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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第63話 シェナルークの降臨、そして「傲慢」と「怠惰」の激突#4

 リュドルの頭上に浮かび上がるは、空を覆い隠すもう一つの月。

 大地にあるあらゆるもの引き寄せ、飲み込み、纏わせた直径三キロはある巨大な球体だ。


 あまりにも大きさの規模に、大地には大きな影が差す。

 真下から見上げるものがいるとすれば、今頃視界いっぱいに惑星(ほし)が映ってることだろう。


 ここまでの超級殲滅魔法など普段詠唱することもなければ、行使することもない。

 そんな時間を作れる時間も無いし、そもそもリュドルが知ったのもたまたまだ。

 たまたま魔導書があり、それを寝るための暇潰しに使っていただけ。


(それをまさか使う日が来るなんてな.....)


 人生、何が起こるかわからないものである。

 まさかこのアビス生で使う日が来るとは思わなかった。

 しかし、こうして現に訪れているのだから感慨深いものだ。


(さて、問題はどうやって一矢報いるかだ)


 こうして完全詠唱の末に辿り着いた超凶悪質量弾であるが、正直これが通用するとは思っていない。

 少なくとも、先ほどの蹴りの攻撃を放たれれば、当てる前に真っ二つだ。


 そうなれば、ただの作り損であり、これ以上シェナルークに一矢報いることは難しくなる。

 となれば、どうにかこうにかして弱点を見つければいけないが――、


「――ん?」


 何か方法はないものかと考えるリュドルの目が一点で止まる。

 それは眼下に見えるシェナルーク――の周囲にいる特魔隊どもだ。


 先程の爆音も衝撃も地鳴りも起きるには十分すぎるものであった。

 それでも一切目を開けず、まるで何事も無かったように眠り続けている。

 もっとも、それが自分の<悪辣天輪>の効果なのだが。


 そうではなく、注目すべきは「特魔隊がいる」という点である。

 相手があのシェナルークであるなら、自分以外がどうなろうと関係ないはず。

 実際、それぐらいの考えは持っていそうだし、やりかねない雰囲気もあった。


 しかし、真下に見えるシェナルークにその気配は一切ない。

 それどころか余裕で重力吸引範囲に入っていた特魔隊どもを守っている。

 でなければ、今頃あんなところでスヤスヤ眠っていないだろう。


「何を考えてる? そんな奴らお前が生かしたところで何の意味もないだろう。

 それとも、まだ利用価値があるから生かしているのか?」


 考えられる理由があるとすれば、それしか見当たらない。

 その時、脳裏に天啓が下るように、思考に一瞬の電流が走った。


(待て、思い返せば、シェナルークは常に新都市がある方角に対して対面になるように――言い換えれば、自分が新都市を範囲に入れないように背を向けるような位置取りをしていたような)


 その考えはあまりにも希望的観測だ。

 なんだったら、戦闘中はシェナルークしか目に入っていない。

 そのため、本当にそういう位置取りをしていたかは怪しいものだ。


 しかし、それがもし本当であるなら、行動の余地はある。

 なんだったら、別に新都市でどれだけ人が死のうが、こちらに痛手はない。

 失敗に終われば、自分が死ぬだけの簡単な話だ。


「どうした放たないのか?」


 真下から相変わらずポケットに手を突っ込んだスタイルで立つシェナルーク。

 本体は変わらず両手を縛るつもりでいるらしい。舐めた姿勢だ。

 それをこの攻撃でわからせてやる――一発勝負の始まりだ!


「お前にしちゃ人間を随分と守るじゃねぇか!

