第245話
「ハッ!!」
「っ!!」
俊夫と共に動き出した綾愛は、攪乱するように動き回り、オレガリオに向けた刀の先に集めた魔力で火球を放つ。
ソフトボール大の火球が、高速でオレガリオに迫る。
しかし、離れた距離からの攻撃のため、オレガリオは横に飛び退くことで難なく回避した。
「シッ!!」
「くっ!!」
オレガリオが回避した方向には、俊夫が待ち受ける。
上段から振り下ろした力のこもった攻撃に、刀で受け止めたオレガリオの表情が歪む。
受け止めたはいいが、俊夫の重い一撃に押し込まれそうになったためだ。
「このっ!!」
「っ!!」
そのまま押し込まれたら斬られてしまう。
そうならないために、オレガリオはバックステップをすることで俊夫から距離を取った。
「ハッ!!」
「ぐっ!!」
バックステップするのを見越していたのか、綾愛がまたもオレガリオに向かって火球を放つ。
着地する瞬間を狙われたこともあり、回避することは難しい。
そう判断したオレガリオは、刀で飛んできた火球を弾く。
ギリギリ躱したが、火が掠ったのかオレガリオの服の肩口が焼けた。
「セイッ!!」
「ぐうっ!!」
焼けた服に一瞬視線を移したオレガリオ。
その次の瞬間、またも俊夫が襲い掛かる。
俊夫が放った袈裟斬りを受け止め、オレガリオは後方へ数メートル弾き飛ばされた。
「くうっ……」
俊夫の攻撃を受け止めたことで手が痺れたのか、オレガリオは右手を軽く振る。
「……反応が鈍いな」
自分も綾愛も、伸によってこの数年でかなり実力を上げることができた。
特に綾愛の方は、このままいけばあと数年で自分を追い抜くことができるのではないかと思えるほどだ。
だからと言って、魔人の中でもかなり上位にいるであろうオレガリオを相手に、ここまで自分たち親子の方が予想以上に押している。
さすがにこまで上手くいくとなると、自分たちの実力が上がっているからだけだとは思えない。
単純にオレガリオの反応が鈍いのだ。
「どうやら魔人を呼び出すのに魔力を使いすぎたようだな?」
オレガリオの動きが鈍い理由。
それは、多くの魔人たちを転移させたことによる魔力の大量消費が招いたことだろう。
あれだけの人数を転移させたのだから、オレガリオにはかなりの疲労度が襲い掛かっている状態なはずだ。
そんな状態なら、動きが鈍くなっても仕方がない。
「綾愛と1対1なのに自分から攻めかからなかったのは、それよりも少しでも魔力回復を図るためだったんだな?」
1対1の状況なら、オレガリオから攻めかかれば、綾愛に怪我を負わせることなどそこまで難しくなかったはずだ。
そうすれば、柊家へダメージを与えることの目的は達成できたのだから。
そう考えると、綾愛と向き合っている時間、オレガリオが何もしなかった理由に思い至った。
それは、オレガリオが疲労困憊の状態だったからだ。
「……フッ! やはり柊家の当主は目敏いな……」
俊夫の言っていることは図星だった。
自分1人で遠くまで転移移動するだけならかなりの距離を移動できるが、多くの人数を移動させることの方がかなり魔力を消費する。
移動させる対象の重量が関係しているのかもしれない。
そのため、バルタサールを始め、大量の魔人を移動させた今はかなりの疲労を感じている。
はっきり言って、柊親子を相手に、ここまで大した怪我をしていないのは上出来な方だ。
「そうと分かれば、回復する間など与えるわけにはいかない」
疲労困憊の今なら、転移魔術で逃げることもできないだろう。
今後の世界のために、オレガリオに逃げられるわけにはいかない。
そのため、俊夫はオレガリオが回復する前に仕留めることに決めた。
「綾愛!」
「ハイッ!」
父の言葉に綾愛が返事をする。
呼びかけただけだというのに、まるで父が何を言いたいのか分かっているかのように綾愛はすぐさま行動する。
疲労困憊とはいえ、自分がオレガリオと戦うのは危険。
その考えから、父は魔術による援護することを求めているはず。
それに従うように、綾愛は準備をしていた。
いつでも魔術を放てるように。
「ハーッ!!」
「っっっ!!」
これまでのソフトボール大などではなく、今度はバスケットボールほどの大きさの火球を綾愛は放った。
しかも、1発などではない。
連続で3発の巨大火球が、超高速でオレガリオに迫った。
「ぐうぅーーー!!」
回避は不可能。
そう判断したオレガリオは、歯を食いしばり、火球を弾くことを決意する。
しかし、火球の1撃1撃が重い。
綾愛が放った火球の1つ1つを弾くたびに、オレガリオは後方へ押し下げられた。
「ハッ!!」
「ぐっ!」
何とか綾愛の放った火球を弾くことに成功したオレガリオだが、息を吐かせる間もなく俊夫が斬りかかる。
その袈裟斬りを、オレガリオはギリギリのところで受け止めた。
「フンッ!!」
「うっ!」
これまでと同じくらいの威力の俊夫の攻撃。
しかし、俊夫はそれを右手だけで放っていた。
そのため、もう片方の腕が空いている。
その空いている左手を使い、俊夫はオレガリオの脇腹に拳を打ち込んだ。




