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33 賑やかな時間

「ハジメまして! あたしは石橋 (めぐみ)

おにーちゃんがいつもお世話になってまーす! よろしくねー」

勢いよく自己紹介して、にっこり笑って私の隣に座った。

明るい茶色の短い髪はテレビに出てくる人みたいにキレイに整えられている。


「おにーちゃんから聞いてるけど、鈴音ちゃん・・あ、名前で呼んでいい? あたしもメグって呼んで。

鈴音ちゃん、十八歳なんだって? あたしも一緒なの!」

「メグミは外語大だっけ? 入学おめでとう」

「桐谷さん、ありがとう! 今日もイケメンね。山本さんも相変わらず美人だし。

こんな人達がいる職場なんておにーちゃんが羨ましい。

あたしはギリギリで入ったから、早くも授業についていけないの。大変よお。

鈴音ちゃんは高卒でおにーちゃんの会社入るなんて、ちょー優秀なんだね! スゴ過ぎ!」

石橋さんの妹、メグミさんは表情をくるくる変えながら、次々と皆と話してる。


「あ。ねえねえ、ゆーた、あたしにもアイスちょーだい!」

「ハイハイ。メグがいると五人分くらい賑やかになるね。今日はチョコ?」

「今日はバニラ! ウェハースもつけてね」

「ハイハイ。山本さんもアイス、いかがです?」

「あら。ありがとう。いただいちゃおうかしら。バニラのウェハースつきで」

「了解しました」



最初に案内されたテーブルはどうしてこんなに広いんだろうって思ったけど、皆が来て席は埋まった。

メグミさんは運ばれてきたアイスクリームに「きゃあ!」と両手を叩いて喜んだ。

私も溶けかけのアイスをスプーンですくう。


「ねえ、鈴音ちゃん。おにーちゃん厳しいでしょ」

突然メグミさんは私にスプーンをピっと向けて聞いてきた。

「い、い、いえ。とても勉強になります」

「むむ。これはビシバシやってるな。おにーちゃんったら、こんな可愛い部下をいじめちゃダメじゃないの!」

「・・・出来る奴にしか俺は厳しいことは言わん」

「浩太は昔からそうだよな。こいつ使えねえって思うと存在を無視する方向でいくし。あれも結構ヒドいもんだけど」

「出来ない奴にあれこれ説明する俺の労力が勿体無い」

「あたしの勉強みてくれないのもそういうコトなわけ? ヒドくない? おにーちゃんってばあ!」

「・・・」


それって。私に厳しく指導してくれるってことは、・・・私、評価してもらえてるってことでいいんだろうか。

だとしたらすごく嬉しい。

桐谷さんと目が合うと、私の心を見透かしたみたいに柔らかく笑って小さく頷いてくれた。




メグミさんは山本さんと楽しそうにおしゃべりしてる。

次々と言葉が出てくる。すごいなあ・・。

あまりジロジロ見ては失礼だろうから、最後に残したサクランボをつつきながらそっとうかがっていた。

綺麗な服。お洒落なひとだなあ。素敵だなあ。


「あ。山本さん、そのピアス、素敵!

あたし新しい靴が欲しいんだあ。ねえ、おにーちゃん!」

「・・前、鞄買ってやっただろ」

「もう、それ一ヶ月以上前の話でしょ。それにこの前、テスト追試じゃなかったら何か買ってくれるって言ったじゃん! ねえねえ」

「・・・」

石橋さんはやれやれとため息をついてコーヒーを飲み干した。


ガタン、と勢いよく立ち上がるメグミさん。

「よおーっし、鈴音ちゃんも山本さんも一緒にショッピング行こう!

おにーちゃんと桐谷さんは荷物持ち。

ゆーた、ごめんね。お土産にシュークリーム買って帰るから」

「ハイハイ。いってらっしゃい」


ガタガタと皆が席を立つ。

え?



「ほら、行くぞ、汐崎」

桐谷さんが私の鞄を持って立ち上がり、来い来いと手招きする。

え?

「い、いえ。あの、私は・・」

結構です。帰りますので。と言おうとしたのに、横から伸びてきた手に引っ張られて立ち上がった。

「ほらほら、行くよ!」

メグミさんだった。ぐいぐいと手を引かれ、店の横に停めてあった大きな車に乗せられる。


急な展開に焦っているのは私だけで、桐谷さんも山本さんもメグミさんと楽しそうにおしゃべりしている。運転手の石橋さんはしゃべってないけど。


いったい、どこにいくんだろう。


窓の外の景色はもうすでに、全く見たことのないものばかりだ。

ここで降りたって、一人で帰れる自信がない・・・。



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