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【書籍化】婚約破棄されたのに元婚約者の結婚式に招待されました。断れないので兄の友人に同行してもらいます【コミカライズ】  作者: 藍野ナナカ
本編

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19/75

(19)注目の的



「ね、ねえ、フィルさん。もう手を離してもらっても……」

「嫌だ。せっかくの機会なんだし」


 え、えええ?


 たしかに、今日は着慣れない本格的なドレスなので、手を取ってもらうのは心強いのですが。

 でも。

 私は歩きながらこっそり周りを見ました。相変わらず、周囲の人たちがこちらを見ています。


「……なぜ、こんなに見られているの?」

「ルシアちゃんが、とてもきれいだからだよ」


 ……それはないな。

 直感的にそう思いました。

 あえて言うなら驚きが五割くらい。残りは別の感情がうねっています。

 ゴルマン様に婚約破棄された話が広まっているのかもしれません。でもそれだけではない気がしました。

 なんというか、私の容姿が云々というようなふわっとしたものではなくて、もっと強烈な……例えば殺気のような……。


「……あ」


 殺気を呼び起こす感情を、一つ知っています。

 知識として知っているというか。


「……嫉妬? 私に?」


 何かが違う気がします。

 ……あ、そうか。

 フィルさんだ。私がフィルさんと一緒に歩いているから、女性たちは私に殺気を向けているのでしょう。アルベス兄様が言っていたのは、これだったのでしょう。

 そうだ、そうだったんだ。

 私のせいではないんですね、よかった。





 ゴルマン様とイレーナさんの婚儀は、伯爵家と子爵家の結婚に相応しく厳かに執り行われました。

 祭壇はオーフェルス伯爵家の勢いを示すように黄金をふんだんに使った豪華な作りで、蝋燭の光を煌びやかに反射しています。参列者席から見上げていると目が疲れてきそうです。

 さすが伯爵家だなと感心します。

 ……でも、そんな風に気を逸らそうとしても、居心地の悪さは続いていました。


 今まさに、婚儀が成立しようとしているのに。参列者たちは誰も新郎新婦を見ていないのではないでしょうか。

 そう疑ってしまうくらいの勢いで、私たちの席をうかがっていました。


 さすがに、あからさまに振り返ってくる人はいません。でも隣席の人とこそりこそりと囁き合い、ちらと肩越しに目を向け、すぐに逸らしてまた囁き合っていました。

 あるいは、背中に刺さるような視線を感じます。

 ……婚約破棄されたのに、なぜこの場にいるのかと嘲笑する視線はもちろんあります。でも、ほとんどが驚愕、疑念、そして嫉妬でしょう。



 これはいったい、どういう事態なのでしょうか。

 皆さんの目を引いているのは、私のシンプルなのに美しいネックレスですか? イヤリングの雫型の大粒の真珠ですか?

 それももちろん、注目されています。

 婚約破棄されたのに結婚式に出席している滑稽さも、興味を引いているのでしょう。

 でも、これは……間違いなく……。


 私はそっと隣を見ました。

 絶対に注目されている原因であるフィルさんが、この場でどんな顔をしているのかを知りたかったのです。

 美しい銀髪に端麗な顔立ちの人は……目を閉じていました。


 姿勢は美しく保ったまま、もの思いに耽っているかのように目を閉じています。……でもこれ、絶対に寝ていますよね?

 普通、こんな時に寝ますか?

 しかも、とんでもなく注目されているのに。


 愕然と見ていたら、フィルさんが目を開けました。

 明らかに眠っていたはずなのに、私の方を見た時には少しも濁りがありません。そのまま剣を握っても動きが鈍ることはないでしょう。


 さすが現役の騎士ですね。

 とちょっと見直していたら、フィルさんはとろりと微笑んで私の耳に顔を寄せました。


「ルシアちゃん。そんなに見つめられると、照れくさくて眠れないんだけど」


 ……いや、寝ないでください。

 私はフィルさんの顔を押し戻しました。





 結局、フィルさんは最後まで寝ていました。

 よく考えてみたら、直前まで仕事が忙しかったのでした。だから仕方がない……と思いたい。

 呑気に居眠りしている姿を見た周囲の人たちも、同じように思ってくれればいいのですが。

 そんなことをひやひやしながら考えていたら。


「これは、ようこそおいでくださいました!」


 婚儀を終えたばかりの新郎新婦とオーフェルス伯爵様が、私たちの席にやってきました。

 祭壇の間は、すでに半分以上の人が退室しています。でも、まだ戸口付近は混み合っていて、その人たちの視線が一斉にこちらに向いたのがわかりました。


 少し気が抜けていた私は、慌ててしまいました。

 立ち上がって挨拶しようとしたのですが、フィルさんに肩を抑えられて立てませんでした。

 ……え、ちょっと、私にどうしろと?


 一瞬混乱しましたが、フィルさんの手がぽんぽんと続けて肩を叩きます。

 そちらに気を取られたことで少し落ち着いたのでしょう。そばに立っているオーフェルス伯爵様とゴルマン様が私を見ていないことに気付きました。ゴルマン様の妻となったイレーナさんも、私を見ていません。



 三人が見ているのは、フィルさんでした。




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