番外編 23 (隼一) パーティー
「ハイ、シャチョーさん、ゲンキー?」
一年振りの金髪ヤローは相変わらずで、ヨーロッパの絵画から出てきたようなキラキラっぷりだ。
「ハーイ、スズ!!」
「シャル!」
手にした馬鹿でかい花束を鈴音に渡して、ペラペラフランス語で話してる。
おおかた、誕生日おめでとう、ますます綺麗になったねとか言ってるんだろう。
真っ赤な薔薇が似合いすぎていて、呆れるくらいだ。
自分の恋人と他の男がハグを交わしているのを見てるのは面白くない。ましてやキスなんて。
すかさず手を伸ばして顔と顔が触れるのを妨害した。
「ちょ、シャチョー! ジャマ!」
「フン。日本に来たら挨拶は握手に留めるべきだ。ほら、もう皆集まってるみたいだから中に入るぞ、鈴音」
「はい、隼一さん」
鈴音は俺が差し出した手を嬉しそうに取る。
今日はお祝いなので、いつもよりも華やかな格好をしている。
真っ白のワンピースにピンクのボレロ。
可愛らしいシルエットなのにちらりと見える胸元のレースがエロチックだ。
シャルルが言ったように、鈴音はどんどん綺麗になっている。
少女のように可憐で清純に笑っている時もあれば、ふとした瞬間、ぐっとくるほどの色気を感じさせる時もある。
この一年で、彼女の成長は目まぐるしい。秘書としても女性としても。
今日は山本と親父の秘書、藤田の結婚祝いパーティーで、それぞれの仲の良い連中が集まっている。
式は身内だけでやるらしい。
親父もお袋と参加すると言っていたから、この場で俺達も婚約発表をする予定になっている。
本当ならもっと早く、婚約という形をとりたかったのだが、親父が引退を決意して、俺が正式に社長を受け継ぐこととなったので、その引き継ぎが想像以上に大変だった。
実質的な業務はほぼ俺がすでにこなしていると思っていたのに、親父が陰で支えてた部分はとても大きかったと思い知った。
小さな会社だから、多少のことは俺が頑張ればなんとかなるだろう・・・なんて考えは甘かった。
親父は、その穴を埋める為にも、藤田を俺の補佐につけるように指示を残した。
藤田は俺が学生の頃から親父の右腕として働いていて、俺のこともビシバシ育て上げてくれた男だ。
ミスはねちっこく注意するし、神経質で相手をしてると疲れる奴だが、能力はピカイチだ。
親父が去った今、俺の指導者だった男を部下に持つのは複雑だが、大いに貢献してくれることだろう。
それに社長夫人が未成年者では、また古狸のジジイ連中はガタガタ文句を言ってくるだろうということで、鈴音が誕生日を迎えて二十歳になるのを待って、ようやく正式な婚約発表となったのだ。
有名なホテルのレストランを貸し切って、パーティーは盛大に行われた。
「隼一さんっ、山本さんドレス着てます! とっても綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
結婚式さながらにケーキカットしたりキャンドルサービスのようなものをしたり、その度に鈴音が目を輝かせてうっとりと見つめているのが可愛い。
俺達の時にもやってやろうか、と気の早いことを言いたくなったが、言い始めたらお袋が首をつこっこんできそうなので止めておいた。
一通りのサービスを終えて、まったりおしゃべりする時間になると、皆に囲まれていた山本が俺達の方に来た。
ドレスと化粧と照明と幸せそうな笑顔で、いつもの五割増しで山本は女神のような美しさだ。
鈴音は感極まって涙ぐみながら、おめでとうと綺麗です素敵です、を繰り返している。
山本はそんな鈴音を胸に抱きしめた。
豊満な胸に顔を埋められて、鈴音が真っ赤になって慌てている。
なんてエロい図だ。
そこにシャルルが現れた。
「ビジンとビジンにボクもはさまれたいヨ! スズ、いれて?」
その場の男達が思っても口に出せないことをズバッと言いながら、シャルルが両手を広げ抱きつこうとして・・藤田に返り討ちにされた。
どっと周りが笑った。
シャルルは、馬鹿だが大物だ。将来は以外と有能な社長になるのかもな。
周りでフォローする部下は大変そうだが。
次、最終回です。




