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第8話 ファミレスで面接をする迷惑な客たち

「それじゃあまず、名前から教えてもらえる?」

「は、はい。デイジー・フローリーと言います。今日はあの、よろしくお願いします」


 テーブルの向かい側に座る巨乳美少女が頭を下げる。まるで面接のようだ。面接なんだけど。


「まぁ、あの、そんなかしこまらなくていいから、落ち着いていいから、いいからね、うん」

「先生が落ち着けなのです」


 隣に座っているもくれんが的確なツッコミを入れた。だって今までの人生で面接官なんてやったことないから、ワクワクして落ち着かないんだもん。せめて変な質問をしないよう、気を付けなきゃね。


「それでデイジーさん。年齢とスリーサイズは?」

「年齢は19歳で……スリーサイズは答えないとだめですか?」

「先生、それはセクハラなのです。死刑なのです」


 2人揃って冷ややかな眼差しで私を見る。あれ? 早速まちがえちゃった?


「だって、あの……気になるじゃん!」

「気になったとしても、性的な質問をするなんて最低なのです。社会人失格なのです」


 社会人になったことが無いやつに叱られた! でも正論だから何も言い返せない!


「……もくれん。面接官代わってくれない?」

「まかせてなのです」


 大人として非常に情けないのだけれど、ここは一旦もくれんに任せて平常心を取り戻そう。

 一旦もくれんって、一反木綿みたいだなぁ。

 ……落ち着こう。


「ではデイジーさん、私から質問なのです」

「は、はい!」

「緊張しなくていいのです。もちろん、緊張しててもいいのです」

「はい……?」


 デイジーさんが小首をかしげる。もくれんが何を言っているのか、わからないようだ。私もわからない。


「では、お聞きするのです」


 もくれんが真剣な眼差しで、デイジーさんを見つめる。


「ブラのサイズを教えてください」

「アンタもセクハラしてんじゃん!!」


 私は反射的にもくれんの頭をはたきそうになったが、どうにか抑えた。もし天罰ダメージで悶えちゃったら、状況がカオスすぎて面接続行不可能になっちゃうからね!


「今の質問は性的な質問ではないのです。知的好奇心による質問なのです。キュリオシティなのです」

「質問者の意図なんて、質問される側には関係無いだって! 相手が不快に思うのなら、それはセクハラに該当するのっ!」

「難しいのです。では、どういう風に質問をすればいいのです?」

「そうだなぁ……」


 私はしばし、どうやってデイジーさんの胸の大きさを聞き出すべきか、考える。

 そして、居心地が悪そうなデイジーさんと目が合う。


「……って、違う! 今の私たちがすべきなのは質問じゃなくて謝罪だよっ! ごめんなさい、デイジーさん」


 私はテーブルに額が着くくらい頭を下げた。


「アンタも謝れ」

「ごめんなさいなのです」


 もくれんも一応、頭を下げた。


「い、いいんです。慣れてますから」

「……慣れてるの?」


 私が顔を上げると、デイジーさんは「はい……」と困り顔で答えた。


「……本当にごめん」


 私は再度、頭を下げた。きっと今まで、その豊満な胸のせいで沢山のセクシャル発言を受けてきたのだろう。私も同じ女なのに、それについて想像と配慮がまったく出来ていなかった。真剣に、反省しよう。


「あ、頭を上げてください。面接、面接を続けましょう、ね?」

「そうだね……じゃあ、志望動機を教えてくれるかな?」


 私は普通の面接に戻そうと、無難な質問をした。とはいえ今までのやり取りでかなり失望されただろうから、いつ「ごめんなさいやっぱり辞退します」と言われてもおかしくない。面接官なのに不合格を言い渡されそうで、内心ビクビクしちゃう。


「はい。私は幼い頃から冒険者に憧れていて、この春、冒険者養成校を卒業して、この街で冒険者として活動を始めました」

「冒険者養成学校なんてあるの?」


 私はもくれんに尋ねる。


「あるのです。養成学校を卒業した冒険者さんは、基礎がしっかりしているらしいのです」

「なるほどね。そうなると、今までパーティの加入には苦労しなかったんじゃないの?」

「加入にはそれほど苦労してないと思いますけど、その後がちょっと……」

「何かあったの?」

「男性がいるパーティーだと、その、男の人の視線がちょっと嫌で……」

「なるほど……」


 こんなおっぱいがすぐ近くにいたら、男たちも冒険どころじゃないだろう。正直「そのおっぱいで冒険者は無理でしょ」と言ってみたいけど、幼い頃からの夢をおっぱいに邪魔されてる境遇は真面目に不憫なのでやめときます。


