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野人転生  作者: 野人
欲望の都市

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トゥロン14

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


でかい角を二本掲げて歩く俺は目立つ。

金を手に入れたことは隠しようがない。

衛兵ともつてが出来た。

俺は塩漬け依頼に手を出すことを決めた。


国名を変更します。メギド帝国→メガド帝国 リカーム王国→リーガム王国 これから順次修正して行きます。一気に修正できない関係上、表記が混ざってしまう時期が出てしまいます。読者様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。

国名を変更する理由については、活動報告に記載いたします。気になる方は、読んで頂けると幸いです。

 トゥロン近郊の森に慣れ、生活が安定してきた。情報屋から情報も集めた。そろそろ次のステップに進もうと決めた俺は、塩漬け依頼をこなすことにした。


 狙いは採取依頼。


 森に慣れた俺なら気配系スキルをフル活用すれば、戦闘を避けてお目当ての品物だけを採取することは可能なんじゃないかと思った。


 ただ、何も考えずに依頼を受けるのはリスクが高い。俺はギルド側と交渉することにした。どうせ誰も受けない依頼だ。少しぐらい強気に出てもいいだろう。


 ギルドに入ると、空いている受付に向かう。童貞殺しヴァージン・キラーとあだ名を付けた受付嬢ではなく、クール系の受付嬢だった。


 彼女は受け答えが完璧だが、血が通っていないんじゃないか? そう思うほど温かみがない。


 私情を挟まないプロともいえるが、張り付いた笑顔に恐ろしさを感じてしまう。


 俺に塩漬け依頼をこなせ、貴様を使い潰すと笑顔で言った相手だ。こんなに直接的な言葉ではなかったが、言っていることは同じだ。


 感情に左右されない分、童貞殺しヴァージン・キラーよりやりやすい相手ともいえるが、明確な利益を提示出来なければ交渉に応じてはくれない。


 タフな交渉になりそうだ。


「こんにちは」

「はい、こんにちは。ご用件はなんでしょうか?」


 完璧な笑顔で、全く心のこもっていない挨拶を返す受付嬢。


「ギルドの貢献度が上がる依頼を見せて頂けますか?」

「少々お待ちください」


 受付嬢はそう言うと、奥へと向かっていった。しばらくすると、いくつかの依頼票を持ってきた。


「どうぞ、こちらになります」

「ありがとうございます」


 塩漬け依頼なだけあり、前回と殆ど内容が変わっていなかった。俺は目星を付けていた採取依頼を確認して、受付嬢に確認した。


「こちらの依頼は、依頼を受けてから5日以内に納品とありますよね?」

「はい、ございます」

「誰も受けずに長期間放置されているのに、依頼を受けて5日以内となっているのはなぜですか?」

「ファモル草は薬に加工するのに、鮮度が重要になってきます。依頼を受けて頂いたことを薬師の方にお伝えしますと、薬師の方がすぐ薬の製造に入れるように準備いたします。薬師の方が準備できるように依頼を受けて頂き、鮮度のためになるべく早く期間内に納品して頂く形になっております」


