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番外編 7(隼一) 汐崎の変化

食事が終わってジャンと別れると、どっと疲労感に襲われた。



・・・このところ、不運続きだ。

ロクなことがない。


せっかく一緒の部屋での生活が始まって、汐崎との距離を縮めようと思ってたのに。

その矢先に海外への出張が決まって。

二週間で帰れるはずが、トラブルで二週間延び。

新たな企業を紹介してもらって、また二週間延び。

大富豪のパーティーに呼ばれたら、何人かのお偉いサンと仲良くなって、是非とも話をしようと言ってもらい・・・。



気付いたら三ヶ月半だ。

もちろん社長代理としてはいい働きをした。

珍しく役員や親父にもお褒めの言葉を頂いた。



でも、汐崎との関係を進めたかった俺としては大いに出遅れた。

毎日電話をしたが、やっぱり声だけでは、色々とモノ足りない。

そばにいれない分、余計気に掛かって心労ばかりが増した。



仮配属されたという経理や総務ではいろんな男が汐崎を見ただろう。

彼女は若くて可愛い。その上、素直で真面目だから、どんな仕事でも一生懸命やっていたに違いない。


電話で同期の連中と飲み会に行ったと聞いた時には、真剣に日本に帰りたいと思った。

何人の男と言葉を交わしたんだろう。

毎日綺麗になっていく汐崎に、ちょっかい出す奴はいたのか?

離れたところにいては睨みつけてやることもできなくてもどかしいのに、俺の気も知らずに電話での汐崎の声は毎日活き活きして楽しそうだった。



閉じこもって生きてきた汐崎が、自分の殻を破って、人間関係を広げて行くのは素晴らしいことだと頭で分かっている。

俺の手の中に閉じ込めておきたいが、それでは彼女の才能も可能性も潰してしまうだろう。


友と呼べる存在は多い方がいい。

特に彼女は今、会社の中で浮いた存在だ。

あと数年もすれば馴染むだろうが。

学生のような可愛らしい風貌で。人一倍頑張ってるのに、いつも自信なさげな表情をして。

ああいうタイプの人間を見た時、人は、守ってやりたいと庇護欲を感じるか、嫉妬するかのどちらかだろう。

同期の女達が後者でなく見方になってくれることを願う。



そんなことを・・・頭ではわかっていても、感情が抑えられない。

汐崎を手に入れたい気持ちは離れている間で強くなっていた。





戻って来てからも仕事に追われたが、同じ空間に汐崎がいるだけで俺のモチベーションは上がった。

くたくたの状態でも二人で同じ部屋に戻れるし、一緒にご飯を食べて、眠る前のわずかな時間にも言葉を交わせる。


汐崎は自覚しているのかどうか分からないが、俺に対する意識が変わってきているのも見て取れた。

ちょっとずつ、俺を見る汐崎の目が熱を含んでいるようになった。

ただの尊敬できる上司から、一緒にいて楽しい人、に評価が上がっているんだろう。

いい傾向だ。

早く最後のひと押しをしてやろうと思っていたのに・・。




それでさらにこのフランス男の登場だ。

汐崎のあんな弾んだ声は聞いたことがない。何を言ってるのかは分からないが。

モヤモヤする。イライラする。


ああ、やっぱり俺も一緒に行けばよかった。

・・・なんて、情けない思考だな。俺らしくない。


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