 だったら、せいぜい死なさないように守って見せろ!」


 そう言って、体の向きをクルッと反転させると、遠くに見える新都市に向け、右腕を振り降ろす。

 瞬間、空中で漂っていた巨大な惑星は、大気を震わせる轟音を響かせ、斜め下に向かって落下するような形で進行し始めた。


「チッ、面倒なことを」


 そんなリュドルの暴挙を見て、シェナルークは大きく舌打ちした。


****


―――時は遡り、ノア達とリュドルの戦いの終結後


 場所は、特魔隊本部にある大監視室。

 そこでは主にオペレーターが一堂に会し、自分の担当の隊員の情報管理を行っている。

 それは地形の把握や敵対存在の索敵、それから隊員の症状や脈拍に至るまで様々だ。


 部屋の正面には外界を繋ぐ巨大なモニターがあり、本部のあらゆる場所にあるカメラの情報をもとに都市を三次元的に観測することが出来る。


 そして今回の場合、旧都市に長年かけて設置してきたカメラを通して、隊員達の戦いを見てきた。

 といっても、見れたのは序盤だけであり、隊員達が中心地に向かうほど瘴気の影響でカメラは追い切れない。


 結果、わかるのは平面的なマップに表示された隊員達の青の丸と、隊員達の首にあるチョーカーからのデータをもとにした敵を表示する大きな緑の丸のみ。


 そんなマップの中で動き回っていた最後の三つの青の丸もついに動きを止めた。

 その事実に、監視室の内部はまるでお通夜のような静寂が立ち込める。

 いや実際、オペレーター達の表情は一様にしてそんな感じであった。


 マップ上にあるのは、建物や瓦礫を示す射線、白の丸、緑の丸と青の丸のみ。

 青の丸は先言った隊員を示し、緑の丸は「怠惰」のアビス王を示す。

 そして、白の丸は亡くなった隊員だ。


「ノアさん、ライカちゃん.....」


 巨大な画面を見つめ、つい今しがた動かなくなった青い丸に、オルぺナの目頭が強く狭まる。

 ましてや、ノアの青い丸に関しては消息が消えのだ。

 チョーカーが壊れたのかもしれないが、生存が確認できないのはとんでもなく恐ろしい。


 今にも折れそうになる心を、檻ぺナは胸の前に重ね合わせた両手に祈りを込めて必死に耐えた。

 きっと涙を流した瞬間、全てを受け入れて、立ち直れなくなってしまうから。


「お姉ちゃん......動いて」


 隣から聞こえる声に目を向けると、そこにはユリハの姿もあった。

 彼女も先程まで動いていた姉アストレアのオペレーターを務めていたのだ。

 そして自分と同じように必死に祈り、希望を諦めないでいる。


「何か、何かできること......」


 そう言って、ユリハは目の前のホログラムモニターに目をくぎ付けにし、手元の電子板にてとにかく指を動かして出来ることを探している。


 その行動力は素晴らしいし、実際自分もたった先程までしていた。

 しかし、瘴気まみれの戦場での魔力線では通信妨害もいいところで、電波に切り替えても拾える情報は隊員達の生存しているかだけだ。


 本来、どんなに隊員達が辛い状況でも、せめて声だけは飛ばしてそばにいて支えてあげるのがオペレーターとしての仕事のはずなのに、アビス王相手ではそれすら叶わない。


 だから、もう自分に出来ることは祈るしかないのだ。

 たとえ巨大モニターから絶望的な状況を見せられていたとしても。


(青い丸が残っている以上、まだ生きている)


 マップでは生存情報しかわからないので、現地の生の状況はわからない。

 それでも青の丸が白の丸になってないということは、どういうわけか生かされているのだ。

 それがオルぺナの持つ唯一の希望であり、自分が祈る全て。


「信じてる......信じてるから!」


 今にも消え入りそうなか細い声に、自分の全祈りを込めて両手を握る。

 ライカ=オルガノス――オルぺナの三番目の担当相手だ。


 二人も担当を立て続けに失わせ立ち上がれなくなった自分に、立ち上がる希望を与えてくれた大切な友達。


 出会った最初は態度も口も悪く、隊員としての気質からすれば良くも悪くも肝の据わった子だった。

 しかし、その肝には決して揺るがぬ信念と勇気があり、戦う彼女はカッコよく美しかった。


 加えて、言動こそ粗暴だが、ちゃんと人には気を遣える子だし、話せば意外と素直な子だ。

 それに、親しくなればなるほど彼女の可愛い一面が露わになり、特に幼馴染のノアの話をしてる時は本人でも自覚していないほどの乙女の顔をしていたのは、自分が沼ったポイントでもある。


