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【書籍化】婚約破棄されたのに元婚約者の結婚式に招待されました。断れないので兄の友人に同行してもらいます【コミカライズ】  作者: 藍野ナナカ
本編

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(32)東から中央へ



 王宮といえば。

 我が王国の中心であり、政治の中心である場所です。


 国王陛下の生活の場は北棟。

 戴冠式などが執り行われる中央棟。

 大きな塔を持っている東棟。

 これら三つの建物によって形成されていると聞いています。



 私が見上げている建物は首が痛くなるほど高い塔があり、城壁と一体化していました。ここが王宮であるなら、これは王国軍の本部がある東棟なのでしょう。

 話に聞いていた通りの光景です。


 アルベス兄様が騎士だった頃、まだ幼かった私は何度も王宮の話をねだっていました。東棟の廊下を各騎士隊のマントが華やかに翻る様子とか、歩兵隊の整然とした訓練とか、あるいは兵舎にある食堂で騎士たちが酒を飲みながらナイフ投げに興じる光景まで、何度も話してもらいました。

 もちろん、王宮で催される舞踏会の様子も大好きな話の一つで、お父様からはお母様と出会った時のことを、お兄様からは警備としての目で見た光景を話してもらいました。


 お父様が亡くなるまでは、私も大人になったら王宮の舞踏会に行くものだと思っていました。

 お父様が亡くなってからは、もしかしたらゴルマン様と一緒に行けるかもしれない、くらいの少し遠いものになっていました。

 ラグーレン領の状況がなかなか改善しない日々が続いて、ついにゴルマン様との婚約も破棄されて、私は王宮での舞踏会の存在を完全に忘れていました。


 そうでした。

 各地の貴族たちの税収などの状況を報告するこの時期、王宮では仮面舞踏会が開かれるのでした。

 あまりにも縁がなくて、すっかり忘れていました。



「表からなら、すぐ近くまで馬車で行けるんだけど。こちら側からでは馬車はここまでなんだ」

「だからと言って、馬を用意するか?」

「ドレス姿のルシアちゃんを長く歩かせるわけにはいかないだろう」

「まあそうなんだが。……お前、特権を使いすぎじゃないか?」


 アルベス兄様はぶつぶつ文句を言いながら馬に乗り、私に手を伸ばしました。


「ルシア、おいで」


 どうやら、お兄様と同乗するようです。

 私は一人でも馬に乗れますが、この姿では流石に無理でしょうか。

 踏み台があれば一人でもなんとかなるのに……と考えた時、腰に手をかけられて体が浮きました。


「えっ?」


 振り返る間もなく、私は別の馬の背に乗せられていました。

 女性用の横座り型の鞍が置かれていました。

 でも馬自体は体が大きくて、横座りで乗馬する女性向けの馬には見えません。反射的に手綱を持ちながら首を傾げた時、背後に誰かが乗りました。


「おい、フィル!」

「僕の馬なら、ルシアちゃんと同乗しても問題ないから」

「だったら、俺にもそれなりの軍馬を用意しろよ!」

「うん、まあ、軍馬を貸してくれる騎士が見つからなかった。……そういうことにしてくれ」


 アルベス兄様に睨まれて、フィルさんは目を逸らしていました。

 でも私から手綱を受けとって、もう歩かせ始めました。お兄様もすぐ後を馬を歩かせていますが、なんだか怒っているように見えます。

 私はもう一度首を傾げてから、フィルさんを見上げました。


「王宮の敷地は、乗馬は禁止なの?」

「普通はね。騎士隊はその限りではないし、この辺りでも近衛騎士には許されている」


 つまり、本当はここで乗馬しているのはダメなんですね?

 お兄様は特権と言っていましたから、馬で移動できるのはフィルさんのおかげなのでしょう。



 私は周囲へ目を移しました。

 間もなく日が暮れる時間で、城壁に囲まれた空は赤く輝いています。私たちが入った門の方向はすでに夜の空に近付いていますから、すぐに完全な闇に包まれていくでしょう。


 夕暮れを王宮の中庭で見るなんて、想像したこともありませんでした。

 赤く染まっている建物を見ていたら、フィルさんが軽く咳払いをしました。


「……ルシアちゃんは全然緊張していないね」

「緊張はしているわよ。もっとこぢんまりとした舞踏会と思っていたんだから!」

「そうじゃなくて……僕と馬に乗るのは初めてだろう?」

「そうだった? 子供の頃はお父様に乗せてもらったし、お兄様とはよく乗っていたから気にしなかったけれど、そういえばフィルさんとは初めてね」

「まあ、いいんだけど。僕はアルベスと同レベルなのか? ……嫌われていないから、いいか」


 フィルさんは暗い顔で何かつぶやいています。

 どういう意味か、聞くべきだろうかと悩んだ時、華やかな音楽が聞こえてきました。



「始まったね。あの正面の建物が目的地だ。二、三曲終わった頃に会場に潜り込む予定だから、そのつもりで。よし、ここまできたからにはしっかり楽しもう。隅の方なら目立たないから、たくさん踊ってもらうよ!」


 フィルさんはそう言って笑いました。

 私がよく知っている、明るくて子供のような笑顔でした。




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