act.18「Sランク vs Sランク…?」
『――綾瀬薫と芹澤悠里の決闘が承認されました。只今より特別棟1階東エリアにAMFを展開します。該当生徒以外は速やかに退避して下さい』
なんで……?
そもそも決闘するなんて、一言も言ってないんですけど……?
目の前にいるのは、俺と同じく黄色いリボンを胸元に付けた少女。
高身長のモデル体型で、綺麗な娘だった。
これだけ印象的な見た目をしていれば、一度見たら忘れそうにないが……残念ながら俺の記憶の中に、彼女は存在していなかった。つまり、今が初対面であることは間違いない。
俺は目の前の少女に話しかけた。
「ええと、なんかおかしなことになっちゃってますね……いきなり決闘だなんて……」
すると少女は、あっけらかんとした表情で答えた。
「何もおかしいことなんてないわよ? だってこの決闘は、私が仕掛けたものだから」
「で、でも……! 私、決闘するなんて一言も言ってないし……!」
「確かに、普通なら決闘は両者の同意がないと行えない。だけど実は私、持ってるんだよね……決闘の承認権」
ということはつまり、この娘が勝手に決闘を仕掛けて、勝手に承認したってこと?
そんな無茶苦茶な……!
「なんでそんなこと……?」
「いや、実はキミのことがちょっと気になってね」
「え……?」
「なんでも、脅威度A相当の怪異を一撃で倒したそうじゃない」
脅威度A……?
あれか? この前の飛行型怪異……。
確かに、倒したのは事実だけど……あれは、訳もわからず気付いたらやっつけてただけで、正直実力とはほど遠いというか……。
「あれはぶっちゃけ、ただのマグレで……」
「あら、そうなの……? だけどそこは心配しなくても大丈夫よ。本当にマグレだったのかどうかは今回の手合わせで判断してあげるから……どう? 親切でしょ?」
わー、それは親切だぁ……。
少女は腕輪状態のステラギアが嵌っている右手を掲げ――いつの間にかその手には、長槍のような武器が握られていた。
少女の長身も相まって、非常に様になっている。
「どうしたの? キミもステラギアを変形させないと、危ないわよ?」
少女はそう言って微笑みかけてくる。
くそ……やるしかないのか……。
でも、俺のステラギアは……。
……迷っていても仕方がない!
俺は右腕に力を込めた。
来い、ステラギア――!
だけど、右腕の腕輪はやっぱりうんともすんとも言わない。少女のステラギアのように、武器の形に変形する様子は全くなかった。
やっぱりダメなのか……!?
こうなったら、この前と同じように飛行形態で対抗するしかない……!!
俺は、今度は箒の形を思い浮かべながら、もう一度ステラギアに力を込める。
すると今度は、徐々に形を変えながら――飛行形態に変形していた。
それを見た少女は、少し驚いた様子で言う。
「あれ……? 攻撃形態じゃないんだ?」
「うっさい……!! 私はこっちの方が使いやすいの……!!」
「あ、そ……キミがそれで良いなら、別に良いけど――」
少女は、槍を両手で構え、何かを念じるように目を瞑る。
――その瞬間、周囲の温度が急激に下がった。
「――っ!?」
「――ねぇ、悠里ちゃん。私がみんなから、なんて呼ばれてるか教えてあげよっか?」
そして少女は、目を見開いて俺の目を真っ直ぐ見据える。
それと同時に、俺と少女を取り囲むようにして、巨大な氷柱が無数に出現していた。
そして少女はにこりと微笑む。
「絶対零度の女王――覚えておいてくれると嬉しいな♪」
◇◇◇
食堂に向かう途中で悠里と分かれた利世は、ある場所に向かっていた。
あの時電話を掛けてきた相手、薫姉は……利世の一つ年上の幼馴染だった。
利世は彼女に今すぐきてほしい、と頼まれていたのだ。
利世はこうして幼馴染から頼み事をされることが多々あり――大抵お使いに行ってくれとか、肩を揉んでくれとか、大した要件ではないので無視をして良かったのだが――電話越しの彼女の声が、妙に深刻そうなものだったので、気になってしまったのだ。
電話越しの会話の中で場所の指定はなかった。だが、その場合向かう場所は決まっている。
つまり、いつもの場所に来てくれ――そういうということだ。
利世は、いつもの場所――『生徒会室』と書かれたプレートが垂れ下がっている部屋に入った。
「お疲れー……ってあれ……? 薫姉……?」
生徒会室の中には、目的の人物の姿はどこにもなかった。
代わりにいたのは、2人だけ。顔が瓜二つの少女――双子の芽衣と美衣だ。
「あれ? 薫姉って来てない?」
利世は2人に尋ねる。
すると姉のほうの芽衣が答えた。
「会長? 来てないけど……なんかあったの?」
「薫姉に呼び出されて来たんだけど……おかしいな……」
まさか、薫姉に何かあった?
一瞬そう思ったが、利世はすぐにその可能性を否定した。
学院内ないで最強レベルの彼女が、トラブルに巻き込まれるなどあり得ないからだ。
じゃあ、どうして……。
「あっ――」
その時、利世はあることを思い出した。
――そう言えば、昨日悠里ちゃんに関する話を聞いた時、薫姉、すごく興味を持ってたっけ……。
「――ということは、まさか……本当の目的は私じゃなくて悠里ちゃん!?」
もしそうなら、まずい……もうそろそろ薫姉が悠里ちゃんと接触する頃だ。
利世は急いで、来た道を引き返したのだった。
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