すべて消えて
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背嚢越しに伝わる嫌な感触に寒気を覚えていると、俺にのしかかってきた謎の生物が全貌を現す。
これは狐? とっさに突き出したナイフが急所に刺さったのか、狐はぐったりして動かない。
邪魔な狐を振り払うようにどかすと、俺は背嚢を固定していた胸元のベルトを力ずくで引きちぎる。
服越しに蟻が背中を這い回る感触。
背嚢を捨てたことでいくらかの蟻は排除できたが、最悪なことに背中にも大量の蟻が這い回っている。
「パピー! 逃げろ!!」
俺は大声で叫ぶと、川に向かって走り出す。
背中にザクザクと、毒針が突き刺さる感覚。
刺された瞬間、焼けた鉄が押し当てられたような痛みを感じた。
痛い、痛い、痛い。ただひたすら痛い。
とにかく走る。
脳内MAPに記した注意点や狼たちの縄張りなどは無視。
ひたすら最短距離を走る。
今すぐ走るのを止めて、地面にのたうち回りたい。
だけど、できない。
それは、自ら死を引き寄せる行為だ。
だから、俺はひたすら走る。
汗と涙と小便を撒き散らしながら、ひたすら川へと。
川に飛び込んだ俺は、水中で遮二無二体をよじる。
背中に張り付く蟻が一匹でも剥がれるように。
川の流れに身を任せ、暴れては息継ぎのために水面から顔を出す。
どれほど経っただろうか……体力を消耗した俺は岸辺に流れ着く。
引きずるように体を動かして安全な場所を探す。
地面を這いながら少し進むと、横穴が見えた。
天然の洞窟はモンスターの住処になっていることが多い。
気配察知を使おうにも、背中全体のしびれるような痛みでうまく集中できない。
リスクはあるが、洞窟へと進むことにした。
このまま野ざらしでここにいても助からない。
それなら、リスクがあっても生き残れる可能性が高い方に賭ける。
洞窟に思えたソレは、ただの横穴だった。
少し進めば、すぐに行き止まり。
深森狼が一時的な食事場にでもしたのか、小動物の骨が転がっている。
しかし、骨の様子からかなりの時間が経っていることがうかがえた。
この横穴を使用したのは、ずいぶん前のようだ。
蟻に刺された背中は、相変わらず馬鹿みたいに痛い。
最初に感じた焼けるような痛みは薄れ、ズグンズグンと重さを感じる痛みへと変化している。
毒で組織が壊死したのか、かなりの量の膿が背中からにじみ出ており、不快感がすごい。
川で全身びしょ濡れだ。さらに、熱がでてきた。
毒に対抗するため、免疫システムが頑張っているのだろう。
濡れた寒さと合わさり、体の震えが止まらない。
火を熾せればいいのだが、こんな状態じゃ不可能だ。
何も考えず、眠れればいいのだが……。
だけど、浮かんでくるのは不安ばかり。
パピーは大丈夫だろうか? 俺は生きて帰れるのだろうか? 嫌な考えばかりがグルグルと頭を巡る。
とりあえず今は、体力を回復させなければいけない。
深森狼に襲撃されないことを祈りつつ、ヤ〇チャポーズでじっと耐える。
考えないようにすればするほど、逆に意識してしまう。
おそらく、高い確率で俺は死ぬ。
森の誰も知らない横穴で、無様に屍をさらす。
死体が新鮮なうちに深森狼に見つかれば、遺体を貪り食われる。
食べ残しにハエが卵を産み付け、蛆が俺の死肉を食らう。
やがて骨だけになり、骨も長い歳月とともに風化する。
俺という人間が生きた証はすべて消え去り、人々の記憶からも俺は消え去る。
何も成さず、何も残さず。
自然を舐めた報いを受けて、すべて消えていく。
ブルリと体が震えた。
熱のせいだけじゃない。死ぬのは怖い。だけど、それだけじゃない。
すべて消えてしまうのが恐ろしい。
必死にもがいて生きてきた。それなのに……。
いや、俺が殺した奴らだって必死に生きていたんだ。
俺に殺されて、森で屍をさらしたやつもいる。
死体が表に出ないよう、処理されたやつもいる。
俺の番が回ってきただけ。
それなのに、自分の番になったからと怯えるのか……臆病者め。
ポロリと涙が零れた。
情けないのはわかっている。
でも、君に会いたいよ。
パピー。
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