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病魔と神聖巫女の境界線  作者: シンG
第一章 廃棄令嬢
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ブックマーク、ありがとうございます!(*´▽`*)

ビックリするぐらい更新遅くて、本当にすみませんm( _ _ )m


いつもお読みくださり、ありがとうございます!!

「バージル、そちらは?」


 小屋の正面に回り込んだところで、木製の扉が開き、中から大柄な騎士が姿を見せて声をかけてきた。その声色はやや警戒を帯びており、肌が痺れるような雰囲気にわたしは思わず肩を震わせてしまった。


 おそらく、先ほど女の子を小屋の中に連れて行った金髪の青年と共にいた騎士、だと思う。


「ああ、団長……丁度よかった。こちらの御方が裏手の湖に足を滑らせてしまったようで。まずは拭くものなどをお貸ししたいと思ったのですが」


「湖だと? なぜそんな場所で――」


 そこで数秒の間、会話が途切れる。


 不自然な空白に、わたしは思わず顔を上げそうになるが、その前に団長と呼ばれた男性が言葉を紡いでしまう。


「――分かった。タオルを用意してこよう。既に暖炉に薪は入れてあるから、客間で休ませるといい」


「ありがとうございます」


 横でバージルと呼ばれた騎士が小さく敬礼をし、わたしの手を軽く引いて小屋の中へと案内していく。団長さんはわたしから少し離れるようにして扉付近の壁側に避け、わたしたちに道を譲ってくれた。


(距離は離れたけど、視線は強くなった気が……する。うぅ、居心地が最悪だよぅ)


 団長さんの不可視の威圧にビクビクと身をすくめながらも、バージルさんの指先だけを頼りにわたしは小屋の客間までエスコートされていった。


 バージルさんが客間に案内してくれた時間に、団長さんがタオルを何枚か用意してくれたようで、なんだか至れり尽くせり、と言った感じだ。


 少しだけ伯爵家の侍女たちのことを思い出した。


 伯爵令嬢とはいえ、愛情の無いあの家では世話はしてくれても世間話をしてくれる侍女はいなかった。なのであの家での生活はどこか無感情で虚ろな空気が漂う嫌な空間だったのだが、この小屋の空気も負けず劣らずで、ピリピリと騎士から無言の緊張感が張り詰めていて、どちらも肩身の狭い場所であることは間違いないようだ。


(あの女の子も……この小屋にいるんだよね)


 予期せぬ流れで小屋の中に立ち入ることになったわけだが、それならそれで、あの女の子の所在が気になってくる。


 でもそんなことを騎士に聞けば、当然「なぜそんなことを知っている?」から始まって、覗き見していたことがバレれば「何が目的だ!」と尋問を受けるに違いない。


「さ、これを」


「あ、ありがとう……ございます」


 団長さんが大きめのタオルを柔らかそうな長椅子の座部に敷き、その足元にも別のタオルを敷いた。そして腕に抱える最後のタオルをわたしに差しだしてきたので、わたしはおずおずと御礼をいいながらそれを受け取った。


「ここに、女性用の服を置いておきます。平民が着衣する簡易的な無地の服ですが、着心地は悪くないと思いますので」


「は、はい」


「体を拭き終え、着替えられましたら、このベルでお呼びください」


「わかり、ました」


 わたしの嗄れた返事にも眉一つ動かさず、精悍な顔立ちの団長さんは静かに貴族に対する礼をして、部屋を後にしていった。


 いつの間にか窓辺のカーテンを閉めてくれていたバージルさんも丁寧にお辞儀をして団長さんの後を続いていった。


「…………」


 ポツンと取り残されたわたしは数秒だけ固まってしまったが、ハッと現実に戻り、慌てて貸してもらったタオルで髪を拭き始める。


 団長さんが座っても家具が濡れないようにタオルを配置してくれたため、わたしは長椅子に腰をかけながら、ゆっくりと身体を拭くことができた。


 水面に映る自分の身体を見たものの、こうして手で意識して触れるのは初めてだ。見た目通り骨と皮だけのような二の腕を拭くと、ゴツゴツと固い感触がタオル越しの指先から伝わってきて、女として悲しくなってきた。


(過ぎた願い、なんだろうけど……この身体もいつか、元通りになったら嬉しいな)


 崩王病に罹っていながら生き長らえている時点でも奇跡なのだ。それ以上を求めるというのは贅沢な気がする。


 でも……このまま生き長らえて、その先は?


 わたしは何を目指したらいいのだろうか。


 伯爵令嬢だった頃は、仮に政略結婚の道具としての身であり、お相手の方も同じ考えで契りを迎えたとしても――相手の気持ちを尊重し、いつしか真の愛情を交わせる仲になり、笑顔が絶えない温かな家庭を持ちたいという儚い夢もあった。


 今のわたしには到底無理な話だ。


 ではわたしは何を目標に生きればいいのだろうか。


 分からない……なにも分からない。


 森に放り出されてから初めて人と出会ったせいか、わたしの思考はがむしゃらに生きようとする段階を乗り越え、次の段階――生きる指針を見出そうとしているみたいだった。


(なんだろう……どっと疲れが出てきちゃった)


 ふと体を拭く手が止まっていたことに気付き、わたしは緩慢な動きで再び手を動かした。


 閉じられたカーテンにより、やや薄暗い部屋の雰囲気は……まさにわたしの心象を表しているかのような気がした。



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