表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/69

番外編 15 お見送り

桐谷さんと見つめ合ってたら、シャルルが勢いよく割り込んできた。


『ちょっと、シャチョーさん! ズルいよ!

ボクの方が先にスズのこと好きだったのに!』

「何を言ってんのか分からないが、お前の出番はない。

とっととフランスに帰るんだな」

『スズはボクの心の天使だったのに。綺麗で純粋な乙女だったのに!

遊びの女の子達とは違うから、最後に食べようと思って大事に大事にとっておいたのに!』

「お前みたいなチャラそうな奴に鈴音は渡さないからな」

『あー、悔しいっ! うらやましい! ボクもスズが欲しいよー!』

「ガキが騒ぐな。もう商談は成立したし、とっとと帰れよ」


会話は噛み合ってない。

二人はそれぞれ日本語とフランス語で言いたいことを言ってる。

でもテンポ良く掛け合ってるから、ジャンさんもおかしそうに笑ってる。


あ! そうだ。

会議が終わって皆出て行って、ここにいるのはシャルルとジャンさんだけだけど、隣の部屋には他の社員さんも大勢いる。いつ誰が来るか分からない。


こんな私的な話を延々としてる場合じゃない。

私は慌てて桐谷さんから離れようとする、・・・けどすぐに桐谷さんに腕を掴まれ引き戻された。


「ちょっと、駄目ですよ。ここは社内ですし、誰か来たら・・。

桐谷さんは社長さんなんですから、私みたいなイチ社員との噂なんてマイナスでしょう」

「そうか?」

私がこんなに焦っているというのに桐谷さんは涼しい顔で私を抱き寄せる。


「俺は山本と噂になっているんだろう?

事実無根の噂は、新しいホントの噂で消していかないとな」



そこにタイミングを図ったようにドアが開き、会議室のお茶の片付けをしに来てくれたらしい女性が「失礼します」と現れた。

私達の姿を見るなり「きゃあ!」と叫んで出て行く。

一瞬のことで驚いた。

驚きすぎて対応できなかった。

抱き寄せられたままカチンと固まってる私を見て、桐谷さんがぷっと吹き出した。


「ははっ。明日、社員食堂へ行ってみろよ、鈴音。

たぶん有名人になってるぞ、俺達。

なんなら一緒に行こうか。たまには社員食堂も悪くない」

「だ、だ、だ、駄目ですよ、そんなの! もう、なに考えてるんですか!」


オソロシイことを言う桐谷さんを叱りつけるも、楽しそうに笑い飛ばされた。

うう、本当に明日から、どうしよう・・。







今日で取引も終了なので、シャルルとジャンさんを一階のエントランスまでお見送りに出た。

桐谷さんとジャンさんが握手と別れの言葉を交わす横で、シャルルと私も向かい合っていた。

シャルルとはきっと、もうなかなか会えないんだろうな。


『会えて本当に嬉しかったわ、シャル』

『スズ。・・本当に、ボクじゃダメなの?

ボク、今回はスズを連れて帰ろうって思ってたんだよ』

シャルルは縋るようにそっと私の手を握る。


『ねえ、思い出してよ。ボクら最高に楽しい時間を過ごしてきたじゃない』

懐かしい、高校生のころの私達。

『そうね、あの頃は家族とも離れて一人ぼっちだったから・・・、シャルがいてくれて、私はとても救われた。あなたの明るさに笑顔をいっぱいもらったし。

フランス語を教えてもらったこともすごく感謝してる』


シャルルは目を輝かせて身を乗り出した。

『でしょ!? それに・・シャチョーといたらスズはきっと仕事ばかりの人生だよ。

バカンスも楽しみもなーんにもない、つまらない人生になっちゃうよ。

だいたい・・』


ブチブチ言い始めたシャルルを『やめて』と制止させる。

『ならない。桐谷さんといて、つまらない人生になんて、絶対にならない!』

目を見て言い返せば、シャルルはうっと声を詰まらせる。



『ごめんね、シャル。シャルのことは好きだけど、友達としてよ。

それはシャルも一緒でしょう?

シャル、いつも何人もガールフレンドがいるじゃない』

『スズ、キビしい・・』


『ほら、シャル、いつまでも我儘を言うんじゃ無い。紳士は引き際も肝心だ』

横からジャンさんがシャルルの頭をグリグリと撫でて、ハハハと笑った。


『お嬢さん、貴女とは数年後、また会える日を楽しみにしているよ』

ジャンさんの紳士的な微笑みに私も笑顔を返した。

『はい、私も、お待ちしてます』


シャルルはぐしゃぐしゃになった金色の髪を自分で後ろに流すと、コホンと咳をひとつしてから、私のよく知るいつもの陽気な笑顔を見せた。

『バイバイ、スズ。また会いに来るよ』

パチンときれいなウインクを飛ばされる。


『その時に、シャチョーさんと別れてたら、ボクとも遊ぼうネ!』

『シャルも他の女の子と遊べないくらい好きになる人が現れたらいいわね。

そしたら、誠実に向き合うのよ』


『・・・わかったよ。まったくもう、スズはボクの姉さんみたいだ。敵わないよ。

じゃあ、元気でネ。二人の幸せを祈ってるよ。

最後にハグとキスを許して、スズ』



シャルは私を抱きしめ、頬にそっとキスをした。

そしてふっと笑うと、唇にも、キスが。

「おい、こらっ! てめえ、人の女に手を出すなって言ってるだろ!」

『シャチョーさんはスズのバージン貰ったんだから、このくらいイイじゃん!』


私が現場把握できずに呆けている間、広いロビーを走って逃げるシャルルとそれを追い掛ける桐谷さんとで大騒ぎになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