番外編 24 (隼一) これからの生き方
時間が経つにつれて、お酒が入って皆のテンションが上がって騒がしくなっていく。
最初から酔っ払っていたようなシャルルは、ちょっと目を離すと鈴音の側に寄って来るのでうっとおしい。
「ねえ、スズ。ボクとあそぼうヨ。シャチョーはシゴトばっかでショ?」
「もう、シャルってば」
俺にも聞かせるようにワザと日本語で鈴音に腕を回そうとしてるのは、俺に喧嘩を売ってると捉えていいんだろうか。
でも俺には切り札がある。
一年前の取引以来、ジャンとは気があって個人的にメールや電話で話している。
話題はほぼ仕事の愚痴などだったが、彼の話題は手の掛かる甥っ子のことも多かった。ニヤリと笑って見せる。
「おい、シャル。ジャンから聞いてるから、俺は色々知ってるんだぞ。
お前、最近熱を上げてる女の子がいるそうじゃないか」
「ええ? そうなの? シャル、・・・」
目をまん丸くした鈴音は、掴みかかる勢いでシャルルにあれこれ質問をぶつけだした。
シャルルは完全にタジタジ。恨めしそうな顔で俺を見てくる。
可笑しい。
「本命がいる癖に人の女に気軽に声を掛けるからだ」
「なんだよー、シャチョーだって、おなじアナのムジナ、でショ」
「一緒にするな。俺が遊んでたのはずうっと昔の話だし、鈴音と会ってからは一筋だ。
・・よくそんな諺を覚えたな。だったらこれも覚えておけ。
二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。一度に多くを求めると一番欲しいものは手に入らない」
「ニトヲ、オウノーハ、イットー、モズー?」
首を傾げるシャルルに笑いながら鈴音が説明をし、そのまましばらく二人で話していた。
何を話しているのかはわからないが、よかったわね、しっかりしなさいよ、といった感じだろう。
二人の様子は、しっかり者の姉と困ったちゃんな弟みたいで、シャルル相手に本気で怒るのがバカらしくなった。
無事に皆の前で正式に婚約発表をした。
今後は社長夫人になる為の花嫁修行が始まるんだろう。まあ、花嫁修行という名の、お袋との話し相手がほとんどだろうけど。
お袋は初めて俺がまともに紹介した女の子が、鈴音みたいな可愛くてイイ子なので感激しているようだった。
今度、両家そろって食事をしようという話も出た。
鈴音は「うちは庶民だから大丈夫でしょうか」と心配しながらも、電話で確認したところ、父親も参加してくれることになって嬉しいと言っている。
先月、鈴音の祖母にも一足先に挨拶に行った。
その時には、涙を流して喜ばれた。
兄には、最後まで「お前が社長夫人なんてだいじょうぶなのか!?」と心配されていたが。
まあ、兄というものはそういうものだろう。浩太もメグミが結婚する時にはあんな風にやかましそうだな・・。
結婚という人生の一大イベントは順調に進みそうでなによりだ。
パーティーがお開きになると、皆タクシーで帰って行った。
もっと遊びたい、と駄々をこねる金髪ヤローもタクシーに押し込めてやった。
主役の二人にはスイートルームをプレゼントしてある。
「珍しく気が利きますね」なんて褒められてるんだかけなされてるんだか分からない言葉をもらったが。
ついでにもう一つ部屋を借りておいた。
もちろん、可愛い恋人を堪能するためだ。
おっかなびっくりした様子で部屋に入った鈴音は、部屋の豪華さに目を丸くし、バスルームを見たり窓に張り付いたりして、きゃあきゃあ喜んでいる。
「すごいです! 隼一さんっ! お風呂がガラス張り。湯船に薔薇の花びらがっ!」
金持ちをひけらかすつもりはないし、普段はあまり浪費する方じゃない。
だから、こういう時にはバーンと遣ってもいいんじゃないかと思う。
何度もするようなことじゃないしな。
「気に入ったか?」
「すごすぎです。こんなの、映画の中のシーンみたいで・・」
「だろ?」
食い入るように夜景を見ている鈴音を抱き上げて、キスをしながらベッドに降ろす。
跪いて、足を取ると、見る見るうちに顔を真っ赤にさせた。
「ちょっ、隼一さんッ、また・・」
一年前、初めて抱いた時にも同じように靴を脱がせた。鈴音はバッチリ覚えていたようだ。
すべすべの肌に唇を這わしていくと、相変わらず真っ赤になって全身を固くさせる。
「何度もしてるのに、お前はちっとも慣れなくて可愛いな」
「な、慣れるなんて、無理です。こんなに、恥ずかしいことなのに」
「その真っ赤な顔と涙目、堪らない。
この部屋は、鈴音をたっぷり味わうために取ったんだ。
明日は休みだから、いっぱいしよう」
「い、いっぱいって!」
反射的に逃げようとする鈴音にキスを落とす。
何度も舌を絡ませ合うと、目がうっとり色づいた。
「・・この一年で、鈴音はすごく変わったよ。すごく成長した。
仕事の面でも、俺の恋人としても。
だからご褒美だ。めいっぱい愛してやろう」
「・・はい」
俺の言葉に、鈴音は嬉しそうに笑う。
ベッドの中での彼女の微笑みは最高に綺麗だ。俺だけに向けられてるものだから、余計にそう思う。
照れてる顔も恥じらってる顔も、感じてる顔も全部、俺のものだ。
「俺も、頑張っただろ? だから、俺にもご褒美、たっぷりくれよ」
「はい。・・愛してます」
「愛してる、鈴音」
「はい」
アイシテル、なんて安っぽい言葉を自分が口にするなんて思ってもいなかった。
でも、それ以上にこの感情を表す言葉はない。好き、よりも強い感情。
たまにはこういうロマンチックな場所もいい。
こういう場所の方が普段よりも情熱的に求められる。
こうやって抱き合ってる今だけは、ワーカホリックだと言われる俺も、仕事を忘れて鈴音に溺れていたいと思う。
週が明ければ、俺も彼女も顔を引き締めて働くだろう。
仕事も、鈴音も、どちらも軽んじるつもりはない。
それが俺の・・俺達の生き方だ。
これで番外編も完結です。
どうもありがとうございました!
明日からは、新連載をスタートします。ほのぼの学園ものです。




