいました。
でも、開ける前に振り返って私を手招きします。私がそばまで行くと、声を潜めながら真剣な顔で言いました。
「俺が出たら、しっかり鍵をかけろ。……フィルが来ても絶対に扉を開けるなよ。あいつの理性は信用しているが、あいつも普通ではないかもしれない。だから……」
「わかったわ。夜の間は絶対に扉を開けません」
「よし」
お兄様は満足そうにうなずいて、私の頭をくしゃりと撫でて出て行きました。
私は言われた通りに鍵を閉めました。
閉めてから、これで誰も来なかったら、ただ滑稽なだけだなと一人で笑いました。
気分は、思っていたより悪くありませんでした。
アルベス兄様が、私がぼんやりと思い悩んでいたことをあえて言葉にしてくれたおかげでしょうか。
お兄さまは、選択肢を示してくれました。
それを聞いて、私は既に結論を出していました。
ラグーレン子爵家に生まれた私は、お兄様と同じく独立を愛する誇り高い小娘です。誇りのために使用人を雇うお金を節約して家事も料理もするし、畑仕事も日焼けもする。
でも、その無駄に強い誇りと独立心があるから、王弟殿下を……フィルさんを別の女性と共有するなんて考えられないのです。
それを歪めてしまったら。
……私はいつか必ず心を壊してしまうでしょう。そんな私を見たら、フィルさんもきっと苦しむでしょう。
明日、フィルさんに会うことができるなら、昔のように友人の妹としてお別れを言いましょう。
眠れないほど後悔するかもしれませんが、これが一番いいはずです。年老いた時に懐かしい思い出として語ることができるかもしれません。
アルベス兄様が持ってきてくれた飲み物は、もう冷えていました。
でも私は少し飲みにくくなったそれを全部飲み干しました。軽食も食べました。
大丈夫。
私は恋に溺れるほど、かわいらしい性格をしていない。
泣くのはお別れを言った後です。
「……私は、大丈夫」
私は祈るようにつぶやいて、広くて豪華な寝台に横になりました。




