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前戦


朝起きると唯さんはもう居なかった

いつもなら居る時間に居ないのは少し不思議に思った、買い物にでも行っているのだろうか

そんなことを考えていると父さんの車が来たのでそれに乗って会場に向かった


「なぁ純平、お見合いって言ってもそんなに緊張しなくていいからな」


父さんは珍しくそんな優しい言葉をかけてくれた

だけど俺はそんな気遣いの言葉を右から左に流していた

理由は朝唯さんに送ったメッセージがまだ既読がつかないからだ

いつもならすぐに既読がつくのに今日は何故かつかなかった

チラチラスマホを確認するのは少しおかしいと思うけど、それでもなぜか怖くなってしまい五分に一回ほどの短いスパンでスマホを確認してしまう


「そんなに時計見なくても、もうすぐ着くぞ」


今日の父さんはやけに優しかった

俺がずっとスマホを確認してるのをどれぐらいで着くのか確認しているのだと思ったのだろう

だけどその優しさが逆に怖かった


「わかったありがとう」


脳の反射のような形でそう答えた


少しすると庭園がある、大きな家が見えてきた


「会場ってあそこ?」


さっきまで別のことを心配していたのが嘘かのようなほどこれからお見合いなのだということが急に質量を持って眼の前に迫ってきたような感覚があった


「あぁ」


父さんは車をその家の敷地内に停めた

父さんが車から降り続いたように俺も降りた

スマホの通知音はまだ鳴らなかった


呼び鈴を押すと中から父さんと同じ歳ぐらいの背の高い男の人が出てきた、多分180センチぐらいだろうか


「こんにちは、今日はよろしくお願いします」


父さんが頭を下げた

俺からすると【お見合い】というのは音だけ知っている言葉だった

雰囲気も、場所も、しきたりも、何も知らない

多分こういうもので、もう始まっているのだろう

俺は流れに身を任せるようにまた父さんのあとに続いた


「どうぞこちらへ」


そう言われ家の中に通された

失礼だとわかっていながらも横目で家の中を色々見てしまう

家の造りが和だったように部屋も、置いてある物も和だった


「それでは私はこのへんで」


背の高い男の人はとある部屋の前でそう言うと来た道を引き返してしまった

ということは多分この部屋の中に相手がいるのだろう

不思議と緊張は解けていた

何故か頭の中は唯さんのことでいっぱいになっていた

これから人と会うのにそれでは良くないと思い一度深呼吸をした

息を整えそのドアをノックした


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