 そして、そんな乙女のライカがぞっこんの相手がノア=フォーレリア――ライカの幼馴染にして、かの英雄オルガ=フォーレリアの息子にあたる凄い人物。


 もっとも、彼に魔力が宿ったのは最近の話で、それが今やアビス王と戦っているのもおかしな話だ。

 そんな彼の印象は、見た目がとっても可愛らしい男の子ということだ。


 本人に言えば怒るだろうが、実際実物を見ても男装している女の子だと思った。

 それこそ、ライカから男の子と聞いていたのにもかかわらず。


 ライカとは違い、ノアは言動が落ち着いていてまさにザ・草食系といった感じだった。

 性格的な面だけで言えば、ライカが男で、ノアが女とも言えるような感じで。

 そして彼もまた詳細を省くが、違う意味で沼りそうな男の子だ。


 そんな沼る男女二人組が、私の大切な友達であり、今まさに戦場で戦ってる。

 カナリアからも少し情報を頂いているが、直前までライカと一緒に戦っていたらしい。


 もっとも、デバイスが壊れたのかノアの反応はそれ以上追えないみたいだが。

 だからこそ生きていて欲しい。

 お願いだから、生きて帰ってきて。


「――撤退だ」


 祈りを捧げる最中、静寂な監視室に無情な一言が響き渡った。

 その凪の水面に水滴を落とすような言葉を発したのは、部屋の中央の少し高い台にいる男だ。


 巨大な体格にキチッとした軍服を纏わせた銀髪の老人であるが、その風格と黄色の双眸からは一切の老いを感じさせない。

 その人物こそ、今回の最高責任者であるギリウス=ウィルバートだ。


 本来なら、大きな戦いでしか指揮官は配置しない。

 それどころか、総指揮官まで出張ってくるのは相手がアビス王だからだろう。

 そして指揮官がいる時、監視室においてその人物の言葉が最優先事項になる。


「撤退......?」


 だからといって、その言葉がすぐに飲み込めるオルぺナではない。

 いや、オルぺナに限らず、その言葉に即座に動けるオペレーターはいなかった。

 それは本来、一刻一刻の情報を取り扱うオペレーターの動きからすれば大失格だ。


 でも、それでも、動けない。いや、動いていいかわからない。

 だって、マップには動かないけど、まだ青の丸が残っていて、その状態で撤退って――


「待ってください!」


 指揮官の命令、その言葉に意を唱えたのはユリハであった。

 椅子から立ち上がり、必死な形相で叫ぶ彼女の様子は深刻だ。

 なんせ、その一言を叫ぶだけで息絶え絶えと言った感じなのだから。


 そんな胸が張り裂けそうな不安を抱えながらも叫んだのは、きっと自分と同じ。

 想いの強さだけで言えば、姉一人を失い、もう一人の姉も失いかけているのだから、当然の反応とも言えるだろう。


「まだ......まだあの戦場でお姉ちゃんが生きています!

 お姉ちゃんだけじゃない、他の隊員さん達もまだ生き残っています!

