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ブクマ+ご評価、ありがとうございます!(*^-^*)
温かい感想にも感謝しております~♪
マッタリ更新にも関わらず、お読み下さりありがとうございます!
(珍しく短期間投稿ですw)
心臓が脈打つごとに、靄のような異物感が細かく分散していくのが分かる。
(あ、つ……ぅ、っ……!)
体を丸め、腕を畳み、シーツに皺の渦を作りながら、わたしはひたすらに時が過ぎるのを待った。
(これ、は……悪い、ことじゃない……。わかる、……わたしの中の、何かが……そう、言ってる……)
全身の乾いた皮膚に突っ張ったような感覚が走り、気を抜けば、自分の中の確信が薄れてしまいそうになる。大丈夫……と本能で感じていても、この現状はわたしにとって未知の出来事に変わりない。経験のない過程の果てに待つ未来のことを、どうして無防備に手放しで安心できようか。
湧き上がる不安と恐怖。
自分を信じろと叫ぶ理性と希望。
その二極の狭間に圧し潰されそうになる気持ちを抱え込むかのように――わたしは、ギュッと両手を胸元で握りしめた。
乾いた木材がひび割れるかのような、パキ、パキという音が生じる。
そのたびに痛みが脳にちょっかいをかけてくることから、その音の出元が自分の身体だということが分かる。
でも、その音の理由は知りたくない。
知ってしまえば、一気に気持ちが堕ちてしまい、わたしはわたしで居られる自信が無いから――。
だから現実を目の当たりにしないよう、目を瞑る。
全ての音は雑音であると、思考から切り捨てる。
蝕む痛覚は筋肉痛の類だと、己を誤魔化す。
全て全て、全て――この時を埋め尽くす事象が時と共に過ぎ去るその瞬間まで――。
(~~~~~………ッ!)
はっ……と、わたしの口から空気が漏れる音がした。
きっと口の中に溜め込んだ空気が漏れてしまったのだろう。その後は規則正しくも浅い呼吸音が続いていた。
その呼吸音が……やけに懐かしくて。
わたしはその違和感に導かれるようにして、瞼を開いていった。
窓から差し込む日差しが温かい。……温かい? 温かい、という感覚は……こんなにも長閑な気持ちにさせてくれるものだっただろうか。
ベッドに触れる腕から伝わる、柔らかいシーツの感触。森の中、落ち葉や枝が敷かれていた土の上で寝ていても何も感じないほど、感覚が麻痺していた腕から……感触が返ってくる。いや、違う……感覚が麻痺していたというより、激痛でそれどころじゃなかったのだ。それが今は……劇的に緩和されていた。
指先を動かしてみると、きちんと関節が稼働しているのが分かる。軋みはなく、滑らかに指先が屈伸の動きをしてくれる。
「………………っ」
これは夢?
思わずそう呟きたくなるけれども……わたしはこの結末を知っていた。わたしの中に眠る力が知っていたのだ。さっきまでは怖くて半信半疑だったけれど……これで、ようやく100%の確信へと至ることができた。
(そう……あの、飴は)
あれは間違いなく"毒"であった。
人どころか、大型の動物ですら殺めてしまうほどの猛毒。
でも――"毒"ではあるけど、"毒薬"ではなかった。
あの飴は、指向性を持っていないのだ。
人が手掛ける"毒薬"とは目的があり、それに沿って調薬されて初めて"毒薬"と呼べる。用途と目的から逆算されて生み出された死の薬こそが……"毒薬"なのだ。
それがあの飴にあったかと問われれば、答えは「違う」だ。
あの飴は確かに生物に死をもたらす"毒"であったけど、それはどちらかというと偶然の産物に近かった。……滅茶苦茶なのだ。ありとあらゆる薬や劇物を思いつくだけ混ぜ合わせた末に生まれた固形物――故にそこに用途も目的も存在せず、有象無象を混合させるという過程から生じた結果……それが"毒"だった、というだけのこと。
だからこれは、"毒薬"ではなく"毒"と言う他ならない。
誰かが誰かを殺めるために作られた"毒薬"ではなく、そういうモノを作るために生まれた結果が"毒"だった、というだけの話。
(わたしは……それを理解できる……?)
あの飴について、ふと思いついた言葉を並べたら、いつの間にか今までの自分では到底思いつかないであろう単語が、思考の中で連なっていた。
(そう……きっと、これが、そう……なのね)
あの飴を体内に取り入れ、深くは覚えていないけれど――<体内精製>が確実に行われた。森の中でも幾度と経験した<体内精製>。喰らい、分解し、吸収し、整理し、精製する……謎の力。それがあの飴にも行われたのだと思う。その過程で、飴がどういったモノで構成されていたのか、知ることもできたのだろう。
視神経を意識すれば、既に今回の一件で体内に取り込んだ成分と同等のモノを、色で探知できそうだ。今回の一件で、その"幅"が広がったことも、なんとなく理解できた。
(ま、ますます……自分の身体がどうなっているのか、怖くなってきちゃった……)
御伽噺にもここまで生き意地の張った登場人物は存在しないだろう。森に棄てられ、生きたいと強く願ったわたしだけど、同時にあまりにも荒唐無稽な奇跡を手にした気分で、かなり落ち着かない。
(とりあえず……な、何か言った方がいいよね?)
あえて気付かないフリをしていたかったけれど、そうもいかないのは分かっている。
突き刺さるほどの視線を3点、この身に受けていることを自覚しながら、わたしはゆっくりと上体を起こしていった。
視界に映り込む腕は、まだ細い線のような跡が残っており、折れそうなぐらい貧弱だ。でも――それでも、生けとし者を証明するかのように……そこには確かに肌色が戻っており、くすんだ死人のような皮膚は消失していた。
目尻に涙が浮かぶ。
震える手を支えに、なんとか上体を起こし切り、わたしは湖の水を飲んだ時よりも鮮明に色づく世界を見据えながら……唖然とこちらを見ている男性方へと視線を移した。
「クラリア……君は――」
先に言葉を発したのは、まだ迷いを胸に抱くわたしではなく、綺麗なサラサラの金髪と藍色の瞳が特徴的な青年だった。
――何故か、まだ名乗っていないはずのわたしの名を声に乗せながら、青年は瞬き一つせずにわたしを見つめていた。




