act.39「特訓しよう!」
「さっきも言ったけど、シスター契約は契約した2人の魔力を増大させる……いくら悠里ちゃんがSランクといえど、シスターの力を引き出した魔法少女には敵わないと思う」
会長が困ったように眉をひそめる。
ということは……既にシスター契約をしている成田さんには勝てないってことか……?
「じゃあ、私はどうしたら……」
「エントリーしなければ良いんじゃない? そうすれば闘わなくてすむし」
「いや、大見得切っちゃったし、それは流石に……」
「ま……そんなことしたら、三峰は嬉々として言いふらすだろうね。悠里ちゃんが逃げたって」
つまり、あの時の提案に乗ってしまった時点で、俺は風紀委員長の術中に嵌っていたってことだ。
ああ、俺のバカ。
そうなると結局、俺に残された選択肢は、能力評価試験にエントリーするほかない訳で……。
負けると分かっていて挑むしかないってことか……?
すると会長は、苦悶の表情を浮かべる俺を眺めながらニヤニヤと笑った。
「まぁ、でも……相手がシスター契約してる魔法少女でも、勝てる方法がないわけじゃないよ」
……え?
「本当ですか?」
「うん」
頷いた会長は、2本の指を立てながら言う。
「――方法はふたつある。ひとつは、自分も誰かとシスター契約しちゃうこと。そうすれば、力の差はなくなる」
シスター契約しちゃうって……今の俺にはそんな相手はいないし……。
「シスター契約って、そんな簡単に出来るものなんですか?」
俺がそう尋ねると、会長は首を横に振った。
「無理だね。絆がないとシスター契約は出来ないから」
じゃあダメじゃん。
「だから、今回はもうひとつの方法を使うんだよ」
「もうひとつの方法?」
「そう……つまり、シスター契約の弱点を突くってこと」
シスター契約の弱点?
そんなものがあるのか?
「教えてください! ぜひ!」
弱点を突ければ、成田さんたちも倒せるかもしれない。
なにより、他に方法がない俺には、それにすがるしかなかった。
俺の反応を見て、会長は満足げに頷いた。
「オッケー! じゃあ、ちょうど今日は時間があるし――」
そして会長は、ニヤリと口角を上げて言った。
「――早速始めましょうか、特訓を」
◇◇◇
……所変わって、闘技場。
会長の言うシスター契約した魔法少女の弱点を突くための特訓をするために、自由に魔法を使える場所に移動してきたのだ。
戦闘フィールド内にいるのは俺と――、
「だから悠里先輩が能力評価試験に出るって聞いた時点で嫌だったんですよ……」
――隣でブツブツと文句を言っているのが、珠々奈だ。
能力評価試験がタッグマッチということで、当然俺にも組む必要があるという話になったのだが、その白羽の矢が立ったのが案の定、珠々奈だったのだ。
ちなみに会長は、「丁度いい人が珠々奈しか居ないんだからしょうがないじゃん」と言っていた。そして珠々奈はその時も文句を言っていた。
俺は珠々奈をチラリと見た。
俺が珠々奈の元パートナーに似てるって話だったな……。
どれくらい似ていたのかが分からないから珠々奈の心情を押しはかることも難しいが……そんな俺と一時的とはいえタッグを組む訳だから、何か思うところもあるのだろう。
それに、ついさっきも失言しちゃったしな……。
「――あのさ」
俺は、隣の珠々奈に声を掛けた。
「……なんですか?」
珠々奈が返事をする。
ガチギレしてるって訳でもないけど、やっぱりご機嫌斜めって感じだ。
俺は、言い淀みながらも珠々奈に言った。
「……さっきはごめん」
俺がそう謝罪を述べると、珠々奈はこちら側に振り向いて、まるで梅干しでも食べたかのようななんとも言えない顔をした。
「いきなり謝って、なんなんですか?」
「あ、いや……だってさっき、デリカシーのないこと言っちゃったからさ。珠々奈に、その……シスター契約のこと聞いちゃったりして……」
「……ああ」
俺がそこまで言って、珠々奈はようやく察したようだった。
「……別に、気にしてないですよ」
……え?
「で、でも……」
「今の私にシスターがいないのは事実ですから。それに……今更悔やんだって、戻ってくる訳でもないですから」
果たしてその言葉が、珠々奈の本心なのかは分からない。
だけど少なくとも珠々奈は、今もそれを乗り越えようとしているのかもしれないな、と俺は思った。
「というか、それよりも私が気に入らないのは……誰かさんの思惑通り、着実に外堀が埋められていってるってことです」
そう言って、珠々奈は観客席を見た。
「悠里ちゃーん、珠々奈ー、頑張れー!」
観客席席には会長と利世ちゃんが座っており、会長が他人事のように手を振っていた。
……って、あれ?
「……特訓って会長が付き合ってくれるんじゃないの?」
俺の質問に対し、珠々奈は口を開く。
「ああ、それなら多分――」
――そして珠々奈が答えようとしたその瞬間。
フィールド内に、ある2人が降り立っていた。
身長から顔立ちまで、まったく瓜二つな2人の少女。
唯一はっきり分かる違いは、サイドテールを結んでいる位置が、右向きか左向きか――それだけだ。
「悠里先輩と珠々奈ちゃんは!!」
「……美衣たちが相手」
その双子の登場を眺めながら、珠々奈は呟いた。
「――芽衣と美衣は、シスター契約のエキスパートですから」
登場人物を多くし過ぎて持て余しつつある今日この頃。