 だから、待ってください! まだ、どうにかなる希望が――」


「その希望に縋ることが我々の仕事か?」


「――っ」


 ぴしゃりと告げられた一言に、ユリハが閉口した。

 そんな小さな少女に、沈痛な瞳を向けると、すぐに一度瞑目し、


「いいか、我々に課せられた仕事には、もちろん隊員達のサポートも含まれる。

 しかし、それ以上に大切なのが、その隊員達が明らかにしてくれた情報だ」


 普段、好々爺とした柔らかい目つきに対し、今の目つきには何の温かみもない。

 あるのは指揮官としての、否、特魔隊を率いる作戦指揮総督としての重責と覚悟のみ。


「現状、我々の出来ることは何もない。結果を指を咥えて見守るだけだ。

 なればこそ、隊員達の戦闘データを基に『怠惰』のアビス王を明らかにすることが、我々が命を張って戦ってくれた隊員達に報いる戦いだろう」


 実際、ギリウスの発言に何も間違ったことは言ってない。

 通信も出来なければ、何のサポートも行えない。

 それに、情報収集の観点からしても、それが特魔隊の戦い方だ。


 「怠惰」のアビス王が確実に旧都市にいるという情報も、そうして少しずつ少しずつ集めた情報の結果である。


 それになにより、ギリウスの発言には十六年前の「鏖殺の傲慢戦」における圧倒的実績がある。

 もうすでにアビス王との戦いを経験しての人物の発言である以上、一介のオペレーターにそれを覆せる根拠も、発言力もありはしない。


「だから、ユリハ君。大変申し訳ないが、これが指揮官である私の判断だ。

 理解しなくていい。恨んでくれてもいい。ただ従って行動してくれ。

 場合によれば、彼らが救おうとしてくれた我々も死ぬやもしれないのだから」


「.......」


 その言葉に、ついにユリハも力なく椅子に崩れ落ちる。

 それはあまりにも痛々しく、同時に自分も似たような姿なんだろうなと思えた。


 かけてあげる言葉は当然見つからず、もはや正解すらわからない。

 いや、そもそもそんなものは最初からありはしないだろう。

 あるとすれば、きっとそれは――アビス王が倒された時なのだから。


「誰か、旧都市近くの一般戦闘部隊に連絡できるものはいるか?」


「それが先程から何度も応答を繰り返しているのですが、一切反応しません。

 各隊員の心電図データから見れば、全員生存しているはずなのですが」


「生存しているのに応答しない? 交戦状態か?」


「いえ、周囲に敵反応はありません。

 ただその場に立ち止まり、一切応答しないだけです」


「直接アビス王と戦えないとはいえ、選ばれたのは精鋭だ。

 応答に気付かないなどそんな愚かな行動はしない。

 となれば、他に何か別の外的要因で動けない――」


「ギリウス指揮官!」


 その時、一人のオペレーターが力強く叫んだ。

 その言葉に、一瞬希望の表情を浮かべるオルぺナであったが、次の一言ですぐに困惑の表情へと変化する。


「戦場にて巨大な反応がありました。パターン黒です」


「なっ!?」


 これまで、戦ってる隊員達の情報を一身に浴びながらも冷静沈着であったギリウスが、今までに見たことのない驚愕の表情を浮かべて固まる。

 その表情には、まるで「ありえない」とデカデカと書かれているぐらいの驚き方で。


 とはいえ、その反応を見てもオルぺナはあまりピンと来ない。

 なんだったら、驚く原因である「パターン黒」という言葉にも眉根を寄せるばかりだ。


 その気持ちは自分だけではなく、周りを見ても、視線をユリハに合わせても首を傾げられただけだ。

 だから、その反応の内訳が何一つわからないわけだが、全く心当たりがないわけじゃない。


「その言葉どこかで聞いたことがあるような......」


 そう言葉を呟き、記憶の中を探ってみれば、一つだけ該当する言葉が見つかった。

 それは、主力部隊の本陣が「怠惰」のアビス王に接触した時に、アリューゼを担当するオペレーターが発した「パターン緑、『怠惰』のアビス王と接敵しました」という言葉だ。


 そういえば、普段は敵情報は赤い丸で表示されるが、アビス王に限っては特別な表示があったはず。

 「怠惰」であれば緑色、「嫉妬」であれば紫色、「暴食」であれば黄色、「色欲」であれば桃色、「強欲」であれば橙色、「憤怒」であれば赤色。