「女性だけのパーティには加入できなかったの?」

「女性パーティは魔法職だけの場合が多くて、私みたいな盾役を必要としているパーティは見つからなかったんです」

「そうなんだ……」

「それで今日もハローパーティで求人を探してたんですが、さっき偶然、お二人の会話が聞こえてきて」

「声大きかった?」

「えっと……」


 デイジーさんが微妙な笑みを浮かべる。


「先生はもっと声を抑えるべきなのです。ここは飲食店なのです」

「アンタもそれなりに声大きいと思うんだけど」

「私の声は可愛いからいいのです」

「そういう問題じゃないでしょ……そもそも可愛いのかな?」

「私はかわいいと思います」

「ありがとうなのです。普通の人にはわかるのです」

「私がおかしいみたいな言い方はやめてくれない?」

「そんなことより、面接を進めるのです。長引けば長引くほどお店の人や他のお客さんの迷惑になるのです」


 時々正しいことを言ってお姉さんを置いてけぼりにするのやめてくれないかな。


「……そんで、私たちの会話を聞いて、どうしてパーティに入りたいと思ったの?」

「はい。まず、盾役の女性を募集してるということで、これは私が応募しなきゃいけないと思ったんです。それに、女性だけのパーティだから安心だと思いましたし、会話を聞く限りお二人とも転移者の方だってわかって、それなら特別で楽しい冒険が出来るんじゃないかって、そう思ったんです」


 目をキラキラさせながら、デイジーさんが理由を語る。若いって眩しいな……


「転移者と冒険がしたかったのです?」

「はい! やっぱり転移者の方々は冒険者の中でも特別ですし、そんなお二人が求めている人材と私がちょうど一致してて、これはもう運命なのかもって、思いっ切って声を掛けたんです」

「運命、ねぇ……」


 私くらいの年齢になるとそういう言葉は恥ずかしくなっちゃう。


「運命かどうかはどうでもいいのです。チャンスをつかめたのはデイジーさんに勇気があったからなのです」

「あ、ありがとうございます!」

「良いこと言っちゃって」

「真実なのです」


 もくれんの言う通りだ。好機が見えても、掴むかどうかは本人次第なのだから。

 

「他にも質問いいかな? 養成学校を出たって話だけど、どうして盾役を選んだの?」

「実は、魔法職の適性がまったく無くて……それで父と同じ、盾で仲間を守る役割をしたいなと思ったんです」

「冒険者に憧れたのは、お父さんの影響?」

「両親が二人とも冒険者だったので、父と母両方の影響ですね」

「尊敬できる両親なんだ」

「はい。私も両親みたいに冒険者として活躍したいと思ってます」

「親を尊敬できるのはいいことなのです。うらやましいのです」


 もくれんがほんの少し、寂しさを感じさせる声で言った。もしかしたら彼女は、親とあまり仲が良くなかったのかもしれない。プライベートに関わることだし、深くは聞かないけど。


「あと聞いておきたいんだけど、盾役としての実力はどのくらいなの? 自己評価で良いから」

「基本的なことは出来ると思います。もちろん、未熟な部分もあると思いますけど」

「問題ないのです。ユリサキ先生がカバーするのです」

「それならちょっと、安心ですね」


 デイジーさんがはにかんだような笑みを見せる。盾役として頑張る気がある一方で、まだまだ自信が無い面もあるのだろう。慣れた冒険者よりもこういう成長途中の子を仲間にした方が冒険は楽しいんじゃないかと、個人的には思う。


「それじゃあ、最後の質問なんだけど」

「はい」

「怪物には耐性がある方?」

「……はい?」

「怪物。名状しがたい姿をした自称猫の怪物」

「ねこすけは怪物では無いのです。可愛いネコさんの召喚獣なのです」

「猫の召喚獣が呼び出せるんですか!?」


 突然興奮するデイジーさん。


「まぁ、一応普通の猫もいるけど、ねこすけは怪物で……」

「でも猫なんですよね!? 凄いです!」

「先生、デイジーさんは合格なのです。ねこすけの凄さを理解しているのです」


 理解してないからテンション上がってるんだと思うよ。


「でも……うん、不採用にする理由は無いかな。そっちも困ってるみたいだし、合格にしよう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 そう言って、デイジーさんは勢い良く頭を下げる。大人しそうに見えて、意外と元気な子なのかもしれない。そういう人柄は面接だけではわからないから、追々知ることになるんだろうけど。


「それじゃあ、これからよろしくね、デイジーさん」

「よろしくなのです。さん付けはよそよそしいのでデイジーと呼ぶことにするのです」

「アンタの方が年下でしょ」

「そういうのは関係無いのです。むしろパーティーリーダーである私の方が偉いのです」

「それは……そうなのかなぁ?」

「私のことはデイジーでかまいません。お二人のことはユリサキ先生ともくれんさんってお呼びしますね」


 貴女にとって何の先生なんだ私は。


「まぁ、本人が良いならそっちの方が良いのかなぁ……とりあえずよろしく、デイジー」

「はい!」


 元気良く、笑顔で答えるデイジー。緊張のほぐれた顔はとても可愛らしく、彼女との冒険は楽しいものになるだろうと、私に予感させた。


「ところでデイジー。ブラのサイズは」


 私は空気の読めないバカロリの頭をはたき、全身を走る天罰激痛に声を上げた。

 そしてとうとう、店員さんに注意されるのであった。

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