約束していた年賀状だが、膝に矢を受けてしまってな
旅の途中で立ち寄った小国。
良心的な通行料を支払うだけで入国が許可された。
冒険者は厄介者、歓迎されない国が大半なのだが。
武器防具を装備したままで素通り、これは異例だ。
つまり……噂ではなく、本当に魔王に狙われているのか?
「おい待て! そこのお前」
到着早々、衛兵に呼び止められた。
値踏みするような鋭い視線。年末で物入りな時期、言い掛かりをつけて小遣い稼ぎって魂胆か。思わず舌打ちしたが罰金よりは安上がり。少々握らせて追い払おうとした、その時だった。
「その顔、見覚えがあるぞ」
なんだって?
冒険者稼業は半分盗賊。心当たりが無くても先方様は恨み骨髄なんてことはザラだ。知らぬ間に指名手配されていたか?
慎重にナイフへ手を伸ばしていく。
が。
鈑金兜を脱いで「フデマメだよ、覚えてるか?」と笑顔を覗かせた。名は初耳だが見覚えがある。数年前まで、墓荒らしや迷宮探索で何度か顔を合わせた同業者。さりげなくナイフから手を離し、握手した。
「故郷で家業を継いだが、人手不足で。色々と借り出されて窮屈な生活だよ」
寂しい瞳で笑った。
引退していたのか。
「昔はお前のように冒険者だったが……膝に矢を受けてしまってな」
賢明な判断だ。
膝を壊すと、速度と威力を奪われる。
冒険者を続けていたら、次に落とすのは、命だった。
「だが、探していた宝は手に入れた」
本人は満足そうに「あれで家族が助かると良いが」と独りごちて腰袋を探り、「丁度良かった」と紙片を取り出した。
フデマメの探し物に興味は無いが、自由と引き換えの衛兵暮らしで、家族を救えるなら上々だ。
己より家族を優先する者は多く、それより多く喪った姿を見てきた。
「出しそびれていた、約束の年賀状だ」
他愛の無い話題に出ていた。
用件を直接書く、官製葉書。
謹賀新年?
「いまさら年賀状、か? だが、この体では……な?」
疎遠になっていた釈明。
同意を求められても困るが……いや、待てよ?
目的の宝を手に入れたら連絡、そんな約束だった。
「投函しようにも、膝に矢を受けてしまっては、な?」
が。
どう考えても膝と年賀状は無関係。
さっきもピンシャン歩いてただろ。
「今夜は1杯奢ろう。渡したい物もある」
年始の挨拶、そんなに大事?
酒を振る舞うほどのことか?
ここは……城?
衛兵だ、城の警備もするのか。
酔っぱらってても、大丈夫か?
夜の城内に俺がいて良いのか?
「よく来た、勇者よ。歓迎する」
「あんた、王様やってんのか!」
「この鍵を託そう」
なんだこれ。
「鍵? あ~、鍵! 思い出したフデマメこれ魔王城の鍵だな?!」
「これを使って、我が宝、私の娘を、悪魔の儀式から守って欲しい」
あれが、膝をダメにした家族。
メッチャ可愛い~!!
ん?
「家族って、お姫様じゃねぇか!」
「どうだ、やってくれるか? 勇者ケツプリン丸よ」
「はい、お引き受けいたします」
「ああ、ケツプリン丸さまっ!」
「っていうかさ? どこのどいつだ、変なあだ名つけた奴ッ!!」





