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番外編 17 恋愛話

ランチは美味しかった。

私はご飯の量を三分の一に減らしてもらったから全部食べることができた。注文の時にこうやって頼むのも桐谷さんに教えてもらったことだ。

梨花さんは、にっこり笑って「まんぷくー!」とご機嫌だ。


「すず、なんか困ったり悩んだりしたら言いなよ。いつでも相談に乗るし」

「う、うん」

「だって、あの桐谷社長でしょ? あの、容姿端麗、将来性のある男、桐谷社長。

昔の女・・はどうか知らないけど、社内でも社長に目ェ付けてるお姉様方は大勢いるだろうし、文句言ってきたりこっちに来なさいよとか呼び出されても、一人で対処しようと思っちゃダメよ。

社長を呼ぶか、私を呼ぶのよ!」

バンっとテーブルを叩く梨花さん。私はコクコク首を縦に振った。



「聞いてよ、すず。私が大学の頃の前の彼なんだけどね。付き合ってた時に前の彼女がいきなり押しかけてきてさ。彼と別れてよ!とか怒鳴られて。めちゃくちゃ修羅場だったことがあるのよ。

その時・・」

梨花さんは自分の過去の恋愛体験を語り出した。

そう言えば今までも社員食堂で皆さん色々な恋愛話をしてた。ただ、その時は全く自分には縁のないものだと思って、しっかり聞いていなかった。そういう話を聞くのは恥ずかしかったし。


でも今回は参考にしようと思っていたのできちんと聞いた。

梨花さんの話はすごく衝撃的だった。

話の内容と言うより、自分との大きな違いに気付かされて。


私は、あんなに恋愛に熱心なのはシャルルだけだと思っていた。

けど、普通の人も中学、高校、大学で恋をしたりお付き合いしたりとするらしい。もちろん、シャルルのように遊びで何人もお付き合いするのは稀のようだけど。

梨花さんも話を聞いていると今までに何人かの人とお付き合いした経験があるようだし、なかには付き合って一ヶ月ももたなかった人もいたという。

他の人も、そう、なんだろうか。


・・桐谷さんは、何人の人とお付き合いしたのかな。

どんな人だったんだろう。

綺麗なひとだったんだろうな。どうして別れることになったんだろう?

今まで考えもしなかったけど、ふとそう思った。






時計を見たら午後の始業時間五分前で、二人して大慌てで店を出た。

「しまった! おしゃべりしてたら楽しくて時間忘れちゃったよ」

「本当ですね。・・わっ」

お店を出ると目の前にいた人に軽くぶつかり腕を取られた。

「こら、前を向いて歩けよ」「き、桐谷さん!」

顔を上げるとなんと桐谷さんだった。どうしてこんなところに?


「き、桐谷社長!?」

私以上に驚いて、口を開けっ放しにしている梨花さんに、桐谷さんは優しく笑いかける。

「君が、鈴音と仲良くしてくれてるお友達だね? これからもよろしく」

「は、はい!種村 梨花と言います。 こちらこそ、です!」


梨花さんも一緒におしゃべりしながら会社に戻った。

同期の人達の中でランチや飲み会に行ったという話を梨花さんがするんだけど、私のことを皆が可愛がってるとか人気者だとか大袈裟に言うので恥ずかしかった。


ロビーまで来ると、梨花さんはぺこりとお辞儀をした。

「それでは、私はここで失礼します」

「ああ。種村さん。私の知らないところで彼女が困っていたら、どうか力になってやってくれ」

「もちろんです!

あの、・・桐谷社長も、すずのこと大事にしてやってくださいね」

「ああ」

「余計なことを言いました。失礼します!」


小走りで去って行く梨花さん。



「鈴音。いい友達ができたな。さあ、もう時間だ。行こうか」

「はいっ」

元気良く返事をする。

桐谷さんもキリリと表情を引き締め、仕事モードになった。ああ、カッコ良い。


午後は会議のお手伝いと、そのあとはデスクワーク。

集中してミスのないようにしよう。


桐谷さんは、会社の廊下を歩く時はデートの時より歩調が早い。

スタスタスタ。颯爽と歩く。


私は秘書として、その後ろをついて行く。

決して遅れを取らないように、早歩きで。

ヒールの靴は履き慣れてないからたまに転けそうになる。

そんなみっともない真似は絶対にできない。

山本さんに教えてもらった美しい歩き方を意識しながら、一歩一歩、コツコツコツコツと踏みしめて歩いた。


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