 うわ、次に質問しようとしていた部分を先回りされて潰された。


 採取してから依頼を受ければ、失敗したとき違約金を払わなくてもいんじゃないか? そう思った。


 しかし、薬師側の準備が必要だから依頼を受けてから採取に行けと言われてしまった。


 本当に準備が必要なのか『違約金から逃げるようなことは許さない』というアピールなのか。どちらか判断はできないが、釘を刺されてしまった。


 納期の延長や、違約金を払わないで済むように交渉しようと思った。だけど、説明をしながらその部分を先回りして潰すとか有能過ぎる……。


『ちょっとぐらい強気で交渉しよう』なんて思っていた自分が滑稽すぎる。やはり脳筋アホが頭を使った交渉事など無理だった。


 交渉しても、うまくいく気がしない。受付嬢は丁寧に説明をしながら、納期と違約金に関してしっかり釘を刺してきた。


 薬師の準備があるので、先に依頼を受けるのは当然。鮮度が大事だから納期を守るのも当然。依頼が達成出来なければ薬師の準備が無駄になるので、違約金を払うのも当然。


 丁寧に説明をしながら、俺が交渉しようとしていた部分を全部潰してきた。そして、受付嬢は意図的に俺に伝わるようにしている。


 表情は変わらないが、目線やイントネーションにその意志を伝えてきた。リスク込で依頼をこなせ、お前の価値を証明しろ。そう言われているようだった。


 5級冒険者になるには、それなりにリスクを背負わなければならない。少しでもリスクを回避しようなんて思った俺が甘かった。


 この受付嬢がランク5の冒険者に求めるハードルはとても高い。いや、よそ者の俺がランク5になると認めるハードルが高いのかもしれない。


 仕方ない、覚悟は決まった。普通に依頼を受けるとしよう。




 10日熱と呼ばれている病気がある。その病気の薬を作るため必要なファモル草。魔法媒介に使うギーオと呼ばれるキノコ。


 このふたつの採取依頼を受けた。


 なぜふたつも受けたかというと、採取できる場所が近いからだ。どうせ森の深い場所に入るんだ。まとめて採取した方が利益になる。


 俺がふたつ依頼を受けると伝えると、受付嬢は一瞬表情がピクリと動く。そして、ジッと俺を見てから、かしこまりましたと答えた。


 依頼票を受け取り、ギルドを出る。


 クール系受付嬢。通称クールさん恐るべし。俺の考えなどお見通しと言わんばかりに潰されてしまった。交渉すら出来ないとは……。


 でかい町の受付嬢ってとっても優秀なのね。


 気持ちを切り替えていこう。2件も依頼を受けたんだ。失敗すると違約金で破産してしまう。夜逃げをして、またイチから冒険者ランクを上げるなんて御免だ。


 宿に戻り準備を整える。


 荷物は最低限。保存食、水、後は装備だけ。モンスターもなるべくスルー。肉も持って帰らない。戦闘は避け、ターゲットを確保したらすばやく帰る。


 手早く荷物をまとめると、宿を出た。


 この宿は、宿泊料金は高いがそれなりにセキュリティがしっかりしている。不必要な荷物は部屋に置いていく。


 金貨と宝石だけは荷物になるが持っていく。このふたつは置いていけない。最低限の水と荷物を持った俺は、町を出て森に向かった。



 森へ向かうと、いつものように川で体を洗う。その後、全身に泥を塗った。このスタイル、久しぶりだな。


 人目につかない場所に移動して、泥が乾くまで時間を潰す。待っている間に、情報を整理しよう。



 

 ファモル草は薬の材料で消耗品。それなりの需要はあるはずだ。需要はあるのに塩漬け依頼になっていたのは、採取に行く冒険者がいないからだ。


 情報屋の話によると、ファモル草が採取できる地域は深森狼フォレスト・ウルフの生息地域だ。ゴブリン村で見かけた、あの深森狼フォレスト・ウルフだ。


 格は3。リーダー個体で4になる。レベル20の俺なら格4のモンスターと張り合えるかも知れない。だけど、深森狼フォレスト・ウルフは群れで動く。


 灰色狼グレイ・ウルフもそうだが、群れで動くモンスターの危険度はワンランク上と見られている。リーダー個体が含まれる深森狼フォレスト・ウルフの危険度は格5相当。


 とてもじゃないが、戦って勝てる相手じゃない。


 冒険者がファモル草の採取を忌避するのは、深森狼フォレスト・ウルフの存在だけじゃない。ある意味、深森狼フォレスト・ウルフより恐れられている生物のせいだ。


 その生物は蟻。昆虫の蟻だ。


 ファンタジー世界に出てくる巨大な蟻ではなく、地球でもよく見かけた小さい蟻。危険度は低いように見えるが、一部の蟻は強力な毒を持つ。


 地球でも、蟻に刺されて亡くなる人は意外と多い。


 蟻と聞くと、大きな顎をイメージするだろうが、火蟻ファイヤーアントパラポネラバレットアントなどの有名な毒蟻は、お尻に毒針を持っている。


 蜂のように、お尻の毒針を突き刺してくる。


 一匹だけなら、強力なアレルギー反応でも起きない限り命の危険はないだろう。だが、蟻は群れる。それも恐ろしい数で。


 火蟻に刺されると、組織が化膿して膿がでる。ニキビのようなポツポツとした膿んだ部分が出来てしまう。


 一匹だけなら大したことはない。数時間の痛みと、ちょっとした膿だけだ。しかし、集団で群がられたとしたら……。


 手や足にびっしりとニキビのような膿が浮かび、名前の示す通り、火を押し当てられたような痛みが走る。


 それも、危険な深森狼フォレスト・ウルフが生息する地域でだ。膿が漏れ、匂いを嗅ぎつけられたら……。


 パラポネラに至っては、もっと最悪だ。


 別名弾丸蟻。刺されるとまるで銃で撃たれたような痛みがあるといわれている。大人でものたうち回るような激しい痛みだ。


 それを集団で、ブスブスと大量に刺されでもしたら……。


 深森狼フォレスト・ウルフのお世話になる必要もなく、お亡くなりになるかもしれない。


 テレビでドキュメンタリーを見た程度の浅い知識しかないが、その危険度は十分理解できた。追跡力の高い、集団で襲ってくる深森狼フォレスト・ウルフと、危険な毒蟻。


 毒にやられて弱った状態で、深森狼フォレスト・ウルフに追跡されるとか悪夢そのものだ。


 報酬は高額だが割にあわない。普通の冒険者なら毎回命懸けになる。塩漬け依頼になるべくしてなった案件だった。


 ただ、俺ならなんとかなるんじゃないか? そう思っている。


 泥と昆虫が嫌がる樹液で皮膚を守る。最悪刺されても毒耐性スキルがある。


 気配系のスキルで深森狼フォレスト・ウルフを回避して、最短最速でファモル草とギーオだけを回収する。


 安全な移動方法も考えてある。俺ならこの依頼をこなせるはずだ。


 俺が依頼を達成して、クールさんの表情が驚きに変わる。想像しただけでテンションが上がる。氷の表情を溶かしてみせるぜ、キリッ。


 色々と考えをまとめている間に、泥も乾いた。さぁ、進むとしよう。


 多くの冒険者を飲み込んだ森の深層。その恐怖に飲み込まれないよう、俺はアホなことを考えながら森の奥へと歩き出した。


 見慣れた森が、今日はなぜか不気味に見えた。

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コミック十巻、本日発売です。
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― 新着の感想 ―
[一言] 丁寧な返信と説明ありがとうございました。実は私もド素人ながらノクターンに作品を連載してまして、様々な作者様の作品を読み勉強させて頂いてます。『野人転生』とても面白い作品なので是非完結までまっ…
[気になる点] ファルモア草の依頼の件だけど、『依頼を受けて5日以内…』、「薬師の準備があるので依頼を受けてから行け…」 上記の条件って採取後に依頼を受ける事への何の障害にもなってなくない? 採取…
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