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転生姫はお飾り正妃候補?愛されないので自力で幸せ掴みます  作者: 福嶋莉佳(福島リカ)
一章

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第10話 装飾(中編①)

宴が終わり、杯の余韻とざわめきを背に、回廊を進む。

燭台の影が石壁に揺れ、靴音だけが冷たく響いた。


(……あの場で迷いはなかった。サフィアこそ、俺が選ぶべき女だ)


妃席に座る彼女の姿が、青い瞳に焼きつく。

――なのに。

回廊の冷えた石床に、異国の姫の眼差しが、まだ残っていた。


拳に力が籠もる。

歩調がわずかに速まる。


惑うな。

選ぶのは一人――それだけだ。


回廊の奥に、人影を認める。

思考を断ち切った、その先に――


立っていたのは、セレナだった。





「……殿下」


静けさに溶けるような声だった。

柔らかく、しかし芯を失っていない。


アルシオンの瞳が、わずかに揺れる。

「……セレナか」


驚きを抑えたつもりの声音には、かすかな緊張が滲んでいた。

燭の火に透ける影の中、彼女は扇を胸に抱き、凛と立っている。


アルシオンは無意識に背筋を正し、声を落とした。

「宴の席では……居心地が悪かったであろう」


燭火に照らされたセレナの瞳はまっすぐで、声は震えない。

「殿下が誰を寵愛されても……それは殿下のお心次第。

 誰も、不満は申し上げません」


セレナは、扇を握り直した。

指先に力が籠もるのに、声だけは不思議なほど落ち着いていた。


「ですが……殿下にとって、私たちは何なのでしょうか。

 感情を持たぬ飾り物として、並べられているだけなのですか?」


その言葉は、静寂に石を投げ込むように、回廊に落ちた。


アルシオンの表情が揺れる。

眉根がわずかに寄り、視線がセレナを射抜いた。


短く息を吸い、低く応える。

「……飾りなどと思ったことはない。

 だが、己の心に従うのもまた偽れぬ。――あれは、俺の答えだ」


迷いなき声だった。

その奥に、何かを切り捨てた硬さがあった。


セレナは扇を胸に抱いたまま、静かに瞼を伏せる。


(……もう二度と、期待などしないと決めていたのに)


胸の奥が、ひやりと冷えていく。

信じたかった自分が、何よりも痛かった。


小さく息を吐き、うつむいた声で紡ぐ。

「……果たして、あの場で示す必要があったのでしょうか」


その問いには、責めよりも、

自分自身に向けられた痛みが滲んでいた。


アルシオンは一瞬、沈黙する。

やがて、低く言葉を絞り出した。


「……あの場で示さねば、彼女は……守れぬと思ったのだ」


それだけで、十分だった。


(……やっぱり、そう……)


セレナの瞼が、わずかに震える。


(この人の目には――

 私たちは、映ってはいないのね……)


胸の奥に、冷たい痛みが、静かに突き刺さった。

けれど、それ以上は言わなかった。


顔を上げ、最後の言葉を置く。

「……ですが、どうかお忘れなきよう。

 僅かではあっても……殿下の幸せを、心から祈っていた者が、

 この後宮にはいたのです。

 それだけは……どうか、ご理解くださいませ」


深く一礼し、身を翻す。

衣擦れの音が、小さく石床を掠めた。


アルシオンは思わず一歩、踏み出しかける。

だが足は縫いとめられたように動かず、

ただ、遠ざかる背を見送るしかなかった。


足音が消えるたび、胸に重いものが積み重なる。

燭台の炎が揺れ、二人の影を切り離すように壁に滲んだ。





セレナの影が、回廊の先へと消えていく。


(……祈っていた者、か)


アルシオンは拳を握り、

胸の奥に残った痛みを、強引に押し込めた。


(……俺はもう迷わない)


青の瞳を前に向ける。


(愛した者を隣に置く。それ以外に道はない)


そう言い聞かせるように、歩き出す。

心に刺さった違和感を、決して振り返らぬと誓うように。

セレナ「お読みくださりありがとうございます!

殿下……恋に溺れすぎでしょ( ´Д`)=3」

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― 新着の感想 ―
作品此処まで一気に読ませて頂き面白かったです。 それにしても、もうさっさとサフィアさんと陛下は結婚して残りの候補は(あくまでまだ候補なので)解放してあげた方がいいレベルでは(下賜とかになるのかは不明で…
NEW王族が登場してこの王が廃位されればいいのに!サフィアと辺境の片隅で幸せになってくれ。王族としてダメすぎるやろ。
ひたすら甲斐性のない男という印象。 女性を複数妻に持てて何の不満も挙げられないのは、個々の利益を損なわせず、衝突させず、大事にされているという実感を絶えず与える対人タスクをこなす超人だけというのがつく…
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