act.35「拳で闘う魔法少女(物理)」
『――成田希沙羅と芹澤悠里の決闘が承認されました。只今より闘技場にAMFを展開します。該当生徒以外は速やかに退避して下さい』
決闘開始を告げるアナウンスが、場内に響き渡る。
それにしても、何回聞いても慣れないな、このアナウンス……。
なんというか、こう、妙に緊張感が走るというか……。
だが一方で、向こうの成田さんはというと……余裕に満ちた表情を浮かべている。
確か利世ちゃんが、風紀委員は武闘派集団だみたいなことを言っていたが……それが本当なら、決闘には慣れっこなのだろう。
そして、なぜかステラギアを展開する様子もなかった。
「成田さーん、ステラギアは展開しないのー?」
俺がそう問いかけると、成田さんニヤリと口角を上げながら答えた。
「なに、ただのハンデさ。アンタの方からかかってきな」
「あっそ……」
めちゃくちゃ舐められてるなぁ……。
一応ランク的には俺のほうが上の筈なんだけど。
まぁ、でも……舐めてくれるならその方がありがたい。
お言葉に甘えて、先制攻撃をさせて貰いましょうかね。
俺は右腕のステラギアに力を込める。
だが、その瞬間――。
――ドクン。
「――ッ!?」
――全身の血管が一気に脈打つような、奇妙な感覚に襲われた。
そして――脳裏に浮かぶ、武器の輪郭。
自分の身長に匹敵するほどの巨大な流線形――。
これは……剣か……?
まさかこれが、俺の攻撃形態……?
俺はそれを、手を伸ばして掴み取ろうとする。
だが、その手に触れる直前――武器のイメージは俺の手から逃げるように霧散した。
くそ……もう少しで!!
何かを掴めそうだったのに……!!
「……? どうした?」
虚空を掴んだまま静止する俺を見て、成田さんは怪訝な表情をする。
「まさか怖気付いたのか? だったら降参してもいいんだぜ? 土下座して謝るならな!」
「――……はん! 冗談じゃないね!!」
俺は、掴み損ねた武器の代わりに、いつもの箒を展開させていた。
くそ……! やっぱりこれで戦うしかないのか……!
「どうした! 飛行形態なんか展開してどうするつもりだ!」
「うっさい! お前なんかこれで充分だ!!」
俺はダッシュで成田さんの元へ急接近し、箒を彼女の脳天に目掛けて振り下ろした。
「喰らえ、必殺! 兜割りっ!!」
どうだ!
適当に振り下ろしただけだが、なんかそれっぽいだろう!
いくら決闘用のセーブモードで出力が下がってるといえど、直撃を喰らえばひとたまりもないはずだ。
……って、あれ?
なんか思ったより、手応えがないような――。
「――なるほど、思ったよりもやるじゃねーか」
「……!?」
俺の攻撃は、成田さんの元に届くことはなく――それは、彼女によって難なく止められていた。
そして俺は、その状況に目を疑った。
成田さんは……俺のステラギアを拳ひとつで受け止めていたのだ。
「ステラギアが、素手で止められた……!?」
「これが……アタシの攻撃形態だ」
いや、素手じゃない……。
よく見ると、手には銀色の何かが填められている。
これは――。
――メリケンサックだ。
「今度はこっちの番だぜ――」
成田さんは片手で俺のステラギアを受け止めたまま、もう一方の拳でアッパーカットを繰り出した。
「オラあぁッ!!」
メリケンサックが的確に俺の頭部を狙ってくる。
「くっ……」
俺は咄嗟に飛行形態のステラギアに力を込め、空中へと退避した。
あ、あぶねー……。
あとちょっとでも回避が遅かったら、1発ノックアウトだったかもしれない。
俺は空中でステラギア――箒に跨りながら成田さんを非難する。
「ちょっと……! いま、本気で殴ろうしたでしょ!!」
「バーカ、何言ってんだ。決闘なんだから本気に決まってるだろ!」
いや、まぁ、そりゃそうだけども。
成田さんはやっぱり決闘慣れしているらしい。攻撃に一切の迷いがない。
流石は風紀委員といったところか。
……いや、風紀委員のことは大して知らないが。
取り敢えず、このまま空中で体勢を立て直して――。
「――逃すかよッ!!」
「――っ!?」
――なんと成田さんは、大ジャンプで飛行中の俺に追いすがり、パンチを繰り出してきた。
俺は咄嗟に箒を盾にしてそれを受けるも――、
「ぐうっ――!」
――勢いを殺しきれずに、地面に叩きつけられてしまう。
なんて奴だ……。
物理攻撃にステータス振りすぎだろ……。
俺の中の魔法少女の概念が揺らいできたんだけど。
「なんだお前、Sランクの割には大したことないな」
「……将来性があるって言ってくれないかな?」
「チッ……その減らず口、2度と叩けねーようにしてやるよ」
成田さんは、未だダメージの残っている俺へ追い討ちをかけるために、こちらに迫ってくる。
「らあぁッ――!」
これは……結構マズイかも……?
そんな時だった。
「――やめて下さい! 希沙羅お姉様――!!」
遠くのほうから、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
俺と成田さんは、その声がしたほうへ視線を向ける。
見ると闘技場のフィールド外――観客席のところに、2つの人影があった。
あれは――。
――珠々奈と、もう1人は……さっき俺が教室で声をかけた、あの少女だった。
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