表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生姫はお飾り正妃候補?愛されないので自力で幸せ掴みます  作者: 福嶋莉佳(福島リカ)
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/39

【番外編】 舞

本編と全く関係ありませんので、スルーしていただいても大丈夫です。


その日、講堂には、張りつめた空気が満ちていた。


(……人の目が痛い)


リサや侍女たちは不安げに見つめ、

妃候補たちは息をひそめて成り行きを見守っている。


(お願い、誰か……この空気を壊して)


――今日の演目は、舞の座の個別発表会。

セレナの番が、来てしまった。





舞――それは、王国の礼と信仰を体で示す“姫の言葉”。

婚儀や祭礼の場では国の品位を映し、舞える者こそが宮廷の華とされた。


舞の座は、アシュラが主催し、セレナの提案によって創設された座のひとつ。

芸としての舞だけでなく、姫君たちが礼節と心の統え方を学ぶための場でもある。


そこはまるで宮廷の小さな劇場のようで、

日ごとに姫たちが香と音に包まれ、所作を磨いていた。


セレナも姫として日々精進すべく、舞の座に通っていた。


だがその朝。

音楽が流れ始めた瞬間、彼女の背筋に冷たい汗が伝った。


(ど、どうしてこんなに下手なの?)


腕は上がらず、ステップは遅れ、裾が足に絡まる。

周囲の姫たちは優雅に旋回し、まるで花弁のように舞っているのに――。


(私……前世ではバレエを習ってたのに……下手だったけど)


そう――前世でも踊りが下手すぎて、よく母の怒りを買っていたものだ。


焦る心を悟られぬよう、セレナは必死に笑みを保った。

だが、隣から小さなため息が聞こえる。


「まあ……姫様、それは少し――手の角度が惜しいですわ」


アシュラが扇を口元に当て、穏やかな微笑を浮かべた。

その声には、優しさと同時にわずかな愉悦が混じっている。


「舞は、呼吸と同じですのよ。

 無理に形を真似なさらず、流れに身を委ねればよろしいのに」


(流れって……わ、私……前世と同じことを指摘されてる……!)


セレナは内心で悲鳴を上げながら、必死に足の動きを合わせた。

汗が首筋を伝い、裾がひらりと遅れて翻る。


リサが冷や冷やとセレナを見ていた。


(リサ、そんなハラハラ見るものじゃないのに……)


音楽が終わると同時に、静寂が舞台を包む。

セレナは胸の前で手を重ね、かすかに息を吐いた。


(な、なんとか終わった……!)


指先が震えるのを隠すように裾を整え、ぎこちない笑みを浮かべた。

舞の座の朝は、ようやく幕を閉じたのだった。





中庭の片隅で、セレナは一人ストレッチをしていた。

朝露に濡れた石畳の上、風が頬を撫でる。


「運動神経って……身体は関係ないのね」


ぽつりと呟きながら、首を傾げる。

舞の座での散々な出来に落ち込みつつも、

どこか心の奥では小さな喜びを感じていた。


(うん、前世よりも、身体が柔らかくなった)


普段から、こっそりとストレッチにはげんでいたのだ。

最初はリサに「セレナ様、何かの儀式を……!?」と怯えられたが、

今ではすっかり見慣れた光景になっている。


セレナは深呼吸をして、ゆっくりと足を上げた。


(そのおかげで、ほら。アチチュードだって簡単に――)


「……」


回廊を歩いていたアルシオンと、目が合った。


「………!!」


(い、いやぁぁぁーーーっ!!)


真っ赤になったセレナは、

片足を下ろすよりも早く、スカートを掴んで走り出した。


石畳を叩く足音と、風に混じる――

彼女の心の悲鳴が、中庭の朝に響き渡った。





アルシオンは中庭の回廊で足を止め、呆然とその場を見つめていた。


スカートを翻して逃げていくセレナの姿が、朝の光の中に消えていく。


「……今のは……儀式か、訓練か……」


眉間に皺を寄せつつも、視線がしばらくその方向から離れなかった。


(……いや、儀式にしては、妙に――綺麗だったな)


自分でも気づかぬほど小さく呟き、アルシオンは喉を鳴らして顔を背けた。


朝の風が吹き抜け、回廊に残るのは、熱を帯びた沈黙だけだった。

セレナ「お読みくださりありがとうございます(^^)

感想をいただけたら、とても嬉しいです!」

◆お知らせ

今後の新作予告や更新情報は、Twitter(X)でお知らせしています。

→ @serena_narou

ぜひフォローしてチェックしていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。思わず、ウフッてなりました。セレナ可愛い❗️バレーがない世界で、エチチュードなんて。アルシオンびっくりやったでしょうね笑笑。これからが楽しみです。本編待ってます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