act.43「魔法少女である理由」
「――悠里先輩は……どうして、魔法少女になったの?」
美衣ちゃんから発せられたその言葉に、俺はドキリとした。
俺は美衣ちゃんに聞き返した。
「え……? どうして?」
「別に深い意味はない。単純に気になったから……」
「そっか、うーん……」
どうして魔法少女になったか、か……。
ぶっちゃけ答え辛い質問だ。だって詳しく話そうとすれば、必然的に性転換したことも話さなければならなくなりそうだからだ。
というか、ぶっちゃけ俺の意志なんて関係なかった気もするし……。
「どちらかというと、魔法少女になったというより魔法少女にさせられたというか……」
「でも、魔法少女になるかならないかは、どの子にも必ず選択肢があるはず」
「え? そうなの?」
「そう。魔法少女になるか、それとも全部忘れて元の生活に戻るか、最初に選ばされる。それで実際に魔法少女にならなかった子もいるし」
「へぇ、そうなんだ……」
確かにそう言われれば……魔法の力を手に入れて怪異と戦うか、あるいは忘れるか、千景さんに聞かれた気がするな……。
もっとも、かなり強引だったし、性転換するのは事後承諾だったが……。
だがそうなると、俺が怪異と戦う道を選んだのって、どうしてだっただろうか?
その時の記憶を手繰り寄せてみる。
そうすると……答えは自ずと分かった。
俺は美衣ちゃんに、その答えを告げる。
「私が魔法少女になったのは……珠々奈がいたから、かな」
「珠々奈が……?」
予想外の答えだったんだろう。美衣ちゃんは珍しく眉を動かして驚きをあらわにする。
俺は頷いた。
「うん。あの時、たまたま……珠々奈が戦ってるところに居合わせたから……それを見て、気になったんだ」
上手く言えないけど……俺はあの戦いで、あの子のことが……気になったのだ。
そしてその後に、千景さんから『あの子を助けてあげて欲しい』なんて言われた日にゃ、断れるはずがない。
「……」
美衣ちゃんは、それ以上は何も聞いてこなかった。まぁ、これ以上聞かれても何も答えられそうになかったから、正直助かった。
今度は俺から、美衣ちゃんに尋ねる。
「……美衣ちゃんは、どうして魔法少女になったの?」
俺の問いに、美衣ちゃんは即答した。
「別に理由なんてないけど……ただ、芽衣がやりたいって言ったから」
「美衣ちゃんは、芽衣ちゃんが好きなんだ?」
「好きとかそういうのとは違う。一緒にいるのが普通なだけ」
「そっか」
「うん……」
だけどその当たり前に感じてしまうほどの強固な結びつきが、シスター契約に必要な絆を形成しているのかもしれない。俺はそう思った。
そんな感じで美衣ちゃんと世間話をしつつしばらく経った頃、申し訳なさそうな顔をしながら珠々奈が部屋に入ってくる。
「遅いよー、珠々奈」
「すみません、掃除当番が長引いちゃって……」
そう言って珠々奈は、部屋の中を見回す。
「あれ……? 今日は先輩と美衣だけですか? 珍しい」
珍しいのか。
まあでも確かに、芽衣ちゃんと美衣ちゃんは2人でセットのイメージが強いもんな。
「芽衣ちゃんのほうは、今日は来れないみたいだよ」
「あ、そうなんですか……じゃあ今日の特訓はどうしましょうか?」
「昨日練習した動きの復習をしたいかな。珠々奈、付き合ってもらってもいい?」
「いいですよ。どうせ乗りかかった船ですから」
そして今日のメニューが固まった俺と珠々奈は、生徒会室から出ようとする。
だが、その直前――。
「……悠里先輩」
――美衣ちゃんに呼び止められていた。
「うん?」
俺は振り返って、美衣ちゃんのほうを見る。すると美衣ちゃんは、こちらに小さく手を振りながら、こう言った。
「いってらっしゃい」
俺は、そんな美衣ちゃんに手を振り返した。
「うん。いってきます――」
◇◇◇
生徒会室を出た途端、先に出ていた珠々奈に睨まれていた。
「ど、どうかした……?」
「悠里先輩……私が来るまで、美衣と何してたんですか?」
何って……。
「ただ、世間話してただけだけど……」
なんすか?
俺、なんか変なことしました?
すると珠々奈は、俺の答えに慄きながら言った。
「美衣は、姉の芽衣以外には滅多に心を開かないんですよ。少なくとも……美衣のほうから手を振るなんて、初めて見ました。先輩……一体どんな魔法を使ったんですか……?」
いや、魔法って……大袈裟な……。
「別に、普通の会話だけど……」
別になんてことない話ばかりだ。
そのどれが美衣ちゃんの琴線に触れたのかは、正直言って分からない。
だけど……その中で俺は、唯一美衣ちゃんのほうから尋ねられたあの質問を思い出していた。
「ねぇ、珠々奈」
「なんですか?」
「珠々奈は……どうして魔法少女になったの?」
すると珠々奈はにわかに目を細めた。
「……急に難しい質問ですね」
そして、珠々奈は少しだけ考えた素振りを見せたあと、こう答えた。
「……そんなこと、もう忘れちゃいました」
「忘れた……?」
「はい。たぶん……きっと大した理由じゃなかったんだと思います。私に限らず、大半の魔法少女にとっては、理由なんてそんなものです」
「なるほど……?」
「さ、こんなところで無駄話してないで、早く行きましょう」
「う、うん……」
そして珠々奈は、さっさと行ってしまうのだった。
なんか……上手くはぐらかされたような気がしないでもないな……。




