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第280話

“ドドドドッ……!!”


 段々と大きくなってきている音。

 何かが近づいてきている証拠だ。

 綾愛たちは身体強化することで視力を上げ、その音を発する生物が何なのかを確認する。


「……大量の虫?」


「あぁ、そうみたいだ……」


 どんな生物が近づいてきているのかは、まだ距離があるためはっきりと確認することはできない。

 しかし、地を這っている姿を見る限り、何かの虫なのは確認できる。

 道康も同じ考えから、綾愛の独り言のような呟きに同意の言葉を呟いた。


「っっっ!!」


「ヒイィーーッ!!」


 近づいてくる大量の虫。

 その姿を確認できたとたん、綾愛は一瞬にして顔が青くなる。

 道康も同じで、綾愛以上に恐怖を感じたのか、甲高い悲鳴を上げた。


「っっっ!! 虫の奥に魔人発見!! いや、それより……」


 顔を青くしつつも、綾愛は大量の虫の中に魔人らしき姿の生物を発見した。

 しかし、その姿を確認した瞬間、背後にいる仲間たちに向かって振り替える。

 そして、


「「撤退っ!!」」


「「「「「りょ、了解!!」」」」」


 綾愛と道康が同時に声を上げる。

 隊長となる2人以外の柊家・鷹藤家の者たちも、何が近づいてきているのか理解している。

 そのためか、全員が指示に従い、踵を返して出口へ向かって走り出した。


「ちょっと! 今回の手柄は譲ってあげるから、()()の相手してよ!」


「冗談言うなよ! いくら何でも()()はないって!」


 隊長として殿を務めないといけないため、仲間を追い抜かないように出口へ向かって並走する綾愛と道康。

 そんな状況で、2人は言い合いをする。

 確認した魔人とその配下となる虫の魔物たち。

 どっちもその相手をしたくないらしく、相手に擦り付け合っているようだ。


「かつての鷹藤家の名声も地に落ちたわね!」


「ひでえな! あの魔人を1人で倒せる人間なんて、そうそういねえっての!」


 大和皇国の魔闘師と言えば鷹藤家。

 かつてはそう言われるほど隆盛を誇っていたというのに、今では柊家にその地位を奪われ、他の名家よりも下に見られる状態にまで落ち込んでいる。

 4年ぶりに出現した魔人を倒せば、少しは人気を取り戻すことがでいるかもしれない。

 それなのに、相手を選んでいることを貶す綾愛。

 そんなことは道康も理解している。

 しかし、相手が相手なだけに、戦うつもりはないようだ。


「そういうあんたが、あの魔人何とかしろよ!」


「いやよ! だって……」


 この4年で綾愛の戦闘力は上昇している。

 1対1なら、ある程度の実力の魔人と互角に戦える自信がある。

 しかし、今回はそうではない。

 その理由が、


「あれ完全にGじゃない! あんな気持ち悪いの相手にできるわけないじゃない!」


 洞窟内に潜んでいた魔人とその配下となる虫の魔物たち。

 その姿は、あのカサカサ動く黒光りした昆虫、Gことゴキブリだ。

 しかも、普通のではなく巨大な姿をしているため、自分から戦いたいと思う人間なんてこの中には存在しない。

 決して倒せない相手ではない。

 倒すとなると刀で斬るか、強力な魔術で一気に消滅させる方法がある。

 しかし、あの数を一斉に倒す魔術となると、強力な魔術攻撃が必要になる。

 そんな強力な魔術を使用したら、洞窟が崩れて場合によっては自分まで生き埋めになってしまうかもしれない。

 ならば刀でと思えるが、あのGの魔人や魔物を刀で斬ったとして、もし体液が飛んできたらと思うと、考えただけでも全身鳥肌が立ってくる。

 そのため、綾愛はあれの相手をするのを全力で拒否した。






「ったく! 何やってんだ!」


「あっ!!」


 洞窟の出口が近づいてくる。

 そんなところで、綾愛たちに声をかける者が現れた。

 出入り口の前に立つその人物の顔を見て、さっきまで必死だった綾愛の表情がほころんだ。


()()()!!」


「うげっ! Gの魔人かよ……」


 現れたのは伸だ。

 伸に向かって声をかける綾愛。

 そのことからも分かるように、伸と綾愛は結婚した。

 数日前のことだ。

 駆け寄ってくる綾愛たちの背後を見た伸は、表情を歪める。

 こちらに向かってくる魔物と魔人が、Gだと気付いたからだ。


「後はお願い!」


「あ、あぁ、任せとけ!」


 Gの魔人と配下の大量の魔物たちを一気に倒すには、強力な魔術攻撃しかない。

 綾愛たちがそれを成すには、かなりの魔力を集める必要がある。

 しかし、あのカサカサした音を聞きながらとなると、集中できずに時間が掛かってしまう。

