31.再戦
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三人で歩く地下道は一人の時よりも随分と狭く感じた。 五メートルもない道幅だ。一人のときとさして変わらないと思っていたのだが。ふと先導していたキリシマがあることに気付き、立ち止まって天井を松明で照らす。
「妙だな」
「どうしました?」
「大蝙蝠が再生していないようだ」
大蝙蝠というのは以前キリシマ一人でこの洞窟へ忍び込んだ際に対峙した例の大型魔物だ。ゲームの中では決まってこの道を通るタイミングで登場するため、一度離れて再度同じダンジョンにやって来た今、復活していると思っていた。そのはずの魔物が天井にぶら下がっていない。
辺りを警戒するキリシマに追いつき、上を見上げてバーレッドも首を傾げる。
「まだそんなに時間が経っていないから……ですかね?」
「ふむ……そうかもしれんな」
不自然だが、用心に越したことは無い。なにしろNPCをパーティに引き込んで育成することもできたのだ。それ以外のこともゲームの頃とは勝手が違う、変更されているという可能性がゼロとは限らない。
イレギュラーの予測をたてつつ慎重に足を進める二人の後ろには、ルタが暗がりにおどおどしながら懸命について歩いていた。
「暗いですね……壁も真っ黒で冷たいです。洞窟ってぼく、初めてで……。ご主人さま、その、りぽっぷってなんですかぁ……? ひっ! ひゃあっ!」
「下がってルタくん! 打ち合わせ通りのフォーメーションで行きますよ!」
ルタの質問を遮ったバーレッドの声で一同に緊張が走る。続く台詞は戦闘開始を意味する言葉。
すぐに飛びのいてバーレッドとの距離を離し、後方で杖を真横に構え詠唱の準備をするキリシマ。腰の剣を引き抜いて戦いの構えをとるバーレッド。ルタも一拍子半遅れて二人の中間を陣取って指揮棒を握り、魔法陣のエフェクトを展開する。
彼ら三人が戦闘の姿勢をとり睨む前方を見遣ると、そこには噂のエネミー・黒い鎧の男が立ち塞がっていた。
「あれが噂の……! お、大きいです怖いです……!」
「キリシマさん、宝箱の先に登場すると聞いていたと思うんですが」
「そのはずだったのだがな。輩奴の気まぐれなのか、持て余していてよほど我々とやり合いたいのか。いずれにせよ踏破時間の短縮には好都合ではないか! いざよかかれ! バーレッド!」
「御意!」
一方通行の道、互いのフォローが行き届く範囲に立って位置を決め十分な距離をとって態勢と呼吸を整える三人。
先方が先に動いた。黒鎧の男の巨大な三日月斧の一撃に洞窟が震撼する。床が抉れて盛り上がる。土と石の混ざった壊れた道から飛び退いて敵の攻撃をかわす。急接近。バーレッドが最初の一撃の予備動作を入れ黒鎧の首目掛けて切りつける。
が、敵も簡単にダメージを与えさせてくれるような相手ではなかった。首を狙った一撃は肩で受け止められ、鎧にぶつかった剣の重い金属音が洞窟の石壁にキンと響き渡る。
痺れるような衝撃が剣を伝ってバーレッドの腕を震わせた。彼の筋肉を振動させ負荷を与えているが、
(すごい。この手応え! 本物だ……!)
今までに感じたことのない感触に怯えるではなく彼は興奮していた。
キリシマが逃亡を余儀なくされたという相手から放たれているただならぬ殺気も、バーレッドにとっては心地よい刺激ということらしい。自身のHP表示の数字が少し減っているのを横目で確認すると、彼は剣を翻して距離をとる。にやりとほくそ笑むと、臆することなく次の一手を見定めて黒鎧の男へと向かっていった。




