15 朝から社長の登場
もぞりと体を動かす。
ふいに肩がすうすうと寒くてふるっと震え、手で布団を引き寄せてうんと丸くなった。
あれ、なんで寒いんだっけ? あれ? パジャマ着てない。
布団の中で自分の姿を見る。寝ぼけてるのかな。ブラとキャミとパンツだけだ。通りで寒い・・。
顔を布団から出すと、周りに脱ぎ散らかしたスーツが点々としている。
あー、早くハンガーに掛けないとシワがついちゃう。
動かない体に鞭打って起き上がり、スーツを掛け、ついでにシャワーを浴びる。
やっと目が覚め、昨晩の記憶が蘇る。
ど、どうしよう・・・っ!
たた、た、大変なことをしでかしてしまった!
未成年なのに間違えて飲酒して、酔って寝ちゃって、最後には社長におんぶして送ってもらうなんて!!
さ、最悪だあ。
休みなので部屋着のラクなワンピースを着て、髪もバスタオルでワシワシして後は放ったらかし。そのうち乾くし。
さてと。着替えもしたし、パソコンは・・
あっ!!
しまった! お店に置いてきちゃった!?
私は一人、部屋の中で声もなく絶叫した。会社の大事な大事なパソコンを忘れるなんて。
すっかり忘れてたよう。どうしよう。
く、クビになっちゃう!?
昨日行ったお店に電話して・・。なんていうお店だっけ?
あ! 電話! 桐谷社長も昨日、朝電話してって言ってた。
えっとアパートの隣が大家さんちだから、そこに行ってお借りしようか。
それともいつも留守が多いそうだから、公衆電話を探した方がいいのかな・・
その時。
ドンドンとドアを叩く音と、「汐崎、起きてるか?」と言う桐谷社長の声。
私は思わず駆け出して、玄関のドアを開けた。
「桐谷社長!」
勢いよくドアを開けると、すぐさま謝った。
「すみませんでした! あ、あの昨日はとんだ失態を・・」
「ああ。気にするな。酔うともっとヒドいヤツはいくらでもいる。
フラフラになって眠るくらい、可愛いもんだ。
軽かったから運ぶのも楽だったしな。・・ほら、これ」
社長がずいっと差し出したのは、私のパソコンの黒い鞄。
私は慌てて両手で受け取り、ほっと安心した。
「よかったです。昨日のお店に忘れてきたからどうしようかと思って。
本当に、ありがとうございました」
もう一度ぺこりとお辞儀すると、「ああ。上がっていいか?」と言いながら社長は靴を脱いでいる。
「昨夜、朝、電話してって言ったけど、酔ってるから忘れてるかなと思って直接来た。
鞄も預かってたしな」
「あの。桐谷社長にも今、電話をしようと思って外に行くところでした」
「外?」
「電話を、しに」
「・・・そうか」
社長は部屋の中にはいると、ぐるっと眺めている。
「なんにもない部屋だな。まだ揃えてないのか? よければ車を出すぞ」
「い、いえ。大丈夫です」
「なにが大丈夫なんだ? 電気も時計も無い部屋なんて見たことないぞ」
桐谷社長の眉間のシワが酷い。怒っている、のかな。
「あの、電気はスタンドがありますし、時計は、ここに」
私の腕についている腕時計を社長の目の前に差し出すと、その腕をパシッと取られる。
「朝メシは? 食ったか? ・・・食ってないよな。食いに行こう」
ちらりと横を見た社長は何にも無い台所を見たのか、すぐに言葉を続ける。
「え?」
「すぐそこのカフェだ。モーニングをやってる。オゴってやるから、行くぞ」
「え? え?」
ぐいぐい引っ張って行く桐谷社長は、ポストから鍵を取り出して施錠するのも忘れない。
かふぇのもーにんぐって何? どこに行くの?