 それに引き換え、規格外の強さの伸なら大した時間も掛からないはずだ。

 そのため、洞窟から出た綾愛は、魔人と魔物の相手を任せるように伸の横を通り抜け、仲間たちと共に洞窟から離れて行った。

 他に手が離せない仕事をしていたために、綾愛に代わりに隊長役を頼むことにしたのだが、魔人がいる可能性があるので気になっていた。

 もしものことがあってはならないと、伸は他の仕事を早急に終わらせ、遅れてここに来たという状況だ。

 来てみたらやはり魔人がいて、しかもGだと分かった伸は、綾愛が逃げ出す理由に納得した。

 そのため、綾愛の頼みを受け入れた伸は、自分が魔人と魔物を殺すことに決めた。


「フンッ!!」


「そ、そんなーっ!!」


 少しの間で両手に集めた魔力を使い、伸の両手から火系統の強力な火炎魔術が放出される。

 その高熱の火炎によって、出口へと向かっていた魔物たちがあっという間に焼失して塵へと変わる。

 その魔術が逃げようと踵を返したGの魔人に襲い掛かり、悲鳴のような言葉を残して消え去った。


「ふう~……」


「さすがね!!」


「おわっ!」


 探知の魔術を使用して生き残りがいないように火炎放射し続けたことで、全てのGを消し去ることに成功した。

 それを確認して一息ついた伸に、綾愛が抱きついてきた。


「……ったく! あんたが来るんだったら、鷹藤家(うち)が来る必要なんてなかったじゃねえか?」


「……まぁ、そうだな……」


 柊家の婿である伸。

 その実力は、学生時代から規格外だということが名家の間で知れ渡っている。

 伸がいるからこそ、柊家が魔闘師業界のトップに立っていることに文句が出ない状況だ。

 そんな伸なら、魔人の1体や2体出たところでどうにかしてくれる。

 わざわざ自分たち鷹藤家が来る必要がかった。

 無駄な手間を取らされたと、道康は伸に向かって嫌味を言う。

 その態度が気に入らなかったため、伸は「何しに来たんだ?」と言わんばかりの態度で返答した。


「チッ! まあいいや、帰るぞ!」


「「「「はい!」」」」


 嫌味に嫌味で返され舌打ちをした道康は、用は済んだと鷹藤家の仲間と共に去って行った。


「さて、私たちも帰りましょ!」


「「「「はい!」」」」


 仕事が済んだのは綾愛たちも同じ。

 そのため、仲間と共に本社に戻るために近く止めた車に向かって歩き始める。


「帰りに、この地域の美味しいものでも食べて帰りましょう!」


 車に乗りこんだ綾愛は、社内の仲間たちに声をかける。

 仕事も片付いたのだから、ゆっくり帰ろうという提案だ。


「おぉ! 良いな!」


「あぁ! あなたは次の仕事が待ってるから先に帰ってね」


「えっ!?」


 美味しい料理を食べて帰るという綾愛の提案に、伸も嬉しそうに返答しながら車に乗りこもうとする。

 そんな伸に対し、綾愛は手で制して車に乗せずに非情な言葉を投げかけた。


「マジで……?」


「うん。じゃあ、またね!」


 柊家の人気が上がり、魔物討伐の仕事はひっきりなしに入ってくる。

 転移魔術を使えることは柊家の人間の多くが知っているため、伸には色々な場所へ出張してもらっている。

 その強さから仕事の達成も速く、柊家の魔物討伐数は他の名家の倍近くになっている。

 それもあって、更に仕事が増えているため、伸に休む暇などほとんどない状況だ。

 妻とはいえ柊家の娘として、綾愛は伸に仕事に向かうように指示し、運転手に車を出発させた。


「ハァ~、予想外の状況だな……」


 綾愛の心配で助力に来たというのに置いてけぼりを食らった伸は、思わずため息を吐く。

 鷹藤家からの隠れ蓑だったはずが、いつの間にか外堀を埋められて柊家に婿入りすることになってしまった。

 別に今の仕事が嫌いなわけではないが、如何せん量が多すぎる。


「俺は高みの見物しているだけで良かったんだけどな……」


 高校を卒業したら適度な数の魔物討伐の仕事をこなして、ある程度の給料を得られれば良いと思っていた。

 何なら、魔物が大繁殖したり、魔人が出た時だけ仕事をしていれば、充分自分の役割が果たせると考えていた。

 しかし、蓋を開けてみれば、色々な場所に移動して討伐三昧。

 考えていた以上の仕事量に辟易するが、最近では魔物の出現数も減りつつある。

 あと何年かすれば、のんびりゆったり仕事してお金持ちという理想通りの生活になる事だろう。

 そう考えることで気持ちを落ち着けた伸は、次の仕事へ向かうため、その場から転移していったのだった。



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