 七つの大罪のイメージから選ばれた色で、「憤怒」だけ例外的に赤色だが、そもそもアビスの強さを示す丸の大きさが違うので現れれば一目で違いはわかる。


 現に、隊員達が戦っていた緑色も他の赤と比べると随分大きい表示のものだ。

 そして、十六年前に討伐された「傲慢」のパターン色は――黒。


「......は?」


 この時、オルぺナの思考回路はようやくギリウスと同じ驚き(けつろん)に辿り着く。

 それ即ち、十六年前に倒されたはずの「傲慢」のアビス王がどうして生きているのかということ。


 そりゃ、ギリウスが驚愕するのも頷ける。

 だって、その存在は十六年前に倒されたはずなのだから。

 それが復活した――それも「怠惰」のアビス王との戦闘の最中で。


「なぜ......なぜ奴が生きている!?」


 近くにある鉄柵に捕まり、前のめりになりながらギリウスが吠えた。

 さながら目の前の親の仇がいるのに、力がないばかりに復讐が出来ない子供のように。

 額にはいくつもの青筋を浮かべ、その怒りのあまり握力で鉄柵を握り潰した。


「奴は十六年前に倒したはずだ。

 オルガ君がしくじるはずがないし、何より私がこの目で反応の消失を確認した。

 だからもういないはず......なのになぜ!?」


 常に冷静沈着、どんな状況にも動じないといった印象を持つギリウスが激しく取り乱す。

 そんな指揮官の姿を見て、オルぺナは一周回って冷静になった。


 しかし、これは自分より怖がってる人を見て冷静になるあの感覚とは違う。

 どちらかというと、そう、諦めだ。必死に祈っていた希望が粉々に潰えた感覚。


 だって、そうだろう。

 ただでさえ、「怠惰」のアビス王一人に対し、隊員の誰も動かなくなった。

 そんな状況でさらにもう一体のアビス王?

 限りなくゼロに近い勝率がゼロになったのだ。


 加えて、十六年前の戦いは特魔隊の中では有名な話だ。

 なんせ実際にあった神話みたいな戦いの話だったのだから。


 当時で言えば、歴代で一番の戦力が揃った時代であり、その時に「傲慢」と戦ったのは事故みたいなものだったが、その時代だったからこそ数多の犠牲の末に勝ち取った勝利と言える。

 しかし、それが今はどうだろうか。


 ここで「傲慢」のアビス王が復活したとなれば、十六年前の神話はどうなる?

 これまでの歴史と変わらない、隊員達がアビス王に負けた敗北記録が更新されるだけ。

 加えて、あれだけ英雄達と持て囃された隊員達がただの負け犬に成り下がる。


 これ以上ないプライドの踏みつけはないだろう。

 相手が「傲慢」だからといって、こうまでして相手の尊厳を踏みにじっていいものじゃない。


 しかし、どれだけ理屈を並び立てようと、現実に起きた事実は変わらない。

 十六年前から遥かに技術が進化したデータが間違える回答をだすはずがなく、そして依然として監視室という監獄にいる自分達が動けないのも変わらない。


「神様......」


 たった先程、打ち砕かれたはずの希望にオルぺナは縋った。

 バラバラに、粉々に砕け散ったそれを両手でかき集め、すくい、両手に閉じ込めて祈り続ける。


 相手は誰か、この世に存在するかもわからない神という概念だ。

 しかし、そうまでして祈らなければ自分が壊れてしまいそうで、出来ることもそれしかない。

 だから、どうか、どうか......自分からもうこれ以上、大切な人達を奪わないで。


「誰か.....お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けてください......」


 自分が祈り始めると、同じようにして隣のユリハも祈り始める。

 二人だけではない、その願いが波及するように次々とオペレーターが両手を握り合わせた。

 もはやモニターすら見ない姿勢は、怖いものから目を逸らす子供のようでもあったが。


「――どういうことだ?」


 瞬間、聞こえたギリウスの声に、オルぺナは思わず顔を上げる。

 片眉を上げるギリウスの視線の先、モニターへと視線を移すと、そこには激しく動く二色があった。

 そう、まるで祈りが通じるように黒と緑の丸が戦い始めたのだ。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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